2004.04.13
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

規制緩和で生まれる、株式会社経営の学校

日本道路公団の総裁更迭など、「よくやっている」「まだまだ手ぬるい」と賛否両論のある小泉内閣の構造改革だが、教育分野にもその影響は及んでいる。総合規制改革会議は、従来は株式会社の参入が禁止されていた教育・医療・福祉・農業の分野について、規制を緩和する方向を打ち出した。

■教育特区が続々認定

 具体的には、従来は国・地方自治体・学校法人だけに許されていた学校の設置を、教育特区と呼ばれる地域で株式会社・NPOにも認める、というものだ。教育特区の受付は2002年8月より始められ、英語による小中一貫教育や不登校の子どもたちのための学校など、ユニークな提案が多数提出された。その中でも株式会社やNPOが設立する学校の提案が多かったため、文部科学省も設立を認める方針を決定した。

 一例を挙げると、東京都千代田区には株式会社の東京リーガルマインドが単科大学を設置する。そこでは一般教養を学ぶとともに、法曹、司法書士、弁理士、公認会計士といった資格取得を目指した科目を受講できる。これまでこうした資格を取得するためには、大学と専門予備校のふたつに通わなければならなかったことを考えると、入学希望者は少なくないだろう。

■賛否両論あり

 このほかにも、さまざまな対象を設定した学校が特区を申請しているわけだが、株式会社やNPOが学校を設置することに対しては批判的な意見が少なくない。そもそも教育は国など公共の機関が行うべきで、利益を追求しない学校法人は別にして、利益の追求を本質とする株式会社は教育になじまないという意見が最も多い。また、会社が倒産や規模縮小を余儀なくされた場合、学生はどうなるのか、株主の意見によって教育方針が安易に変更されるのではないか、収益の低い分野は軽視されるのではないか、という意見もある。

 しかし、賛成の声も多い。基本的なものは、株式会社が参入することによって学校間の競争が激しくなり、教育の質が向上する、という意見だ。また、規制緩和によってこれまでにない独自な教育方針が可能になる、現在の教育では対応できない分野にも対応できる、という利点もある。会社形式になれば、株主や市場評価によってコスト削減ができる、ということもある。私学はこうした動きにいっせいに反発しているが、利益を追求しないはずの学校法人の会計が不透明で、それに比べれば会社にして会計を全面公開した方がずっといい、という意見もある。ちなみに、株式会社が設立する学校には、私立のように助成金は支給されない。

■初の株式会社立中学校が誕生

 こうした動きの中、今年の4月に岡山県御津町の御津町教育特区に、株式会社朝日学園が設置する「朝日塾中学校」が開校した。同校は廃校になった小学校を活用して校舎とし、株式会社が設置する初めての中学校になる。株式会社朝日学園の母体は学校法人朝日塾で、これまで幼稚園、保育園、小学校、学習塾を運営してきた。朝日中学校では学習指導要領にとらわれない独自の教育課程をもち、公立中学校の約1.4倍の授業時間を設定、ディスカッション科という日本で初めての科を新設する。また、株式会社は利益追求型、という批判に対しては、利益の全額を地方自治体に寄付する条項を定款に盛り込んだ。またつい最近、「合格保証制度」を新たに導入した。これは同校が保証した高校に不合格になった場合、学校が責任を取り中学3年間の授業料を返還する、というものだ。

 このように話題の絶えない株式会社朝日学園の代表取締役で、学校法人朝日学園の理事長である鳥海十児(とりうみみつじ)さんに話を伺った。

----どうして学校法人ではなく、株式会社なんでしょう?

これまで学校法人という形で学校経営をしてきましたが、法人ではなにかと規制が多いので、株式会社形式にしました。そのため学習指導要領に縛られない、授業態勢が可能になりました。その反面、助成金を受けられないのがデメリットになります。株式会社は利益追求だから教育にはなじまない、という批判は知っています。うちの場合便宜上株式会社という形式にはなっていますが、真に学校法人だと思っています

----合格保証制度を取り入れた理由は?

受験をする子は、受験が近づくと心が穏やかでなくなり、実力を発揮できないことがあります。そんな子供たちに、安心して受験してもらうためにつくった制度です。もちろん、学校が合格を保証するということで、教員の質の向上もねらっています

----株式会社だと経営が行き詰まった場合、生徒の行き場がなくなる、という意見もありますが。

事業を始めるに当たって、失敗すると思って始める人は誰もいません。うちは(学校法人としての)実績もあるので、うまくいくともちろん思っています。それでも万が一、学校経営がうまくいかなかったとしても、あるレベル以上の生徒を選んで入学させているので受け入れ先はいくらでもあると思うし、そのための努力は惜しまないつもりです

 朝日学園の場合は、学校法人としての実績があるので、特別なケースかもしれないが、規制緩和の機会をとらえて独自の路線を打ち出したことは評価できるだろう。しかしこの先規制緩和の動きがさらに進めば、教育よりは利益の追求を重視する株式会社経営の学校が誕生するとも限らない。その場合、既に挙げたような問題点が現実のものになる可能性も十分考えられる。

 今回の教育界への株式会社参入容認の動きは、学校選択制などと同様、教育の世界に競争原理を導入することを意味する。いい意味での競争が進むことによって教育の質が向上することは期待できるが、その反面、消費者の選択肢が増えた分だけ責任も大きくなることを忘れてはならないと思う。特に教育の分野では選択の間違いが大きな損失につながるだけに、教育を受ける側の慎重な態度が求められていくだろう。

執筆:長橋由理 イラスト:Yoko Tanaka

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop