2003.12.09
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変わり行く塾の役割 学習塾と上手に付き合うために

ここのところ、徐々に下降傾向にある通塾率。一時期のブームは去りつつあるとも考えられますが、「それでも塾に通わせる」という親は健在のよう。一方で、学校5日制や総合学習の受け皿として、活動範囲を広げる塾も増えてきています。これから、塾はどう変わっていくのでしょうか。

■陰りの見え始めた、通塾率の推移

 文部省が1976、1985、1993年に調査をした、通塾率の調査結果があります(下図)。それによると通塾率の変化は、小学生の平均で26.6%→16.5%→23.6%、中学生の平均で38.0%→44.5%→59.5%と着実な伸びを見せています。
「児童・生徒の学校外学習活動に関する実態調査」 「学習塾等に関する実態調査」より

「児童・生徒の学校外学習活動に関する実態調査」 「学習塾等に関する実態調査」より

1993年を取り上げてみれば小学生の約4分の1、中学生の6割が塾に通っていたことになるのですから、学習塾がどれだけ教育の現場に浸透しているかがわかるというものです。 

 ではその後通塾率はどのように変化していったのか。同じく文部科学省が1994年から2000年まで2年ごとに行った調査があります。(「子供の学習費調査」)

 この調査結果を見てみると、中学ではそれほど大きな変化はないものの、小学校、高校においては、1994、1996年あたりをピークに、通塾率が徐々に下降傾向に入ったことがわかります。

 通塾率が低下しはじめた理由はいろいろ考えられますが、長引く不況の影響で、子供を塾に通わせるだけの余裕がなくなってきた、というのが最も大きな原因であることは間違いなさそうです。

 少子化の影響でこれから先、塾に通う対象になる子供の数は減少していきます。それに加えて通塾率も低下していけば、塾に通う子供の絶対数が少なくなっていくことは明らかです。これから先、塾の経営者達は減少していく子供を相手にどう経営を成り立たせたらいいのか、知恵を絞っていくに違いありません。

 また、私立は中高一貫教育のところが多いので高校の数字に注目すると、私立は多くの場合、エスカレータで高校に入れるにもかかわらず、公立よりも私立のほうが通塾率の高いことがわかります。ということは、子供の教育にお金をかけて私立に入れている親は、さらに子供を塾に通わせる比率が高い、ということです。こんなことから、通塾率は下がっていくものの「それでも塾に通わせる」という絶対的な層がいて、「公立、塾に通わない」「私立、塾に通わせる」といった二極分化が進むと思われます。

■何のために塾に通うのか?

 社団法人日本学習塾協会が行った「全国教育白書アンケート」という調査の結果があります。

 この結果を見ると、塾に通うことに対する、親と子の見方の違いが一目瞭然でわかります。特徴的なのは、「なぜ塾に通っているのか(通わせているのか)」という質問に対する答えです。子供の57%が「勉強ができるようになりたいから」で「親にいわれたから」は13%しかいないのに対し、親の44%が「受験や進学に備えて」、20%が「学校の勉強ができるようにしたいから」、23%が「本人の意思で」と回答しています。

 つまり、子供たちは自分の意志で「勉強ができるようになりたいから」塾に通っているのだと答えているのに対し、親は「子供の意志」ではなく、「受験や進学のため」に塾に通わせている、と考えていることがはっきりわかります。

 なぜこのような対照的な回答が出てくるのか。これは想像ですが、親に「学校の授業だけでは勉強ができるようにならないから塾に行きなさい」といわれ続けているうちに子供が、「自分は勉強ができるようになりたいから塾へ行くんだ」と思い込むようになったからではないでしょうか。このことから、「子供を塾に行かせるかどうか、どの塾に行かせるか」ということに関しては、親の決定権が大きいことがわかります。

 同社団法人のホームページではほかにも、「週休二日移行に関するアンケート」の結果なども掲載されていて、いろいろ参考になります。
 これなどを見ても、「できれば勉強をしないで遊びたい」という子供の姿と、「遊びよりはもっと勉強をさせたい」という親の姿が浮き彫りになっています。

■塾の活用をねらう文科省?

 文部科学省(旧文部省)の塾に対する態度も変わってきています。その昔「受験戦争」という言葉が新聞をにぎわしていた頃には、当時の文部省は塾の存在そのものを良く思ってはいませんでした。これは新聞で読んだ話ですが文部省の官僚とある塾の経営者との間でこんな会話があったそうです。

「どうして塾なんてやっているんですか?」
「塾を必要とする人がいるからやっているんです」
「必要な人がいるから売る、というのなら、武器商人と同じですね」

 つまり文部省としては、塾の存在自体を学校教育が不十分であることの証拠として、いわば必要悪として見ていたところがありました。しかし最近ではその考えも変わってきています。

 学校5日制は子供の教育を学校だけに限らない、という立場の上に成り立っています。教育の場を地域社会まで広げて考えたとき、地域の学習活動に塾の講師が参加する、ということも充分に考えられます。また、「総合的学習の時間」の問題もあります。文科省は学校5日制で生まれた余裕を総合的学習の時間で埋めようとしていますが、現実問題として内容のあるカリキュラムが準備されていないのが実状です。そこへもし、たとえば「野外活動」や「社会体験」のカリキュラムを持った塾が進出してきたら、逆にそれを積極的に利用して、総合的学習の時間を充実させようと考えています。
 たとえば、実際に、静岡県焼津市にある早稲田学院では、月に2、3回、カヌー教室、そば打ち、キャンプなどの活動を行っています。当初、引きこもりや不登校児を対象に始めた活動だったのが、学校5日制導入にあたり県教育委員会からの要請もあり、NPOの別団体を作って活動内容を拡充したと言います。参加者は塾生と一般の児童が半々ぐらいで、参加者からの評判もよく、早稲田学院では今後も内容をさらに充実させていきたい、ということです。

■風潮に流されず自分の立場を明確に

 このように、塾をめぐる状況は大きく変わりはじめようとしています。塾の経営者にしてみれば少子化は切実な問題ですから、従来の学習塾以外に、内容の多様化を図ることが考えられます。これまで主流だった、受験・進学用の塾、学校の授業補完型の塾だけでなく、英会話やパソコン、趣味の分野にまでその対象は広がっていくかもしれません(ちなみに、(社)全国学習塾協会が行ったほかの調査によれば、親が子供に土曜日塾に行って習わせたい内容のトップは英会話とパソコンでした)。野外活動や社会体験といった、本来総合的学習の時間が受け持つはずだった内容にも塾が進出してくることでしょう。

 そうなってくると、これまでのように「うちの子は進学するから塾へ」、「うちの子は学校で十分なので塾はいらない」というような単純な話ではなくなってきます。けれども、選択肢が増えることは迷う要素が増えたと同時に幅広いものの中から選択できる可能性が増えたことでもあります。これから塾が多様化していく中で、自分の子供には何が本当に必要なのか(あるいはそうではないのか)、世の中の風潮に惑わされず、冷静に考えて判断することがこれからの親には求められていくでしょう。

執筆:長橋由理 イラスト:Yoko Tanaka

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