2003.10.07
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「少年法改正」で少年犯罪は減るのか

また日本中を震撼させる事件が起きました。長崎で4歳の子どもが殺害され、その加害者が12歳の少年だったのです。 ここ数年、神戸市の児童連続殺傷事件、西鉄高速バス乗っ取り事件、大分県の一家殺傷事件など凶悪な少年犯罪は、特異な事件として社会に大きな衝撃を与えましたが、いまだに後を絶ちません。 相次ぐ少年犯罪の原因ははっきりとされていませんが、このような事件で必ずコメントされるのが、「少年法の改正」。今回は、「少年法」という点から少年犯罪を見ていくことにしましょう。

 少年法は、2000年にいったん改正法案が通過しましたが、いままたさらなる改正の必要性が取りざたされています。
 今回の争点はいろいろありますが、中でも社会的な関心が高いのが、

1.現在14歳以上となっている刑罰対象年齢の引き下げ

2.14歳未満に対する警察の捜査と裁判、そして処分

ということではないでしょうか。

 少年犯罪の多発を受けて設置された「少年非行対策のための検討会」の論議を踏まえ、この10月にも青少年育成施策大綱が策定される運びになっています。それに先立って、つい先月、防災担当相の鴻池祥肇青少年育成推進本部副本部長から、報告書が提出されました。
 この報告書から、上記の2点をみていきたいと思います。

●刑罰対象はさらに引き下げられる?

 2000年の改正法案で、刑罰対象年齢がそれまでの16歳から14歳に引き下げられました。それが、昨今の年少者による凶悪犯罪の発生によって、さらに引き下げられるのかどうか、というところに関心が集まっています。たとえば、読売新聞西部本社の電子メールを使ったアンケートの結果では、責任能力に関しては厳しい見方をする人が多く、76%が現行法では刑事責任を問われない14歳未満でも責任能力はあると考えています。また、「14歳未満なら凶悪犯罪を起こしても、処罰より更生の可能性を優先すべきだ」と答えた人は24%にとどまっています。

 これらの意見に対して報告書では、14歳よりも下に刑罰対象年齢を引き下げることについては「事件への対処が十分であれば必要性は少ない。少年犯罪は14-17歳が中心であり、触法事件への対処が十分であれば刑事責任年齢の引き下げの必要性は少ない。少年の精神的な成熟度などを含めた根本的かつ冷静な議論が必要だ」としています。少年法適用年齢についても同様の見解です。

 少年犯罪に詳しいある弁護士さんはこれに対して、「刑法の対象となる年齢を引き下げるという少年法の改正によって、少年犯罪が減るのかというと、そういう実例は世界中のどこにもありません。たとえば、アメリカでは少年犯罪に対して厳罰主義で臨んでいるのですが、その効果はないといったほうがいいのです。イギリスやドイツ、韓国などからも反省や疑問点が多く挙がっています」とコメントし、この点に関しては、今回の報告書を評価していました。

●少年に対する警察の捜査は?

 もうひとつ、改正について大きな議論になっているのが、少年に対する警察の捜査の仕方、裁判の仕方、さらには処分の妥当性という点です。

 現行では、14歳未満の子供が罪を犯すと、警察で事情を聞いて書類を作り児童相談所に送ります。児童相談所は子どもについての心配事を扱う所で(親による子どもの虐待の問題なども扱います)、親を呼んで子どもの育て方などについて指導をしたり、場合によって児童自立支援施設という施設に送ったりします。14歳未満の子どもの行為は、「犯罪」として扱わない、と法律で決められているためです。

 ただし重大事件などの場合、児童相談所から家庭裁判所に送ることもあります。家庭裁判所では、14歳以上と同じ審判を受けます。裁判官は調査官の調査の内容や意見を参考にし、また少年鑑別所の意見も参考にして最終的な処分を決めますが、裁判や調査は非公開、少年の名前も写真も一切公開されません。それは、その子どもの立ち直りをできるだけ支援するという考え方に立っているからです。また処分としても少年院や刑務所にいくことはなく、児童自立支援施設等へ送られることになります。

 報告書は、刑事責任が問えない14歳未満の少年犯罪でも、警察が十分な捜査、あるいは捜査に準じた調査を行い、事実を十分認識させることが罪を認識させることにつながるとしています。

 さらに再犯防止策として、14歳以上となっている少年院への入所年齢の引き下げを提起するとともに、少年に対する教育効果や犯罪抑止効果の観点から少年院での処遇を強化する方針を打ち出しています。さらに、保護処分執行の過程で、家庭が崩壊している場合は保護措置として家庭への介入、あるいは補導活動の強化や社会奉仕活動を命じる仕組みを考えるべき、ともしています。

 家庭裁判所の審判結果は被害者側を除いて原則非公開ですが、再発防止策を講じるには犯行に至った経緯などの情報開示が欠かせないとの指摘があります。また、犯罪被害者の気持ちに配慮した少年法の運用と、加害者の謝罪の段取りづくりも家庭裁判所に求められています。

●子供を犯罪者にさせないために

 もうひとつ、このような事件がおこると必ず取りざたされるのが「親の責任」です。先の長崎の事件に至っては、加害者の少年の親を「市中引き回しの上、打ち首」などという現職閣僚の発言さえありました。
前述の読売新聞の調査でも、「少年犯罪の原因は家庭にある」との回答は67%。また、「14歳未満の少年の場合、保護者に何らかの責任を負わせるべきか」との質問には、63%が「負わせるべき」としています。

「原因が家庭にばかりあるとは言えないが、犯罪を回避するために最も効果的な働きかけができるのは家庭だ」(50代男性)

「まず、第一に親、次に教師が命の尊さを感じているのか、と疑問に思うことがある。そんな大人に囲まれて育った子供がどうして、命の尊さを理解できるだろうか。報道も悲惨な事件ばかりを大きく取り上げていて、子供はそれが日常のことであるように錯覚してしまうのでは」(30代女性)

などという意見もありました。

 確かに少年犯罪は、少年がその時になって急に犯すものではなく、成長の過程で人間関係を作っていく能力が欠如していたり、自分を表現するコミュニケーション能力が欠如していたり、あるいは人の痛みや悲しみ、喜びに共感できる心が欠如していたりするところから引き起こすものだと思われます。

 その点において、親は子どもを育てる責任がありますが、しかし、親だけでは子どもは育ちません。
今欠けているのは、子どもたちが地域の大人と出会う機会がないこと。「地域とのふれあい」というお仕着せの付き合いではなく、大人の生き方をみて、子ども自身が感動したり、興味をもったりすることがなくなってしまっているのです。

 一方で、積極的に地域の活動にかかわれる人はいいけれど、人とかかわらない親子を地域がどう受け入れていくかも問題です。ただ「地域にコーディネーターを配置せよ」というだけでは、人とつながっているという実感のある生活ができる地域をつくっていくことにはなりません。

 子どもと大人がかかわれる環境が地域に作られれば、少年の凶悪犯罪の問題も少しずつ解決のきざしが見え始めるのではないでしょうか。

 罪を犯した少年の個人像を掘り下げていくことに労力を費やすのではなく、これから教育現場・家庭・社会で子どもに対してどのように深くかかわっていけばよいか、それができるような環境を作るのには、社会制度はどう変わっていかなくてはいけないか、ということを考え、変革し続けなくてはいけないのではないかと思います。

執筆:長橋由理 イラスト:Yoko Tanaka

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