2003.06.10
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学力向上フロンティア事業

学力向上フロンティア、という事業をご存知でしょうか。文部科学省において、児童生徒の「確かな学力」の向上を目指し、平成14年度から3年間の予定で実施されているものです。拠点校が1地域36校と少ないこともあって、どんな内容でどこまで進んでいるかがとても気になるところ。そこで、実施している小・中学校にアンケートをとって、その成果を聞いてみました。

●2年目を迎えたフロンティア事業

 学力向上フロンティアスクールとは、新しい学習指導要領がねらう子供の「確かな学力」向上のための総合的施策のひとつです。
 個に応じた指導方法や指導体制の工夫など、児童一人ひとりの実態に応じたきめ細かな指導を充実させるための実践研究をして、その成果を全国すべての学校に普及することをねらいとしています。
 初年度の平成14年度は、全国で805校が地域の核となる「学力向上フロンティアスクール」に指定され、2年目の今年は、事業の一層の推進を図るため、ほぼ倍増の1623校が指定されました。

 フロンティアスクールの役割は、大きく2つ。一つは、「子ども一人一人に応じたきめ細かな指導をより充実させるための実践研究を進めること」、もうひとつが、「積極的に実践研究の成果の普及に努めること」です。
 実践研究には、「教材開発」「指導方法や指導体制」「学力の評価方法」などがありますが、これは実際の例を見たほうがわかりやすいかもしれません。
 先日、実施したアンケートからいくつか例を挙げてみましょう。

●どんな研究をしているの?

 アンケートは小学校27校、中学校19校からご回答をいただきました。対象教科に関しては、小学校では基礎学力としての算数、国語の時間をこれに充てている例が多く見られました。中学校になると英語を挙げる学校もあり、16件が対象にしていると答えています。総合学習の時間を充てている学校も7件ありました。ただ、どの学校も、これらの教科単独で対象にするのではなく、2教科以上、多くは全教科にわたって対象にしている学校が大半でした。

「基礎・基本の定着」(教科学習)と「自ら学ぶ力の育成」(総合的な学習)を両輪として研究を進めている。6年間を通して安曇川という川を題材として総合的な学習を行う一方、2学級を4グループに分けて習熟度別学習を実施している。(滋賀県高島郡安曇川町立安曇小学校)

学校として子どもの学力(特に1年目は算数)を向上させようとする取り組みをした。子どもの実態を把握し、基礎・基本を明確にした「評価を生かした単元づくりのシステム化」を進めてきた。その成果として研究の日常化が見られ、子供の変容も顕著になってきた。今年度は、国語や社会、理科、生活科など他教科へ取り組みを広げる予定である。(秋田県六郷町立六郷小学校)

全学年の算数できめ細やかな学習を重視・1.2年/T.Tの実施と少人数指導・習熟度別指導の段階的な導入・3.4年/少人数指導、習熟度別指導の実施(1クラスを2つに分けた指導)・5.6年/習熟度別指導の実施(学年を3つに分けた指導)(群馬県新田郡尾島町立世良田小学校)

 また、中学校では英語における取り組みも目立ちました。

総合的な学習の時間に全学年において、ディベート、国際理解教育を取り入れ、総合の時間の質を教科と同等それ以上の質の高い学習になるように取り組んでいる。英語においては、海外との学校の交流を取り入れながら、英語運用能力の向上を目指している(上中町立上中中学校)

 これらの教科において、どのような指導方法、指導体制をとっているかをうかがったところ、「小人数学級」が40校、「習熟度別学習」35校、「ティームティーチング」28校と上位を占め、以下「オリジナル教材開発」「コンピュータの活用」「地域人材の活用」が続きました。

 また、その評価手法については、「学力調査」が最も多く42校、以下「アンケート」、「定期テスト」「自己評価」「絶対評価の評定基準」「観察/対話」が続きました。
 これらをみると、指導方法や評価手法は、それほど斬新なものを採用しているわけではありません。ただ、それが「学力向上」という成果をあげていくためには、アンケートには出てこない、さまざまな試行錯誤や工夫があるのではないかと思います。
 そこで、「指導方法にかかわる研究をしているフロンティア校が多いようですが、本校は、指導方法も含め、教育課程全体を研究対象にしています」(教頭の大山賢一先生)という新潟県上越市にある上越市立大手町小学校に、詳しいお話を伺うことにしました。

●長年にわたる研究と保護者の活用

 大手町小学校は、平成14年度からフロンティアスクールに指定され、昨年度は、総合的な学習の学びを算数と国語に生かすことから、確かな学力をめざしました。今年度は、それを理科と社会にも広げて実践を行っています。ただ、この取り組みは、フロンティアスクール事業に合わせて始めたものではなく、実に、20数年にわたって総合的学習に取り組んできた系譜があるといいます。

 たとえば、5期からなる授業時間数の管理もそのひとつの例といえるでしょう。子どもの生活実態を見つめ、1・2学期を2つに分けて、1年を5期として、各教科の授業時間数を割り当てています。1学期前半では、運動会に向けて授業時間数を多く取れるようにし、後半は、総合的な学習の時間を確保できるように授業時間数を配分しています。2学期の前半は、文化祭に向けてこれにかかわる教科等の授業時間数を確保しています。さらに、2学期後半と3学期は、総合的な学習の時間のまとめや自分を見つめる機会として捉えているそうです。

 保護者の方からは、「木曜6限の個別に勉強をみてくれる時間はとてもよい」「生活科や総合的な学習の時間でしっかり学んだ子は、中学校でも集中力があると感じる。子どもたちが授業で外へ出かけるときは、私もお手伝いします」という意見が寄せられる一方、保護者や地域の方のボランティア組織「ゆめ空間」も稼動し、さらに本年度からはPTAで「学び・支え隊」を設定し、大手町小の先生方をサポートしているといいます。
 まさに、地域の中での学校、という位置づけを生かしたフロンティア事業となっている様子が伺えます。
 「子どもたちは、個人的には様々な違いはありますが、押しなべてみるとどの学習においても意欲や関心が高く、主体的に一生懸命に学習しています。いわれてしぶしぶ学習するより、積極的に学習活動に取り組む姿を目にします」(大山先生)

 「学力向上フロンティアスクール」事業はまだ始まったばかり。アンケートでも、「成果はまだはっきりわからない」と答えた学校が少なくありませんでした。しかし、多くの学校が、この事業を通して「教材・指導法への関心が高まった」と実感しています。実際に、独自のプログラムや教材を開発したという学校も16校に上ります。
 これらの指導法や教材を、公開授業や研究会などによって、ほかの学校に普及させ、全国的に学力の底上げをすることが、学力向上フロンティア事業の最終的なねらい。本事業のほか、スーパーサイエンスハイスクール、スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクールなどを含めた「学力向上アクションプラン」には、約50億の予算が投じられることになっています。もちろんこれは私たちの貴重な税金。きちんと成果が上がっているのか、期待しつつ、評価の目を光らせるのが、私たちの権利であり責任でもあるでしょう。

執筆:長橋由理 イラスト:Yoko Tanaka

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