2003.04.08
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どうなる? どうする? 学校選択制

品川区を皮切りに、次々に広がりつつある学校選択制。どんなメリット、デメリットがあるのか、すでに実施している学校での評価はどうなのか。先月学びの場.comで行ったアンケートの結果も見ながら、今後の動きを探ってみたいと思います!

 学校選択制という言葉は、もう聞き慣れた言葉になっているでしょうか。公立の小・中学校に進学する際、これまではどこの学校に行くかは指定制であったものが、規制緩和の流れを受けて「保護者と児童生徒に選択の幅を持たせる」ようになったものです。
 2000年4月に東京都品川区で導入されたのを皮切りに、豊島区、足立区、荒川区、江東区、杉並区、墨田区などや日野市、多摩市、三重県紀宝町、岐阜県穂積町、滋賀県大津市など次々と広がっていきました。
 日本で学区を固定したのは、昭和16年の国民学校令によってなので、実に59年ぶりに学校を選択できるようになったことになります。
 実際には賛否両論あり、まだ全国的に広まってはいませんが、皆さんへのアンケート結果などを見ながら、今後の動きを探ってみたいと思います。

●学校を選択できるのは、59年ぶり

 児童生徒が通学する公立小・中学校の指定については、学校教育法施行令で、「市町村教育委員会は、当該市町村の設置する小学校又は中学校が2校以上ある場合においては、就学予定者の就学すべき小学校又は中学校を指定しなければならない」と規定しています(第5条第2項)。
 つまり、市町村教育委員会で、通学区域に関する審議会を設置するなどして、それぞれの学校ごとの「通学区域」を設定し、就学すべき学校の指定が恣意的に行われ、いたずらに不公平感を与えたりすることのないように配慮されてきました。
 それが、昭和62年、臨時教育審議会の「教育改革に関する第三次答申」、平成8年の行政改革委員会の「規制緩和の推進に関する意見(第2次)」を受けて、平成9年に各都道府県教育委員会教育長あてに、「通学区域制度の弾力的運用について」という通知が出されたのです。
 この通知の中で、市町村教育委員会に対し次の3点(概要)の取組みが依頼されました。

(1)通学区域制度の運用に当たっては、地域の実情に即し、保護者の意向に十分配慮した多様な工夫を行うこと。

(2)指定校の変更や区域外就学については、地理的な理由や身体的な理由、いじめの対応を理由とする場合のほか、児童生徒等の具体的な事情に即して相当と認めるときは、保護者の申立により、これを認めることができること。

(3)通学区域制度や指定校の変更、区域外就学の仕組みについて、広く保護者に周知すること。また、各学校に対してもその趣旨の徹底を図るとともに、市町村教育委員会における就学に関する相談体制の充実を図ること。

 これが学校選択制の始まりです。

●4年目となる品川区では……

 全国に先駆けて学校選択制が始まった品川区の小・中公立学校は、全校がホームページを持ち、学校の教育目標や教育活動を公開しています。また、区や学校で作成されたパンフレットが新入学生の保護者に配布されます。もちろん、学校公開期間をもうけて自分の目で学校を見ることができるようにもなっています。
品川区は、教育改革構想「プラン21」の中で「通学区域のブロック化の推進」を施策の1つとして掲げ、平成12年4月から、ブロック別による学校選択制を小学校において実施しました。
 品川区の「通学区域のブロック化」は、区内を4ブロックに分け、各ブロックの中から保護者は自由に子どもを通わせたい学校を選ぶことができるようにしたものです。
 初年度にこの制度を利用したのは231名(新1年生の13%)でしたが、3年目となる平成14年度の入学者のうち希望申請をしたのは、小学校で約18%、中学校では約30%でした。
 保護者の学校選択の基準はどんなところにあるのでしょうか。区の調査では、「通学のしやすさ」「兄姉と同じ学校」「地元」「友人関係」などが上位を占めています。当初予想していた「学校の特色」「教育活動」などには、まだあまり目が向いていないようです。
 デメリットもないわけではありません。「同じマンションに住んでいても入学した学校が違うと、子ども同士が遊ばない」「地域での子ども同士、親同士のきずなが薄れる」「中学校は「荒れ」や「友人関係」の問題で選んでいることが多いため、保護者が疑心暗鬼になる」という声も聞かれます。

●憧れ強い学校選択制

 下図は、先月行ったアンケート結果です。
 いまのところ学校選択制を採用しているところはまだ少ないので、回答をお寄せいただいた方も「不採用」「検討中」のところが多いのですが、その中では、圧倒的に学校選択制への期待が伺えました。

 自由回答の中から一部ご紹介しましょう。

 「保護者の意識が『全て学校にお任せ』から『学校に任せることを明らかにする』に変わる」(熊本県・40代・男性・教育関係者)

 「学区は必要ない。先生の指導力の向上や、施設の充実を図り、公立校も私立と同じく経営危機を持って努力し、困難を乗り越えられないときは統廃合もあるという現実を見据えて、先生方に努力してほしい」(東京都・30代・女性・保護者)

 「私立の中学なら塾に通わなくても学校側が学力をつけてくれると思えるが、公立中学の場合は、塾に通わなければ学力がつけられないというのは、少しおかしいと思う。学校選択制が導入されたら、それぞれの学校で特色が出てくるし、人気の高い学校が出れば、親が何を学校に求めているのかニーズが分かるでしょう。学校側(文部科学省側)は、親や子どもが何を学校に求めているのかを、積極的に知る努力をすべき」(北海道・40代・女性・保護者)

 「教育機関に新たな風が吹き込まれることは間違いなく、それはこれからの日本の教育制度においても必要なことだ。古い体制を変革していくには時として荒療治は必要だ」(東京都・30代・女性・保護者)

 「学校選択性は積極的に取り入れていくべき。これからの時代、頭の良さだけが全てではないし、スポーツに強い学校、国際色豊かな学校等、色々な特色があった方が、子供の可能性も広がるし個性も伸びていくと思う」(大阪府・20代・女性・保護者)

 反対意見がないわけではありません。

 「学校選択性だけで現在の教育問題が解決できるとは思えない。教師に負担がかかると教育の質が低下する。現場に負担のかかりにくい改革が良い。個人的には、学校よりも担任の教師を選択したい」(東京都・30代・女性・保護者)

 「デメリットの方が大きいと思われるので、学校選択制よりは小中一貫教育(6-3制をたとえば4-5制のような区切りにするとか)の方がいいように思う」(奈良県・40代・男性・教育関係者)

●これからの課題に注目

 このように、学校選択制については、期待も大きい反面、いくつかの課題も指摘されています。こうした課題に対しては、すでにこの制度を実施(決定)しているところでは、対応も始まっています。

・ 希望者が偏った場合
施設、設備の面から、通学区域外からの受入可能人数を超える希望者があった場合には、あらかじめ明示した人数まで抽選を行う。

・ 風評による学校の選択
各学校が、学校公開を実施するとともに、学校を紹介するパンフレットやインターネットのホームページを作成し、保護者の学校に対する理解を深める。

・ 学級編制、教職員配置
学校選択の登録希望の締め切り日を学級編制等の事務処理を考慮した日に設定し、各学校の入学予定者数を把握する。

 学校選択制が導入された場合、競争が生まれるのは、児童ではなく、学校や教師の方になります。教師間、学校間で「よい授業をしよう」「よい学校にしよう」という競争が生まれる、つまり学校や教師が、初めて評価されるのです。この点に関して、「学びの場」のアンケートでは、

 「競争に必要なものは審判。会社が競争することにより、より良い財やサービスを提供するようになるのは、審判である消費者がしっかりしているからから。学校間の競争においても、審判が重要になる」(熊本県・40代・男性・教育関係者)

 「公立学校を民間企業と同じように考えてもうまくいかない。親の意識は、我が子の安全と最高の利益受容を優先するのは当然のこと。しかし、子どもは無害のところで育てればうまくいくわけではなく、ある程度の課題を克服させることが一方で必要なのである。結局、公立の中学は、安全な学校、意識的な学校は減り、どこもかしこも落ち着かないことになり、私立志向がますます高まるのではないか」(埼玉県・40代・男性・教育関係者)

という相対する意見も寄せられています。

 全国に先駆けて学校選択性を導入した品川区の若月秀夫教育長は、
 「なによりもまず、学校の先生に変わってもらいたいと思って実施しました。その効果は、いたるところに現れています。先生自身が変わらなければいけない仕組みを作ること、それこそが学校選択制の目的なのです」
と話しています。
 59年ぶりの制度改革、保護者も教師も、ひとりひとりが取り組んでいかなければならない課題であるようです。

執筆:長橋由理 イラスト:Yoko Tanaka

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