2014.03.11
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

高校改革は「制度」から「質保証」へ

「高等学校教育の改革の推進に関する調査」の最新結果が文部科学省から発表された。中高一貫教育校が順調に増加する一方、総合学科や単位制高校の伸びが鈍化している。1990年代前後から高校改革は生徒の多様化に対応した制度改革を中心に進められてきたが、現在では「高校教育の質保証」に焦点が移りつつある。

中高一貫は目標値に近づき、総合学科は遠く

 中高一貫教育については、次の実施形態がある。(1) 一つの学校として一体的に中高一貫教育を行う「中等教育学校」、(2) 高等学校入学者選抜を行わずに同一の設置者による中学校と高等学校を接続する「併設型」、(3) 市町村立中学校と都道府県立高等学校など異なる設置者間でも実施可能な形態であり、中学校と高等学校が教育課程の編成や教員・生徒間交流等の連携を深める形で中高一貫教育を実施する「連携型」、という三つだ。

今回の調査によると、2013年度の中高一貫教育校は450校(併設型と連携型は中学校・高校の1組を1校として集計)。11校で新設されたが、併設型と連携型で既設校の減少があったため、差し引き前年度比9校増となる。新設のうち中等教育学校は公立1校、併設型はいずれも既設の中学校と高校に中高一貫教育制度を導入した私立8校で、連携型は公立2校。

中高一貫教育の導入は、実質的には伸び悩んでいるようにも見えるが、2014年度は公立7校(うち中等教育学校1校、併設型5校、連携型1校)、私立11校(中等教育学校1校、併設型10校)の計18校の設置が予定されており、中高一貫教育の拡大は続いていると見てよい。かつて政府が整備目標として掲げていた全国500校(通学可能範囲内に1校)は目前に迫っている。

一方、総合学科は2010年度あたりから伸びが鈍化。2013年度は11校増の363校と、久々に二ケタ増となったものの、これには高校の再編・統合が関係しているものとみられる。制度創設当初を除けば、普通科高校と専門高校など設置学科の異なる高校を統合する際に総合学科への転換を図るケースが主流になっているからだ。しかも、中高一貫教育制度(1999年度から)より5年も早く制度化されているにもかかわらず、整備目標500校には程遠い。

単位制高校も前年度比14校増の974校で、数年で四ケタ台にも届きそうな勢いだが、実質的には学年制と変わらない指導体制を敷いている高校も少なくない。

コア論議も「到達度テスト」にシフト

 単位制高校(1988年度から)や総合学科、中高一貫教育の各制度が導入された時代は、生徒急増期の中で多様化が進んだ生徒に対応するために、多様な高校教育制度を用意し、きめ細かな指導を行うことを狙っていた。国の制度以外にも、「チャレンジスクール」「エンカレッジスクール」などの名称で学力面や生徒指導面で課題のある生徒に特化した高校を整備した自治体も少なくない。これらは、いずれも制度の多様化を中心に進められた高校改革だったと言える。

近年では流れが変わっている。2013年度入学生から全面実施に入った新しい高校学習指導要領は、教育課程上も多様化を進めてきた従来の方針を改めた「共通性と多様性 のバランス」を改訂方針の一つに掲げ、実質的には共通性を強めている。国語や数学、英語で複数の科目から必履修を選ぶ選択必履修を共通科目に変更したのが代表例だ。

民主党政権の下で高校授業料無償化の導入を契機に設置された中央教育審議会の高等学校教育部会も、全ての生徒に共通に身につけさせるべき資質・能力(コア )を明らかにすることを課題の一つに据えてきた。そこでは、もはや「高校」とひとくくりにできないほど多様化した高校の現状に対して、「高校」を名乗るからには最低限そこで育成すべき能力を確定し、卒業時には生徒に着実に身につけさせる高校教育の「質の確保・向上」を目指している。制度改革によって高校改革を進めることは一定の歴史的役割を終えた、という認識だ。

その高校部会も、コアそのものをどうやって身につけさせるかの教育課程改革論議より、政府の教育再生実行会議の第4次提言を受けて、コアのうち客観的な評価の対象としやすい能力を測定する「達成度テスト(基礎レベル)」(仮称)をどう制度設計するかの方に今や焦点が移っているようだ。

渡辺 敦司(わたなべ あつし)

1964年、北海道生まれ。
1990年、横浜国立大学教育学部を卒業して日本教育新聞社に入社し、編集局記者として文部省(当時)、進路指導・高校教育改革などを担当。1998年よりフリーとなり、「内外教育」(時事通信社)をはじめとした教育雑誌やWEBサイトを中心に行政から実践まで幅広く取材・執筆している。
ブログ「教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説」

構成・文:渡辺敦司

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop