2013.08.13
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学校におけるスポーツ指導の在り方はどのように変わろうとしているのか?

大阪市立高校の生徒自殺事件や、全日本柔道連盟の暴力行為などを契機に、部活動や競技スポーツでの指導の在り方が問われている。体罰がまん延する事態に対応するため文部科学省は、相次いで報告書をまとめている。報告書やガイドラインを受けて、学校でのスポーツ指導の在り方はどのように変わろうとしているのか。

スポーツ指導の留意点と体罰禁止の徹底をガイドラインに示す

 大阪市立高校での体罰事件を受け、政府の教育再生実行会議は2月の第一次提言で体罰禁止の徹底と共に「子どもの意欲を引き出し、成長を促す部活動指導ガイドラインの策定」を提言。これを受けて文科省は有識者による「運動部活動の在り方に関する調査研究協力者会議」を設置し、5月末に「運動部活動の在り方に関する調査研究報告書~一人一人の生徒が輝く運動部活動を目指して~」を取りまとめた。

 報告書は、スポーツの指導で体罰を行うことは「スポーツの価値を否定し、フェアプレーの精神、ルールを遵守することを前提として行われるスポーツと相いれないもの」と断言。運動部活動の指導者、特に顧問の教員に対して、当該スポーツ種目の技術的な指導のみならず、部活動のマネジメント(運営)、生徒の意欲喚起や人間関係形成のための指導、安全確保や事故防止に取り組むことを求めた。

 ガイドラインについて報告書は、運動部活動での指導に必要な基本的事項や留意点を「改めて整理し、示したもの」だとしている。そこでは、運動部活動が、▽学校教育の一環として行われるものである、▽生徒の生きる力の育成や豊かな学校生活の実現に意義を有するものとなることが望まれる、▽生徒の自主的・自発的な活動の場の充実に向けて運動部活動や総合型地域スポーツクラブ等が地域の特色を生かし、必要に応じて連携することが望まれる――とした上で、(1)顧問の教員だけに運営、指導を任せるのではなく、学校組織全体で運動部活動の目標、指導の在り方を考えましょう。(2)各学校、運動部活動ごとに適切な指導体制を整えましょう。(3)活動における指導の目標や内容を明確にした計画を策定しましょう。(4)適切な指導方法、コミュニケーションの充実等により、生徒の意欲や自主的、自発的な活動を促しましょう。(5)肉体的、精神的な負荷や厳しい指導と体罰等の許されない指導とをしっかり区別しましょう。(6)最新の研究成果等を踏まえた科学的な指導内容、方法を積極的に取り入れましょう。(7)多様な面で指導力を発揮できるよう、継続的に資質能力の向上を図りましょう――との七つの事項を提示した。「体罰等の許されない指導と考えられるもの」として、殴る・蹴るはもとより、長時間にわたる無意味な正座・直立等、言葉や態度による脅し、身体や容姿、人格否定的な発言を行うことなども例示している。

新しい時代のコーチングを提唱

 一方、7月初めにまとまった「スポーツ指導者の資質向上能力のための有識者会議(タスクフォース)報告書」は、新しい時代にふさわしい「コーチング」の在り方を提唱している。ここではコーチングを「競技者の目標達成のためのサポート活動」と定義し、「コーチングを行う人材がコーチ」と明快に位置づけた上で、新しい時代のコーチングが「競技者やスポーツそのものの未来に責任を負う社会的な活動であることを常に意識して行われるもの」であるべきだとした。

 特に注目されるのが、「子どもに対するコーチングにはより高い倫理観と高度な知識・技能が必要」と指摘している点だ。これは学校部活動を含めてコーチが「育成過程を経ずにコーチとなっている」場合が少なくない現状に対して警鐘を鳴らしたもので、「子どもの発達段階に応じ長期的な視野を持ったコーチングの実現方策」として、先の調査研究報告書を踏まえた取り組みはもとより、長期的視野でコーチングを行っている者の顕彰を検討するよう求めている。

 オリンピックやプロスポーツ界において、日本人アスリートが世界を舞台に目覚ましく活躍する昨今、学校現場のスポーツ指導でもより高いコーチングを実践すべき時が来たのではないだろうか。

渡辺 敦司(わたなべ あつし)

1964年、北海道生まれ。
1990年、横浜国立大学教育学部を卒業して日本教育新聞社に入社し、編集局記者として文部省(当時)、進路指導・高校教育改革などを担当。1998年よりフリーとなり、「内外教育」(時事通信社)をはじめとした教育雑誌やWEBサイトを中心に行政から実践まで幅広く取材・執筆している。
ブログ「教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説」

構成・文:渡辺敦司

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