2013.06.11
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教員給与を政令指定都市が負担すると、現場はどうなる?

政府は3月の閣議で、県費負担教職員の給与・定数と学級編制基準の決定権限を政令指定都市に移譲する方針を決めた。 ただし財源問題が残されているため4月の「第3次一括法案」には盛り込まれず、2014年度以降の法改正を目指すという。一方、中核市への移譲は2013年度以降に結論を先送りした。権限移譲で学校現場にはどのような影響が出るのか。

財源問題ネックで「ねじれ」解消できず

 周知の通り、県費負担教職員制度の下では、身分上は市区町村の職員である校長や教諭、事務職員などの任命権者は、特例として給与を負担する都道府県の教育委員会とされている。ただし、政令指定都市が設置する学校の県費負担教職員の任命権は、当該指定都市教委に委任されている、というのも周知の通りだ。

 しかし、政令指定都市では任命権を委任されながら、給与負担や定数の決定権は依然として都道府県にあるという「ねじれ」は存在したままである。そのため、地方分権改革論議では、たびたび移譲問題が検討されてきた。2002年10月の地方分権改革推進会議の意見書にも「県費負担とされている教職員給与を政令指定都市負担とする方向で見直す」「義務教育に関する権限の政令指定都市への移譲も行う」と明記されていた。

 しかし、2004年5月の中央教育審議会作業部会報告は「方向性としては、給与を負担する者と任命権を行使する者を一致させる方向で見直すべきとの意見が大半」としながらも「関係者間でも必ずしも意見が一致していないところもあり」「政令指定都市が負担する給与費の財源問題の解決なしに結論を得ることは困難な問題」と指摘。2005年10月の中教審答申(義務教育改革答申)でも「人事権についても都道府県から義務教育の実施主体である市区町村に移譲する方向が望ましい」とまでされながら、政令指定都市の権限ですら移譲は実現していない(ただし県費負担教職員の任命権に関しては条例による事務処理特例制度で移譲が可能になっており、2012年4月には大阪府教委から豊能地区3市2町の教職員人事協議会に任命権が移譲されている)。

「教育問題」にとどまらず

 移譲に関する最大のネックは、中教審作業部会報告にもある通り「財源問題」だ。しかも教育行財政にとどまらず、地方自治全体の財源・税源移譲に関わる。小泉純一郎内閣の時の構造改革論議の際に義務教育費国庫負担制度の存廃問題が焦点となったが、全国知事会など地方6団体が教職員給与の全額一般財源化を強硬に主張したのも、それだけ地方交付税の財源が増えるという思惑があった。ただし地方公共団体に財源の自由度が増えるということは、それだけ教育費以外に回される危険性が増大するということでもある。

 もちろん義務教育学校標準法で教職員定数がほぼ自動的に算定される公立小・中学校の場合、定数分が橋や道路に化けるということはない。ただし国庫負担率は小泉構造改革によって2006年に2分の1から3分の1に引き下げられており、逆に言えば都道府県では義務的経費として負担が2分の1から3分の2に増えることになり、財政が厳しい道府県ではそれ以外の教育予算にも影響が出てこざるを得ない。

 その上、国庫負担率引き下げの2年前(2004年度)から導入された「総額裁量制」では、国庫負担金総額の範囲内なら都道府県の裁量で給与や教職員数を決定できるようになっている。教職員数の増員分を賄うため給与水準が引き下げられたり、常勤の教職員一人分を非常勤二人分に替える「定数崩し」が進んだりする可能性もある。

 政令指定都市自体、要件緩和で現在は20市にまで増えている。財政事情も千差万別だ。移譲による影響の度合いは当然その市によって違うが、財政が潤沢な市はともかく、厳しい市では教職員給与だけでなく他の教育費にしわ寄せが来ることもあり得る。

 先に指摘した通り、財源問題は教育に限らず地方分権改革全体のネックでもある。政令指定都市への移譲にしても2003年にいったん閣議決定されながら、いまだ実現していない。2014年度「以降」いつ法改正できるかは、予断を許さない。

地方裁量の拡大で義務教育の公平性に影響も

 ところで、今回の閣議決定では、政令指定都市に関しては移譲方針を再確認した一方で、中核市については玉虫色の表現になっている。これは政令指定都市と違って、任命権の移譲問題がからんでいるからだ。もちろん、中核市にとって任命権が移譲されるのは、新規採用の人材を独自に確保しなければならないという大変さはあるものの、地域の創意工夫を生かした特色ある質の高い義務教育の実現や地域に根ざした優秀な人材の育成・確保など総じてメリットがある。 実際、全国市長会や中核市市長会のみならず中核市教育長会も移譲に積極的だ。逆に都道府県にとってはそれだけ人材を奪われるということを意味し、広域人事による適正な教職員配置がしづらくなる。大げさに言えばどんな地域であっても質の高い教育を受けられるかどうかという、義務教育の公平性に関わる問題だ。

 もちろん教職員人事一つとっても都道府県、あるいは県内でも地区によって事情は違うため、制度論だけで現場への影響は語れない。それだけ一筋縄ではいかない問題である。 

渡辺 敦司(わたなべ あつし)

1964年、北海道生まれ。
1990年、横浜国立大学教育学部を卒業して日本教育新聞社に入社し、編集局記者として文部省(当時)、進路指導・高校教育改革などを担当。1998年よりフリーとなり、「内外教育」(時事通信社)をはじめとした教育雑誌やWEBサイトを中心に行政から実践まで幅広く取材・執筆している。
ブログ「教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説」

構成・文:渡辺敦司

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