2013.01.08
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通常学級に「6.5%」の発達障害児

通常学級に「6.5%」の発達障害児

文部科学省が10年ぶりに、通常学級で「発達障害」の可能性がある児童生徒の実態を調査した。結果的に在籍率が大きく変わることはなかったが、支援が必要とされながら配慮がなされていない児童生徒がいる実態も明らかになった。この結果をどう読むべきか。

裏付けられた10年前の調査

 学習障害(LD)などの存在が注目されて20年以上が経つ。旧文部省が調査研究協力者会議を設置したのは1992年だった。その後、注意欠陥多動性障害(ADHD)、高機能自閉症、アスペルガー症候群などが「発達障害」と総称され、通常学級の中でも対応が求められるようになった。

 そうした中で行われたのが前回の2002年実態調査で、発達障害の可能性がある児童生徒が通常学級に6.3%いると推計された。ただし全国から5地域を対象に実施したものだったため、学校現場の実感からは「実際にはもっと多いのではないか」という声も少なくなかった。それが今回、東日本大震災の被災3県は除かれたものの全国的な抽出による調査が行われたことで、前回調査がほぼ実態を表していたことも裏付けられたと言えよう。

 しかし「もっと多い」という現場感覚も、考えてみれば当然だ。文科省調査にしても、発達障害かどうかの判断は医学的診断など専門的見地を求めたものではない。質問項目に対する担任らの回答をポイント化して、一定ポイント以上のものをカウントしたものだ。カウントされないグレーゾーンが必然的に存在するわけで、調査研究協力者会議の大南英明座長もこの6.5%以外に「何らかの困難を有していると教員が捉えている児童生徒がいる」と注意を促している。

対応し切れていない実態も明らかに

 今回の調査が前回と大きく違うのは、困難を抱えていると学校現場で判断された児童生徒がどのような支援を受けているかを調べたことにある。これには学校教育法の改正によって2007年度から「特殊教育」が「特別支援教育」に移行し、発達障害も対象に加えることが明確化されたことも大きい。児童生徒の困難に着目し、必要な支援を行うことが不可欠となったからだ。

 調査によると、発達障害の可能性のある児童生徒のうち、校内委員会で特別な教育的支援が必要だと判断されたのは18.4%と5人に一人にも満たない。しかも、発達障害の可能性のある児童生徒のうち38.6%が「いずれの支援も受けていない」という。個別の教育支援計画や個別の指導計画が作成されていたり、特別支援教育支援員の支援対象となったりしているのも発達障害の可能性のある児童生徒の10%以下だ。

 この数値をどう読むか、軽々には言えない。特別な支援がなくても通常の指導の中で十分に対応できると考える場合もあり得るからだ。とはいえ、大南座長は、協力者会議で「校内委員会が支援の必要性の判断に関与していない可能性がある」「児童生徒の実態把握は行っているものの、指導方法については、教員が十分に理解できていない可能性がある」といった指摘があったことを紹介している。

 指導の困難さや支援の必要性は感じながら、他の児童生徒の対応や校務に追われて、十分な対応をしたくてもできずにいる――。特別支援教育に移行して5年が経過したにも関わらず、そんな実態がまだまだ残っていることはデータからもうかがえるのではないか。

「基礎的環境整備」が急務

 一方で現在、障害者権利条約の批准問題をきっかけに「インクルーシブ教育システム(政府仮訳では「包容する教育制度」)の構築が検討されている。2012年7月には中央教育審議会の初等中等教育分科会が報告書をまとめている。そこでは、これまで以上に本人や保護者の意向を尊重して就学先を決定する仕組みづくりが提言されている。障害のある子どもの教育も、個々の障害の状況に応じた「合理的配慮」はもとより、通常学級を含めた「基礎的環境整備」の充実が欠かせないとしている。

 通常学級における発達障害への対応にしても、そうした基礎的環境整備の充実いかんにかかっていると言えるだろう。発達障害はあくまで何らかの脳機能の障害であって、困難が目立たなくなったとしても障害自体がなくなるわけではなく、きめ細かな対応は引き続き求められる。そして基礎的環境整備の充実は困難を抱える児童生徒のみならず、全ての子どもにとって好ましい教育環境を提供することにつながる。障害の有無にかかわらず共に学び理解を深めることが、将来の「共生社会」に生きる市民を育てるためのインクルーシブ教育の課題である。

渡辺 敦司(わたなべ あつし)

渡辺 敦司(わたなべ あつし)

1964年、北海道生まれ。
1990年、横浜国立大学教育学部を卒業して日本教育新聞社に入社し、編集局記者として文部省(当時)、進路指導・高校教育改革などを担当。1998年よりフリーとなり、「内外教育」(時事通信社)をはじめとした教育雑誌やWEBサイトを中心に行政から実践まで幅広く取材・執筆している。
ブログ「教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説」

構成・文:渡辺敦司

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