2012.06.12
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教員研修のさまざまな形 自分の力を見直し、より高める契機に

5月の連休を越えると年度初めの喧騒も一段落し、クラスも落ち着いてくる。少し先を見れば、7月下旬からの「夏休み」を控え、教員にとって今の時期は、今年度の研修について再確認する絶好のチャンスだ。そこで今回は昨今、校内・校外でさまざまな形で行われている教員研修を見てみる。その多くは、現場ニーズに即した有意義な取り組みとなっているようだ。

 英国の国会議員が、学力向上政策について「日本に学べ」と発破をかけているという(「学校改革、日本から学べ」時事通信5/15/配信記事より)。

 かつて、英国の「学校理事会」に学び、地域とともに学校を盛り立てていこうという「コミュニティー・スクール」 を、現在推進している日本からすれば、自分たちのよい文化や制度が英国に注目されて面はゆいというところがあるかもしれないが、実は、「授業研究」「校内研修」が当たり前に行われている日本の教育と、それら研修によって培われてきた教員の力量の高さは、世界的に見れば十分に先進的な取り組みであり、これまでも英国のみならず、諸外国から注目されてきた。

 そこで今回は、教員の「研修」について見ていきたい。

「官製」研修は、つまらない?

 「研修」には、法律で定められた研修と、教員が自主的に取り組む研修がある。前者は「初任者研修」や「10年経験者研修」などで、主として教育委員会が実施し、後者は、各地で教員が組織する研究サークルなどが該当する。

 これまで、前者のいわゆる「官製研修」は座学中心で、学校現場の日々の課題解決には必ずしも役立つとは思えない内容が扱われているなどと、教員から声が上がることがあった。おそらく学びの場.com読者の方々も、「面白かった」「刺激的であった」というよりは、堅い内容だったなあ、難しかったなあ、ちょっと古くないか、これ、などと思われたことがあったのではないだろうか。

 しかし、昨今の「官製研修」にも面白い試みが増えてきている。例えば、今年度新たに熊本市教委が始める、「教師塾『きらり』」である。 これは熊本市教育委員会が教員の授業力向上を目的として始めるもので、「指導授業」「研究授業」「実技講座」からなる。インターネットも積極的に活用することで、日々忙しく、時間をなかなか取ることができない教員のニーズにも対応する。すでに熊本市教委は「先生ちゃんねる」 で、動画を用いた先輩教員による授業のコツなどを公開しているが、それをよりきめ細かく展開する予定だ。

 また、奈良県教育委員会は、各種データやさまざまな問題への対応方法などを掲載した「奈良県先生応援サイト」 を今年度から新たに始めた。このサイトでは「教科指導」「生徒指導」「体力向上」といった11部門についての指導法やアドバイスなどが扱われており、新任教員を中心に、ちょっとしたことだが、なかなか相談できる先輩教員が身近にいないといった時に、何らかのヒントを得ることができるだろう。

 初任者研修においても、校内研修と教育センターなどでの校外研修をあわせた従来の方式に加え、現在は、「拠点校方式」という、指導教員がいくつかの学校を受け持ち、学校に赴いて新任教員を指導する方式が増えてきている(文部科学省HP「初任者研修実施状況調査結果(平成22年度)について」より)。

 いずれも、より学校現場の実態や教員のニーズに合った研修を求めていく中で生まれてきている、現場密着型を志向する新たな動きといえるだろう。

「心構え」も学びたい

 「官製研修」ばかりでなく、自主的に取り組む研修も花盛りである。インターネットで少し検索をすれば、身近なところで行われている教員による勉強サークルが見つかるだろう。本を買って学ぶという地道な努力も立派な研修である。学びの場.comのさまざまなコンテンツを読んで、なるほど、こういうことってあるなあ、こういう指導方法が有効なのかという気づきを得ることも立派な研修である。

 ところで、研修とはそもそもなぜ必要なのだろうか。教員の研修の法的根拠は、教育公務員特例法第21条から第25条に求められる。その中でも、なぜ研修か、という問いの答えは第21条にある。短い条文なので引用をすると以下の通りである。
「教育公務員は、その職責を遂行するために、絶えず研究と修養に努めなければならない。」
 実に短い、簡潔な文章である。

 ここ数年、教育書でよく売れているのは、1年間の授業で必要とされる板書計画がすべて載っている指導書や、クラスをまとめる技術など、テクニカルな方法論についてまとめられたものが多い。教員の日々の職務内容を考えれば、確かに、細かい方法論を積み重ねていくことが必要だということは十分理解できる。

 しかし一方で、近年、筆者が気になるのは「教員としての心構え」が揺らいでいる方々が増えてきているように思えることだ。

 教員の仕事は、チョークの持ち方や、発声の仕方や、目配り・気配りといったテクニカルなものの集積の結果だけで実現できるものではない。こうした技術が必要とされる教員の「職責」についての認識があってこその技術だ。この認識は、日々、失敗し、反省し、あるいは喜び、落涙する、といった日々の繰り返しでしか身につけられることができない力だ。また、こうした力は、教員集団の中でこそ鍛え上げられるものであろう。

 そんなことは当たり前だ、とお叱りをいただきそうだが、初任から2、3年目の挫折、中堅教員の気の緩み、学校を引っ張るはずのベテラン教師の固定観念をリセットする意味も、「研修」には込められている。

 新しい年度が始まり、少し落ち着いてきた今だからこそ、自分の今年の目標を再度確認し、新しく何かに取り組んでみてはどうだろうか。

坂本建一郎(さかもと けんいちろう)

時事通信出版局出版事業部次長 編集委員
1971年愛知県春日井市生まれ。北海道札幌市育ち。1997年東京学芸大学大学院教育学研究科修了、教育学修士。大学院修了後、教育専門出版社で主に教育学等の学術書と月刊誌の編集に携わる。2004年に時事通信出版局に移り、2005年2月より2010年3月まで時事通信出版局『教員養成セミナー』編集長。2010年から教員養成および教員採用についての研究を進める(科研費挑戦的萌芽研究 研究協力者)。

構成・文:坂本建一郎

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