2012.05.08
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教員はみんな大学院卒? 教員養成は今後どうなるか

「学校の先生」になるには、教員免許状が必要だ。現在は、短大、大学等で学び教員免許状を取得するのが一般的だが、今後は大学院卒の資格が求められるという。なぜ教師に大学院修了(修士化)が求められるのだろうか。また、今後の教員養成はどうあるべきだろうか。

《お知らせ:記事本文の一部を更新しました。(5/23)》

教員の資質能力の向上策について検討している中央教育審議会特別部会の基本制度ワーキンググループは、教員の修士化についての骨子案を平成24年3月16日にまとめた。今回は、文部科学省ホームページで公表されている資料「教員の資質能力向上特別部会 基本制度ワーキンググループ(第7回)配付資料 資料1 基本制度ワーキンググループ報告(案)」(以下、報告案)を基に、今後の教員免許状と教員養成の行方について見ていきたい。

教員免許状は「一般免許状」と「基礎免許状」に

 報告案によれば、現在、専修免許状(修士修了)、一種免許状(学部卒)、二種免許状(短期大学卒)となっている教員免許状制度を、新たに「一般免許状(仮称)」と「基礎免許状(仮称)」とし、同時に「専門免許状(仮称)」(これは専門別の免許状とし、学位取得とは関連付けをしない予定)も創設するとしている。

 「一般免許状」は学部4年に加え1年から2年程度の修士レベルでの学修を標準とするとされているので、現在の専修免許状に相当し、「基礎免許状」は学士課程修了レベルとされているので、現在の一種免許状に相当する。つまり、全体的にグレードアップするということが今回の教員免許制度の改革の方向性である。

 では、なぜ、教員免許状をグレードアップしなくてはいけないのだろうか。報告案では、その理由として、「グローバル化や情報化、少子高齢化等社会の急激な変化」「いじめ、不登校への対応、特別支援教育の充実、ICTの活用、初任段階で学校現場の諸課題への対応に困難を抱える教員の増加、知識技能の継承機能の困難化」等を挙げている。確かにこれらはすでに指摘されてきており、これからも対応が必要とされる課題であることは間違いない。

 また、高等教育への進学率が上昇した結果、保護者が高学歴化し、教員の社会的地位がかつてよりも相対的に下がってきてしまったため、社会の尊敬を得るためにも学位上、グレードアップも必要ではないかという意見もこれまでの審議会等では議論されてきた。

 しかし、修士化やそれに伴う教員養成の高度化は必須だとしても、誰が何を教員に教えるのか、またそれを決めるのは誰かという問題については、報告案では具体的に触れられておらず、課題が残っている。

問題は、大学と教委の「すれ違い」?

 現時点では、修士化の具体像はまだ見えてこない。今後検討し決定されるという項目が多いのが、今回の報告案全体のトーンだ(案だから仕方はないけれども)。また、大学と教育委員会の間にズレがあるということを厳しく表現している点で、異例の報告案ともいえる。

 教員免許状の実質を担う教員養成は基本的に大学が行うものとされている。しかし、教員免許状を授与しているのは教員養成には直接携わっていない都道府県教育委員会である。そして教員を採用し、任命するのも基本的に都道府県教育委員会である。そこに教員養成をめぐる少々の「ねじれ」がある。「こういう先生を採用したい」という教育委員会の思惑と、「こういう先生に育てたい」という大学の考えが異なってくることがあるからである。

 2004年に東京都が「東京教師養成塾」を立ち上げた。これは現在、多くの自治体で取り組まれている、いわゆる「教師塾」のさきがけだったが、都市部の小学校教員を中心に大型採用が続くことへの対応でもあった。

 教育委員会の立場からは、教員となる準備が適切にできている採用者を大型採用期においても量的に確保したいという考えがあり、具体的には、受験者を増やすための方策が必要であるとされた(東京都教育委員会『教員任用制度あり方検討委員会報告について~「これからの教員選考・任用制度について」(最終のまとめ)~』2006〈平成18〉年4月)。東京教師養成塾以外にも、協調選考(協定を結んだ東京都以外の自治体の受験者で東京都を希望する者を採用する制度)や、採用試験の複数回実施を行ってきた。また、東京教師道場(採用後の研修の充実。おおむね5年以上の経験者対象)も大型採用期における教員の質保証を企図している。

 教員採用試験の倍率は地域や学校種によって異なるが、2000年頃から概ね下がってきている。競争倍率は、実は教員採用の質保証の機能を意図せずして担ってきたのだが、競争倍率が低下すると、「教員の質保証」がうまくいかないことに気がついた教育委員会が、自分たちで対応するしかないと考えたのが「教師塾」であった。もちろん、教育委員会も競争倍率が下がり、大型採用期になれば「質保証」の問題が浮上してくることはわかっていたには違いない。しかし、現状の会計単年度主義、児童生徒数を基に教員数を決定する仕組み、教育委員会の運用実態、担当課の責任者が1~3年程度で異動してしまう教育委員会事務局の人事異動の慣例等から考え合わせれば、中長期的な計画採用がそもそも難しいという事情があった。

 一方、大学は勝手に自分たちの考えで教員養成をしてきたかといえばそうではない。課程認定という仕組みがあって、文部科学省が「あなたの大学で教員養成を行ってよいですよ」と認めて、初めて大学で教員養成ができることとなる。いわば、どのように教員養成を行うかについては国が枠組みを定めているわけである。その上で大学は工夫を重ねて教員養成を行っている。近年、教職課程等に対する文部科学省による実地調査も熱心に行われており、その報告書が文部科学省ホームページで公開されている。

 だが、大学においては、学校現場の実情をしっかりと踏まえて教員養成を行っているかどうか、少なくとも社会の変化についてはそこを見極め、対応しきれていなかった点もある。一例を挙げれば、教職大学院において学校現場の経験を持つ実務家教員を4割以上配置することとされているが、これは法科大学院の3割と比べても割合としては多く、いかに教員養成が学校現場寄りになることが求められているかがわかる。なぜ、実務家教員が教員養成で必要とされたのか、そこを真摯に考え、対応する必要があっただろう。今後も、こうした学校現場寄りの傾向は増えこそすれ、減ることはない見込みである。

 このように教員養成には大学、教育委員会、文部科学省の3者が関わっているが、制度設計、理念、運用においてズレがあるのが実態である。

誰が責任を持つべきか

 問題は誰が最終的な責任を持って教員養成を行い、教員免許状を授与するかである。今回の報告案では、教員免許状のグレードアップを図るに当たり、大学と教育委員会がこれまで以上に連携して、共に「管理職や教員に求められる資質能力」「実践的指導力を育成する教員養成カリキュラム」等を明らかにし、今後開発することが求められている。

 今回の報告案では、「初任者が実践的指導力やコミュニケーション力、チームで対応する力等教員としての基礎的な力が十分に身に付いていないこと等が指摘されている」「大学での養成と教育委員会による研修は分断されており、教員が大学卒業後も学びを継続する体制が不十分である」「自らの実践を理論に基づき振り返ることは資質能力の向上に有効であるが、現職研修において大学と連携したこのような取組は十分でない」といった言葉で、現状に対する厳しい認識が示されている。

 しかし、学校現場において真に必要とされる資質や能力を適切に把握しているのは大学や教育委員会だけだろうか。もしかすると、学校現場で日々汗をかいておられる教員の方々が、一番、教員養成において必要なカリキュラムを開発できるのかもしれない。実際にイギリスでは、国との連携で教職員の組織による、教職の資質能力開発やトレーニングを行う試みが行われたことがあった。

 今回の報告案の冒頭にあるように、「教職生活全体を通じた一体的な改革、学び続ける教員を支援する仕組み」は必要だろう。今後、教員養成をどう行うか。大学と教育委員会を中心に取り組み、文部科学省がしっかりと支える体制が求められる。

坂本建一郎(さかもと けんいちろう)

時事通信出版局出版事業部次長 編集委員
1971年愛知県春日井市生まれ。北海道札幌市育ち。1997年東京学芸大学大学院教育学研究科修了、教育学修士。大学院修了後、教育専門出版社で主に教育学等の学術書と月刊誌の編集に携わる。2004年に時事通信出版局に移り、2005年2月より2010年3月まで時事通信出版局『教員養成セミナー』編集長。2010年から教員養成および教員採用についての研究を進める(科研費挑戦的萌芽研究 研究協力者)。

構成・文:坂本建一郎

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