2010.07.20
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どうなる、教員免許更新制のゆくえ

教員免許更新制はどうなるのだろうか。7月11日の参院選挙の結果、民主党が大敗して参院で与党の議席数が過半数を割ることになった。しかし、民主党は衆議院で圧倒的多数を占め、非改選を合わせると参院でも第一党であることに変わりはなく、民主党政権は当分の間、このまま続いていくことになろう。そのなかで、スタートしたばかりの教員関係の改革は今後どうなっていくのだろうか。当面の焦点は、教員免許の更新制のゆくえだろう。

教員免許更新制はどうなるのだろうか。7月11日の参院選挙の結果、民主党が大敗して参院で与党の議席数が過半数を割ることになった。しかし、民主党は衆議院で圧倒的多数を占め、非改選を合わせると参院でも第一党であることに変わりはなく、民主党政権は当分の間、このまま続いていくことになろう。そのなかで、スタートしたばかりの教員関係の改革は今後どうなっていくのだろうか。当面の焦点は、教員免許の更新制のゆくえだろう。

第二段階に入った新政権の教育改革

 川端達夫文部科学相ら政務三役は、昨年9月の就任早々から自公政権が創設した教員免許更新制を廃止する意向を表明していた。しかし、同時に民主党政権における教育改革について文科省の政務三役らは、第一段階=格差是正による教育費軽減、第二段階=教員の資質向上と教職員の増員、第三段階=教育行政と学校のガバナンス(統治)の見直しの3つの段階に分けて実施する方針を示し、教員免許更新制の見直しは教員の資質向上方策の一環として議論されることにした。このため、国の教育行政のトップである文科相らが廃止を示唆しながら、教員免許更新制という制度自体はまだ継続しているという不自然な状態が続いている。

 現在、民主党政権の教育改革は、今年4月からスタートした「高校無償化」によって第一段階を終え、第二段階に入った。すでに中央教育審議会は、学級定員の引き下げによる教職員定数の増加を審議しており、近く報告をまとめる予定だ。さらに、川端文科相は6月3日、中教審に「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について」を諮問し、大学における教員養成、教員採用、現職教員の研修という教員にかかわる施策全体の見直しを要請。また、中教審総会で諮問理由を説明した鈴木寛副大臣は、年内に一定の報告を中教審でまとめもらい、来年1月からの通常国会に関係法案を提出する意向を表明した。

 中教審への諮問は、「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上」というタイトルに示されているように、教員養成から現職研修に至るまで幅広い問題を審議できるようになっているのが大きな特徴の一つだ。具体的な審議事項としては、
○大学における教員養成の見直し
○教職大学院の位置付けを明確化
○教員免許状により一定の専門性を公的に証明する制度の在り方
○10年経験者研修など現職研修の見直し
○大学と教育委員会などの連携・協力体制の構築
――などが挙げられている。

更新制による免許失効は、どうなる?

 中教審への諮問のなかで注目されるのは、民主党が昨年の衆院選マニフェストで掲げていた教員養成の「6年制(修士)」という表現を盛り込んでいないことだ。大学院修士課程を重視する養成の改革は目指しているものの、大学関係者、教育委員会関係者らから猛反発を受けた「6年制」をいったん取り下げたところに文科省政務三役の柔軟性が感じられる。しかし、大学院重視の教員養成というスタンスは変わらず、現在あるすべての大学の教員養成課程が見直しの対象となることは避けられないだろう。

 一方、具体的審議事項にある「教員免許状により一定の専門性を公的に証明する制度の在り方」というのは、民主党が政策集で掲げている中堅教員に対する「専門免許状」の取得義務付けであることはほぼ間違いない。民主党が野党時代に国会に提出した教員免許法改正案によると、教職経験8年以上の教員に学校経営、生徒指導、教科指導などの専門免許状を大学院などで取得することを義務付けている。教職大学院の見直し、10年経験者研修の見直しなどはこれに関係してくる。

 だが、これらの改革案には大学関係者、教育委員会関係者らの反対意見も少なくない。とくに、大学全体の教職課程の見直しとなれば、教職課程を学生獲得に向けのPR材料の一つにしている私立大学にとって死活問題ともなってくる。中教審の審議は紛糾することは必至で、仮に方向がまとまったとしても、具体化には相当の時間がかかるだろう。そして、おそらく政務三役もそのへんは織り込み済みなのではないか。だとしたら、来年1月の通常国会に関係法案を提出するため、鈴木副大臣が中教審に要請した「年内の報告」の内容とは何になるのだろうか。

 それは教員免許更新制の「凍結」だろう。2009年4月から本格的に始まった教員免許更新制の最初の更新期限が到来するのは来年3月末だ。この時、更新講習を満期受講していない者、あるいは講習修了の認定試験に合格していない者がいれば、現職教員の中から免許失効による失職者が生まれることになる。教職員組合などの支持を受けている現政権としては、何としてもこれは避けなければならない。

 ところが、中教審での教員の具体的審議事項は、どれをとってもそれなりに審議に時間がかかるものばかりで、来年の通常国会で教員免許法を抜本的に改正するのは、かなり困難だ。加えて、いくら自民党時代にできた制度だとしても、仮にも国会で成立した法律に基づく制度を効果の検証もせずに簡単に廃止するというのも、あまりに乱暴すぎる。教員免許法の抜本的改正による更新制の廃止は時間的に難しい、けれども免許失効者を出すわけにはいかない――となれば、教員免許法による免許失効の運用のみを凍結するしかあるまい。たぶん、これが当面の落とし所ではないだろうか。

 ただ、教員免許更新制のうち大学における更新講習について鈴木副大臣は「(今後も)やめるつもりはない」と断言している。おそらく、更新講習を「専門免許状」の取得のための講習へと切り替えていくことを想定しているのだろう。となれば、更新講習の受講義務そのものは当面の間続くことになる。更新対象者やその候補者の現職教員は、免許失効がないと気を抜いていると、何らかのペナルティーを科せられることになるかもしれない。

斎藤剛史(さいとう たけふみ)

1958年、茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に記者として入社後、東京都教育庁、旧文部省などを担当。「週刊教育資料」編集部長を経て、1998年に退社し、フリーのライター兼編集者となる。現在、教育行財政を中心に文部科学省、学校現場などを幅広く取材し、「内外教育」(時事通信社)など教育雑誌を中心に執筆活動をしている。ブログ「教育ニュース観察日記」は、更新が途切れがちながらマニアックで偏った内容が一部から好評を博している。

構成・文:斎藤剛史構成・文:斎藤剛史

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