2009.08.11
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いじめ追跡調査結果を読む 子どもを「加害者」にさせない指導を

いじめは、現在の学校において最大の問題の一つだ。そして、各種の調査結果や専門家の研究などから、いじめは普通の学校のごく普通の子どもたちの間で起こることがわかっている。しかし社会一般では、いまだにいじめは特別な子どもたちによる問題であるなどの「思い込み」も根強く残っている。今回は、追跡調査というこれまであまり例のないデータを基に、いじめ問題について考えてみたい。

いじめは、現在の学校において最大の問題の一つだ。そして、各種の調査結果や専門家の研究などから、いじめは普通の学校のごく普通の子どもたちの間で起こることがわかっている。しかし社会一般では、いまだにいじめは特別な子どもたちによる問題であるなどの「思い込み」も根強く残っている。今回は、追跡調査というこれまであまり例のないデータを基に、いじめ問題について考えてみたい。

「いじめっ子」「いじめられっ子」は各0.3% 

 文部科学省の国立教育政策研究所はこのほど、「いじめ追跡調査2004~2006」の結果をまとめた。調査は、公立小・中学校計19校の小4~中3の児童生徒約4800人を対象に2004年6月から半年ごとに約3年間にわたって実施した。いじめに関する実態調査は多いが、ほとんどが1回限りで、学校と子どもたちがその後どうなったのかを知ることはできなかった。

 まず追跡調査の結果で注目されるのは、「いじめっ子」「いじめられっ子」と言われるような子どもは、ごくまれな存在であることが明らかになったことだ。中学1年生で「週1回以上」のいじめ(仲間外れ、無視、陰口)を受けていた子どもは2004年6月時点で56人いた。この56人のうち半年後の11月まで引き続きいじめを受け続けた子どもは23人、さらに1年後の中学2年生の6月時点では15人、中学3年生の11月時点では2人(0.3%)だった。

 もちろん、各調査の時点で「週1回以上」のいじめを受けている子どもは相当数の割合でいるが、3年間を通して見れば、ずっといじめを受け続ける子どもの割合は0.3%ということになる。同様に「週1回以上」のいじめを3年間繰り返した子どもの割合も0.3%だった。この割合は、小学校でもほぼ同じだ。

 家庭的背景や本人の性格などの問題から「気になる子ども」「なんとなく浮いた子ども」というのは実感的には確かにいる。このため、社会一般や保護者の中には、自分の子ども時代の経験などから、いじめは「いじめっ子」や「いじめられっ子」という特別な子どもの問題で、子どもの多くは直接関係していないというイメージを持ちがちだ。同様に、「内心ではいじめられる子どもにも問題がある」と思っている者も少なくないと言われるが、これも「いじめ=特別な子どもの問題」という固定観念からくるものだろう。

 しかしデータを見れば、仲間外れ、無視、陰口によるいじめにおいて、「いじめっ子」「いじめられっ子」は、統計的にはそれぞれ1000人中3人しかいないと言える。これは、いじめは決して特別な子どもたちの間の出来事ではなく、「普通の子どもたち」の問題だということを意味している。

特別な背景とは関係なく起こるいじめ

 また、学区を基盤とする公立小・中学校では、地域や子どもの実態などから「問題の多い学校、少ない学校」という言われ方をすることがある。当然、いじめ問題についても「あの学校はいじめの多い、あの学校は少ない」などという風評に悩まされる場合も少なくない。だが、本当のところはどうなのだろうか。

 いじめの被害を受けた子どもの割合を見ると、確かにいじめが多い学校と少ない学校がある。しかし、被害の割合を半年ごとに追っていくと、各学校の順位は大きく変動していることがわかった。この結果から同研究所は、「(いじめは)地域的な『格差』といった表現で言い表されるような偏りは存在しない」と結論付けている。

 同じようなことは、いわゆる問題児が多い「特別な学年」にも言える。特定の学年の子どもたちが卒業したとたんに、学校が落ち着いたということも実際の学校現場ではそんなに珍しいことではないが、追跡調査の結果を見ると、「仲間外れ、無視、陰口」によるいじめの被害率が極めて高かった学年の子どもたちは、次年度も被害率が高いとは言い切れないということがわかった。やはり同研究所は、問題を抱える子どもが多いなどの「問題の有無とはさほど関係なく、いじめは起きる」と分析している。

約8割が被害者であると同時に加害者

 このほか、追跡調査の結果の中で見逃せないのが、仲間外れ、無視、陰口といったいじめの被害経験と共に加害経験の多さだ。2004年6月時点で、いじめを全く受けたことがない小学4年生の子どもの割合は46.2%だったが、2006年11月時点でいじめを受けたことがない小学6年生の割合は13.1%。一方、いじめを全くしたことがないという子どもの割合は、小学4年生6月時点で56.1%だったのが、3年後の6年生の11月時点では16.0%となっている。小学4年生から6年生の3年間で、86・9%の子どもがいじめの被害を受けるとともに、84・0%の子どもがいじめに加担した計算になる。

 中学校でも2004年6月時点でいじめの被害に全く遭ったことがない子どもは1年生のうち58・4%だったものが、3年生になると19・7%(2006年11月時点)に減少する。一方、いじめを全くしたことがないという子どもの割合は、中学1年生で52・5%だったが、3年生では18・7%に減少している。やはり3年間で、80・3%の子どもがいじめを受け、81・3%の子どもがいじめに加担したことになる。

 小・中学生の8割以上がいじめの被害に遭い、同じく8割以上がいじめに加担したということは、子どもたちの多くがいじめの被害者であると同時に加害者でもあることを意味している。現在のいじめは、被害者と加害者の立場が簡単に入れ替わるところに特徴があると専門家などは前から指摘していたが、追跡調査の結果はこの見解を裏付けたと言える。

 いじめは、特定の子どもだけの問題ではなく、ごく普通の子どもたちの問題だ。そして、いじめは、地域や子どもの実情といった特別な背景とは関係なく起こる。しかも、加害者と被害者が容易に入れ替わる。ここに現在のいじめ問題の難しさがある。しかし、加害者と被害者の子どもたちが重なっているという点こそが、いじめ問題を解決するための最大のポイントであると見ることはできないだろうか。

 この点に着目した同研究所は、いじめ問題の解決方策は子どもたちを「加害者にさせないこと」であると提言している。現在のいじめに多く見られる仲間外れ、無視、陰口などは、暴力行為などと比べればささいな行為とも見えるだけに、子どもたちにとっては罪悪感が少ないのだろう。加えて、自分がいじめの標的になりたくないという意識も働いて、被害者が一転して加害者の立場に立ってしまう。もちろん、いじめから被害者を守ることは重要なことだが、それだけでは根本的な解決にはつながらない。

 学校現場には「いじめはよくない」と説く指導から、もう一歩踏み込んで「加害者させない」という指導が必要なのではないか。同じく、保護者にも自分の子どもがいじめの被害者になるのを心配するだけでなく、「わが子を加害者にさせない」という意識を持ってもらうことも必要だ。

 同研究所は、「加害者がいなくなれば、おのずから被害者もいなくなる」と指摘している。

構成・文:斎藤剛史

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