2009.06.09
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公立中高一貫見直しへ

公立中高一貫教育校が全国的に人気を集めている。公立の授業料で私立並みの中高一貫教育を受けられることが人気の理由だが、一部で公立によるエリート教育という批判も根強い。その公立中高一貫教育の在り方を見直す動きが出てきた。文部科学省が、中央教育審議会にその見直しを諮問する方針を決めたからだ。公立中高一貫教育校は、これからどうなるのだろうか。

公立中高一貫教育校が全国的に人気を集めている。公立の授業料で私立並みの中高一貫教育を受けられることが人気の理由だが、一部で公立によるエリート教育という批判も根強い。その公立中高一貫教育の在り方を見直す動きが出てきた。文部科学省が、中央教育審議会にその見直しを諮問する方針を決めたからだ。公立中高一貫教育校は、これからどうなるのだろうか。

「中高一貫校」と「中高一貫教育校」の違い

 最初に、中高一貫教育校の説明をしておこう。教育関係者の間でもよく間違うことがあるが、従来からある国私立学校の「中高一貫校」と、新しい制度である「中高一貫教育校」は、まったく違うものだ。従来の「中高一貫校」は、同じ設置者(学校法人)によって設立された中学校と高校において、実質的に6年一貫のカリキュラムを組んでいるに過ぎない。

 これに対して「中高一貫教育校」は、1999年の改正学校教育法によって新しく設けられた制度だ。それまで一貫教育ができなかった公立学校を対象にした制度と受け止められたため、公立学校のみの制度と思われがちだが、国公私立を問わず対象となる。

 中高一貫教育校には、(1)中等教育学校=6年一貫の新しい学校制度、(2)併設型=県立中学校と県立高校など設置者が同じ中学校と高校を併設させたもの。従来の私立中高一貫校に最も近い、(3)連携型=市町村立中学校と都道府県立高校など設置者が異なる中学校と高校を連携させたもの、――の3つのタイプがある。このうち、中学校で高校段階の学習を先取りできるなど学習指導要領の特例が認められているのは、(1)中等教育学校と(2)併設型の2つだ。

 ちなみに従来からある私立中高一貫校は、実態として一貫教育を行っているものの、制度的には学習内容の先取りなど学習指導要領の特例は認められていない。学習内容の先取りなどを謳う私立中高一貫校もあるが、これは学習指導要領違反の疑いがある。大学受験のため世界史などの必履修科目を生徒に履修させなかったという、いわゆる「未履修問題」を契機に、文科省が学習指導要領の運用の厳格化を求めた2007年以降、併設型中高一貫教育校として都道府県の認可を取り直す私立中高一貫校が増えているのは、このためだ。

学力低下批判で変質した公立一貫教育校

 文科省よると、2008年度の中高一貫教育校の数は、(1)中等教育学校36校(国3、公20、私13)、(2)併設型219校(国1、公60、私158)、(3)連携型79校(公78、私1)の計334校。このうち連携型は、廃校の危機から地元高校を守るため連携型を取るケースが多い。つまり、現在話題になっている公立中高一貫教育校は、中等教育学校と併設型の公立80校を指している。

 今では意外に感じる人も多いだろうが、中高一貫教育校が学校教育法の改正によって制度化された当時、エリート教育に対する社会全体の批判は根強いものがあり、公立中高一貫教育校の創設に反対する声も多かった。このため、学校教育法の改正の際には、国会で付帯決議がつけられ、公立中高一貫教育校では中学校段階で学力検査を課してはならないなど、「受験エリート校化」しないようにさまざまな歯止めがかけられた。当初に創設された公立中高一貫教育校は、環境教育など「特色ある教育」を謳ったものがほとんどで、あくまで例外的な教育機関というイメージが強かった。

 その公立中高一貫校のイメージが変わり始めたのは、いわゆる「ゆとり教育」による学力低下が社会問題となり始めた時期と重なる。また、「進学指導重点校」の指定など従来の公立学校のタブーを破るような手法で「都立高校の復権」に取り組み始めた東京都教育委員会が、都立中高一貫教育校の目標として「社会のリーダー層となる生徒の育成」を掲げたことも全国の公立中高一貫教育校の在り方に大きな影響を及ぼした。

 このように、社会全体で学力向上が優先課題となり、公立学校における進学指導重点教育やエリート教育に対する社会の反発が弱まるにつれ、各都道府県教委は進学を念頭に置いた公立中高一貫教育校の設置を進めていった。なかには、旧制からの伝統校や県内トップの進学校を中高一貫教育校にする都道府県教委も現れた。社会や保護者もこれを支持して、公立中高一貫教育校の競争率も急上昇し、中学校段階では「適性検査」という名前の実質的な入試が常態化するようになった。中学受験の進学塾の中には、既に公立中高一貫教育校向けのコースを設けているところもある。

社会の受け止め方が最大のポイントに

 文科省が、公立中高一貫教育校の在り方を見直すことにしたのは、公立中高一貫教育校が受験競争の激化、低年齢化を招いているという批判が強まったためだとマスコミなどでは報道されている。では、公立中高一貫教育校は、制度創設当初のような「特色ある教育をする学校」に回帰していくのだろうか。おそらく、そうはならないと思う。

 その理由の一つ目は、公立中高一貫教育校の見直しは、文科省の意思ではなく、政府の規制改革会議による圧力が発端となっているからだ。さらに、規制改革会議は、公立中高一貫教育校の「受験エリート校化」を批判しているものの、「中高一貫教育というビジネスモデルに、授業料が無償という優位性を持つ公立学校が参入し、(中略)官による民業の圧迫に当たると考えざるを得ない」(3次答申)という、やや的外れ的な発想が背景にある。影響力が衰退しつつある規制改革会議に対して、文科省が素直に応じるとは思えない。

 理由の二つ目は、公立学校の在り方に対する社会の考え方の変化だ。前述のように公立中高一貫教育校が変質した背景には、公立学校でも学力向上を進めるべきだという社会の支持がある。受験競争の激化、低年齢化は問題だが、それは私立中高一貫校も同じだ。私立はよくて、公立はだめという規制改革会議の指摘に、現在の保護者や社会がどの程度納得するだろうか。

 そして三つ目は、文科省の本当の狙いが、ほかにあると思われることだ。中教審は、公立中高一貫教育校の見直しを「学校間の接続」問題の一環として審議する方針だ。これについて文科省の初中教育局担当審議官がある講演で、「中高一貫教育校の見直しと同時に、『義務教育学校』の創設がテーマとなる」と話している。小学校と中学校を合わせた小中一貫教育は、東京都品川区などをはじめとして全国にひろがりつつあるが、これを9年一貫の「義務教育学校」として制度化しようというのが文科省の狙いだ。要するに、中教審の議論の重点は、公立中高一貫教育校の見直しではなく、現行の小・中学校制度に加えて「義務教育学校」という選択肢をつくることにあるとみられる。

 だが、公立中高一貫教育校への受験競争が、これ以上激化するのは好ましくないのも確かだ。中教審で何らかの是正方策が提言されることは間違いないだろう。この場合、私立中高一貫校の入試の在り方も議題となる可能性もある。入試の激化、低年齢化という意味では、私立学校も同じだからだ。

 いずれにしろ、進学校化の傾向を次第に強めていく公立中高一貫教育校について、保護者や社会全体がどう受け止め、どう評価しているのかが、議論を左右する最大のポイントとなろう。文科省は、社会全体の意向を慎重に分析しながら、公立中高一貫教育校はどうあるべきかという議論の「落とし所」を探っていくのではないだろうか。

構成・文:斎藤剛史

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