意外と知らない"専門高校における産学連携"(第2回) 単発で終わらせない―産学連携を「続く学び」にする3つのポイント

専門高校では、企業による出前授業や工場見学、インターンシップなど、さまざまな産学連携が行われています。こうした取組は、生徒が地域の仕事や産業を知り、学校で学ぶ知識や技術が実社会でどのように使われているのかを確かめる貴重な機会です。第1回では、全国の専門高校の88.5%が産学連携に取り組む一方、教育課程の一環として継続的に実施している学校(学科)は54.3%にとどまることを紹介しました。
第2回は、令和3(2021)年度から5年間にわたる「マイスター・ハイスクール事業」等の成果や全国調査をもとに、持続的な産学連携を実現するために、特に重要だと考えた三つのポイントを、実証校等の具体的な取組とともに紹介します。
単発の取組を、「きっかけ」で終わらせない
産学連携そのものは多くの学校に広がっています。しかし、それを毎年の教育活動として定着させ、生徒の学びを段階的に深める取組にできている学校は、まだ半数程度です。こうした現状を踏まえ、文部科学省の委託事業の成果として、2026年3月に「専門高校における産学連携ガイドブック―地域人材育成のための取組指針と実践事例―」が発行されました。令和3年度から5年間にわたる「マイスター・ハイスクール事業」等の成果や全国調査をもとに、産学連携の目指す姿、進め方、支える体制、各地の実践事例を整理したものです。
私たち内田洋行教育総合研究所は、文部科学省から「マイスター・ハイスクールネットワーク構築にかかる支援及び専門高校の産学連携に関する調査研究業務」を複数年度にわたり受託し、このガイドブックの制作に携わりました。全国の学校や企業を対象とした調査、実証校等へのヒアリングや訪問を重ねる中で繰り返し感じるのは、取組の数を増やすだけでは、持続的な産学連携にはならないということです。問われるのは、一つ一つの経験を生徒の学びとしてどうつなぎ、学校と地域の仕組みとしてどう続けるかです。
企業による講話や見学、短期の職場体験は、産学連携の出発点にはなります。ただし、それだけで生徒の学びが十分に深まるわけではありません。そこで生まれた気付きや関心を、その後の授業や実習、課題研究につなげる必要があります。
ガイドブックP.18~19では、単発の出前授業やイベントを「きっかけ」にとどめず、体系化された学びの中で産業界が継続して関わることの重要性が示されています。
一度の体験だけでは、「面白かった」「知らなかったことを学べた」という感想にとどまってしまうことがあります。そこで生まれた気付きや問いを、授業や実習、課題研究へつなぎ、自分なりの考えや方法を試し、また産業界から助言を受け、成果を発表する。その過程を通じて、生徒の知識や技術は、実際の課題に向き合うための力になっていきます。
大切なのは、同じ企業に何度も来てもらうことだけではありません。企業人による講義、実技指導、現場の課題の提示、探究への助言、成果発表での講評など、さまざまな形で産業界が学びの過程に関わり続けることです。個々の活動を「点」のまま増やすのではなく、体系化された学びの中でつなぎ、「面」にしていく必要があります。
では、単発の取組を「続く学び」に変えるためには、何が必要なのでしょうか。ここからは次の三つのポイントを、事例に即して見ていきます。
- 産学連携を教育課程に位置付ける
- 産業界が組織的に参画できる体制をつくる
- 学校と産業界が求める人材像を共有する
ポイント1 産学連携を教育課程に位置付ける
産業界の今とこれからを見据え、教育課程をともに考える
第一のポイントは、産学連携を「特別なイベント」として教育活動の外側に置くのではなく、教科・科目や年間指導計画の中に位置付けることです。産業界と連携して行うさまざまな取組を、その前後の授業や実習、課題研究とつなぎ、生徒の学びが段階的に深まる流れをつくります。
こうした学びの流れをつくる上では、現在や近い将来に求められる力を学びにどう反映するかを考えることが欠かせません。そのためには、学校が教育課程を固めた後で企業に協力を求めるのではなく、育てたい力を見据え、必要な学習内容や産業界の関わり方を構想段階からともに考えることが重要です。
その背景には、産業の変化の速さがあります。学習指導要領は、およそ10年に1度改訂されます。その間にも、産業の現場では、技術が日進月歩で進化し、仕事の進め方や求められる判断基準も目まぐるしく変化しています。私たちが行ったヒアリング調査でも、指導内容が長年変わっていないとの指摘や、最新技術への対応を学校だけで進めることは難しいとの声を多く聞きました。
この時間差を埋め、現場の変化を学びに反映し続けることを、学校や教員だけに委ねることには限界があります。現在や近い将来に必要となる力を教育課程に反映するには、何をいつ学ぶかを検討する段階から産業界と連携し、授業の実施や見直しまでをともに進めることが欠かせません。
そこで、共有した育てたい力を起点に、必要な学習内容と学習活動を組立て、その中で産業界が関わる段階と役割を考えます。そうすることで、産学連携を「企業に何をお願いするか」という発想ではなく、「生徒の学びを深めるために、いつ、どのような協働が必要か」という視点から設計できるようになります。
静岡県立浜松城北工業高等学校:「ロボットを使って課題解決ができる」人材の育成
産業界の関わりを教育課程の中に組み込んだ例が、静岡県立浜松城北工業高等学校です。同校では、「ロボットを使って課題解決ができる」人材の育成を目標に学校設定科目を新設し、3年間の段階的な学びを組み立てています。1年次の学校設定科目「ロボティクス概論」では、ロボットの概要や学ぶ意義を知ります。2年次の「ロボティクス実習」では、ヤマハ発動機をはじめとする地域ロボティクス関連企業から実習場所の提供や講師の派遣を受け、構造・制御・操作、安全教育、製造実務、プログラミングなどを体験的に学びます。3年次の「課題研究」では、それまでに身に付けた知識や技術を使い、生徒自身が設定した課題の解決に取り組みます。(ガイドブックP.34~35)
この取組では、1年次の「知る」、2年次の「体験し、蓄積する」、3年次の「実践し、深める」という学びの流れの中で、企業による実習が3年間の学びの中に明確に位置付けられており、企業による講義や実習が独立したイベントになっていません。企業との活動を増やしたこと以上に、学校設定科目を活用して、基礎から実践、課題解決までを教育課程としてつないだことが重要です。
すべての学校が新しい科目を設ける必要はありません。すでに行っている出前授業や企業見学について、事前に何を学び、そこで何に気付き、その後の授業や課題研究で何を深めるのかを整理するだけでも、単発の体験を学びの流れに位置付け直すことができます。
ポイント2 産業界が組織的に参画できる体制をつくる
教育課程に位置付けた取組は、毎年安定して実施できなければなりません。しかし、連携先の開拓、日程調整、授業内容のすり合わせを担当の教員が一手に担い、企業側も一人の担当者の熱意に頼る形では、異動や担当交代によって取組が途切れやすくなります。人と人とのつながりを大切にしながら、それを組織的に支える仕組みへ発展させる必要があります。
その方法は大きく二つあります。一つは、学校と産業界をつなぐ支援人材を置く方法です。
新潟県立海洋高等学校:マイスター・ハイスクールCEO
新潟県立海洋高等学校では、同校の水産科教員として長年勤務した元教員を、マイスター・ハイスクールCEOとして迎えています。退職後には、海洋高校の生徒とともに開発した商品を継続的に生産・販売する会社を設立するなど、学校教育と地域産業の双方に関わり続けてきた方です。
マイスター・ハイスクールCEOは、連携先との連絡調整や新規開拓だけでなく、課題解決型学習(PBL)全体のマネジメント、校内委員会での指導・助言・評価、教員研修の企画なども担います。着任当初は週3日学校に入り、教員とともに取組を進めながら、人脈や調整の方法も伝えてきました。その後は関与の頻度を調整し、学校が自ら取組を動かせるよう支えています。支援人材が業務を肩代わりするだけでなく、学校に力を残すことまで見据えている点に特徴があります。(ガイドブックP.64~65)
福井県立武生商工高等学校:経済団体のネットワークを生かす
もう一つは、地域の企業ネットワークをもつ団体に橋渡し役を担ってもらう方法です。福井県立武生商工高等学校では、2年次の課題研究で地域企業4社から提示されたテーマに生徒が取り組んでいます。連携企業の選定や学校との調整を担うのが、福井県中小企業団体中央会です。同会は、学校が目指す学びを踏まえて企業を探し、年間を通して参画できる体制があるかを確認します。企業の選定後も打合せに同席し、生徒の成長につながり、企業にとっても無理のないテーマになるよう、双方の間に入って調整しています。(ガイドブックP.66~67)
海洋高校のように学校に深く関わる支援人材を置く方法もあれば、武生商工高校のように経済団体のネットワークを生かす方法もあります。共通しているのは、学校だけですべてを抱え込まず、連携先を探す役割、教育活動として組み立てる役割、関係者間の調整を行う役割を明確にしていることです。地域の状況に応じて、教育委員会、自治体の産業振興部局、商工会議所、商工会、農業協同組合、業界団体、金融機関などの力を借りることも考えられます。
ポイント3 学校と産業界が求める人材像を共有する
福井県立坂井高等学校:約50団体が参画する「坂井高校コンソーシアム」
三つ目のポイントは、「どのような人材を、ともに育てたいのか」を学校と産業界で共有することです。ただし、学校が人材像を決め、それを企業に説明して賛同を求めればよいわけではありません。学校が育てたい力と、地域産業が将来必要とする力について、双方が意見を出し、一緒に考える過程が重要です。
福井県立坂井高等学校では、企業、自治体、金融機関、大学など約50団体が参加する「坂井高校コンソーシアム」を設置しています。これは、個々の授業に無償で協力する企業を集めただけの組織ではありません。「地域産業を支える次世代人材を育てる」という目的のもと、探究学習やキャリア教育を含む全校的な教育活動を、地域全体で支えるための基盤です。
コンソーシアムの設立に当たっては、学校が設立趣意書を作成して近隣企業を訪問し、目的が単なる就職人材の確保ではないことを説明しました。坂井高校で学んだ生徒が将来地域で働き、地域産業に貢献することが、長期的には企業にも還元されるという見通しを共有した上で、企業に参画を呼び掛けています。
さらに、生徒、教員、企業、行政担当者が同じ場に集まる合同研修会を定期的に開き、地域の未来や人材育成の方向性について意見を交わします。ここで重要なのは、完成した人材像を一方向に伝えるのではなく、立場の異なる関係者が対等に議論し、何を目指すのかを確かめ続けていることです。
こうした場があることで、企業も「自分たちは、どのような経験や知見を提供できるか」を考え、単なる協力者ではなく、人材育成の当事者として関わりやすくなります。また、連携が長く続く中で目的が曖昧になることを防ぎ、互いの役割を見直す機会にもなっています。(ガイドブックP.74~75)
三つのポイントを、学校の取組にどう生かすか
ここまで紹介した三つのポイントは、別々に進めればよいものではありません。学校と産業界が育てたい人材像を話し合い、そのために必要な学びを教育課程に位置付け、毎年実施できるよう役割分担や調整体制を整える。実施後には、生徒の学びや運営上の課題を振り返り、次年度の授業や体制を見直します。
どれか一つが欠けても、取組は続きにくくなります。人材像だけを掲げても、授業に反映されなければ生徒の学びは変わりません。教育課程に位置付けても、担当教員だけが調整を担えば長く続けることは難しくなります。また、体制だけをつくっても、何を目指すのかが共有されていなければ、活動そのものが目的になってしまいます。
産学連携の目的は、企業と連携すること自体でも、目新しい活動を増やすことでもありません。生徒が学校で学ぶ知識や技術を実際の仕事や地域の課題と結び付け、考え、試し、振り返る機会をつくることです。
最初から大規模なコンソーシアムを設けたり、教育課程全体を組み替えたりする必要はありません。まずは、すでに行っている出前授業や企業見学について、学校と産業界で三つの問いについて話し合うことから始められます。
- この活動で、生徒にどのような力を身に付けてほしいか。
- 前後の授業や課題研究と、どうつなげるか。
- 担当者が替わっても続けるには、誰がどの役割を担うか。
こうした点を学校と産業界が一緒に確認することで、今ある取組を教育課程の中に位置付け、継続できる形へ見直すことができます。大切なのは、生徒にどのような学びをもたらすのかを、学校と産業界が問い続けることです。

井上 信介(いのうえ しんすけ)
株式会社内田洋行 教育総合研究所 主幹研究員
内田洋行入社以来、ユビキタスネットワークに関わる研究、システム開発、新規事業の立ち上げに従事。2012年から教育総合研究所に所属。専門分野は、初等中等教育におけるICT活用、教育DXなど。児童生徒用端末1人1台環境、遠隔・オンライン教育に加え、近年は、専門高校における産学連携や、学校における生成AI活用に関する調査研究にも取り組んでいる。文部科学省や総務省の委託事業を多数担当し、実証研究を通じて、現場の実践に根ざした知見の収集分析とモデル構築に取り組んでいる。
また、大学・研究機関との共同研究などを通じて、ICTを基盤とした「学びの質的転換」と学校教育の新たな姿を探究している。国立教育政策研究所文教施設研究センター「創造的な学習空間の創出に関する調査研究(2021-2022)」に調査研究協力者として参画。
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