意外と知らない"専門高校における産学連携"(第1回) 専門高校における産学連携の実態

みなさんは、どのような高校に通っていましたか? 専門高校は、農業・工業・商業......と地域産業を支える人材を学科ごとに育成しています。変化の激しい時代に、在籍する生徒たちがより高度な専門性、AIにとって代わられない仕事のスキルを身に付けるためには、教職員だけでなく、現場を熟知した産業界からのサポートも重要です。本シリーズでは、「専門高校における産学連携」について整理して紹介します。
専門高校とは?
専門高校とは、高等学校のうち、農業、工業、商業、水産、家庭、看護、情報、福祉の職業教育を主とする専門学科を置く高等学校のことです。日本の高校生の約16.9%、つまり6人に1人が通っています(計48万人、図1)。学科数で表すと、全日制の学科の29.2%が職業教育を主とする専門学科に該当します(計1,706学科)。
普通科は国語・数学・理科……といった普通教育に関する各教科・科目を履修しますが、職業学科ではそれらに加え、専門教育に関する各教科・科目を履修します(表1)。科目が多岐にわたり、専門高校は“興味をとことん追究できる高校”といっても過言ではないでしょう。みなさんにとっても、惹きつけられる科目が見つかったのではないでしょうか?
| 教科 | 科目の例 ※出典:文部科学省 高等学校 学習指導要領(平成30年告示) |
|---|---|
| 農業 | 農業と環境、農業と情報、作物、野菜、果樹、草花、畜産、植物バイオテクノロジー、食品製造、森林科学、農業土木設計、水循環、造園計画、生物活用、地域資源活用 等 |
| 工業 | 工業技術基礎、製図、工業情報数理、工業材料技術、工業技術英語、機械工作、機械設計、電子機械、生産技術、自動車工学、船舶工学、電気回路、電力技術、通信技術、プログラミング技術、建築構造、衛生・防災設備、土木基盤力学、工業化学、化学工学、材料工学、セラミック化学、繊維製品、インテリア計画、デザイン実践 等 |
| 商業 | ビジネス基礎、ビジネス・コミュニケーション、マーケティング、商品開発と流通、観光ビジネス、ビジネス・マネジメント、グローバル経済、ビジネス法規、簿記、財務会計Ⅰ・Ⅱ、原価計算、管理会計、情報処理、ソフトウェア活用、プログラミング、ネットワーク活用 等 |
| 水産 | 水産海洋基礎、海洋情報技術、水産海洋科学、漁業、航海・計器、船舶運用、機械設計工作、電気理論、海洋通信技術、資源増殖、海洋生物、海洋環境、小型船舶、食品製造、食品管理、水産流通、ダイビング、マリンスポーツ 等 |
| 家庭 | 生活産業基礎、消費生活、保育基礎、保育実践、生活と福祉、住生活デザイン、服飾文化、ファッション造形、ファッションデザイン、服飾手芸、フードデザイン、食文化、調理、栄養、食品、食品衛生、公衆衛生、総合調理実習 等 |
| 看護 | 基礎看護、人体の構造と機能、疾病の成り立ちと回復の促進、健康支援と社会保障制度、成人看護、老年看護、小児看護、母性看護、精神看護、在宅看護、看護の統合と実践、看護臨地実習、看護情報 等 |
| 情報 | 情報産業と社会、情報テクノロジー、情報セキュリティ、情報システムのプログラミング、ネットワークシステム、データベース、情報デザイン、コンテンツの制作と発信、メディアとサービス、情報実習 等 |
| 福祉 | 社会福祉基礎、介護福祉基礎、コミュニケーション技術、生活支援技術、介護過程、介護実習、こころとからだの理解、福祉情報 等 |
履修科目に即して、教職員の体制や施設・設備にも特徴があります。
教職員としては、普通教科に加え、専門教科を担当する教職員も配置されています。免許状取得の代表的な方法としては、①大学で学位と教職課程等での単位取得をして普通免許状を取得する方法や、②(教職課程で学んでいなくても)教育職員検定を経て特別免許状を取得する方法があります。①については、専門教科の免許が取得できる大学・学部は限定されています。例えば、「工学部」でも「工業」の免許状が取得できるとは限りません。免許状取得を目指す場合は受験前に大学HPなどから「取得できる免許状/資格」の情報を確認する必要があります。②は、優れた知識・経験を有する社会人にも教職への道を開くことを意図して設けられています。
施設・設備としては、専門教科に即した各種実習室・実験室・実習場や機器・設備・ソフトウェアなどが整備されており、実際の職業現場と近い環境で学ぶことができます。学科ごとに特色があるものとしては、例えば農業科だと農場・温室・畜舎・演習林、水産科だと実習船・水産加工室・潜水プールなどがあります。

専門高校には専門教科を担当する教職員も、施設・設備もあるため、産学連携をわざわざしなくてもよいと思われるかもしれません。しかし、近年は急速に社会が変化し、テクノロジーも進化し続けています。こうした背景により、教職員にとっては日常業務と並行して産業界の動向に追いつくことが困難です。
こうした背景により、現場(産業界)から鮮度の高い学びを提供し、学校をサポートする必要性が高まっていると言えます。生徒たちに産業界のリアルな魅力が伝わることは、ひいては自らのキャリアと正対することのサポートにもつながるでしょう(図2)。
全国の専門高校抽出調査からみられた実態
では、専門高校において、産業界と連携した教育はどのように/どのくらい行われているでしょうか?文部科学省の「マイスター・ハイスクール普及促進事業」では、令和6・7(2024・2025)年に全国の専門高校を抽出して対象にした質問調査が実施されました。代表的なデータを以下の(1)~(5)で紹介します。
なお、以下のオレンジ色のグラフは令和7年度、ブルーのグラフは令和6年度の調査結果です。
(1)産学連携の実施状況
専門高校のうち、産学連携を行っている学校(学科)の割合は88.5%です。ただし、連携の深さにまで着目すると、教育課程の一環として継続的に産学連携の取組を実施しているのは54.3%にとどまります(例:探究的な学び、専門教科)。産学連携を実施していない学科(11.4%)や実施していても単発的な取組である学科(34.2%)の最大の理由は、「教職員の負担」でした。


(2)連携の規模
連携の規模は学校ごとに異なります。産学連携を行っている専門高校のうち、コンパクトに1~5つの組織と連携している学科、広く6つ以上の組織と連携している学科の数は、およそ1:1の割合です。
(3)取組内容
産学連携の取組は幅広いですが、最も多く実施されている取組は、産業界による出前授業・講演(74.8%)、次いで短期のインターンシップ・職場体験等の実施(73.6%)でした。継続的な指導を伴うような、教育課程内の取組やプロジェクト型・課題探究型学習、発表会・イベントの実施等は半数以下にとどまります。
(4)産学連携のメリット
産学連携を行っている専門高校では、どのようなメリットを感じているでしょうか。7割以上の学科は、生徒のキャリア意識が高まることや、地域社会や産業界との関係が深まることと回答しています。回答割合は3割程度ですが、教員にもたらす効果として、自身の研鑽に取り組むようになる点も指摘されています。
全国調査ではありませんが、専門高校と連携する企業・団体側が感じているメリットとしては、自組織の認知度の向上、CSRの達成、地域産業の発展などがアンケートから示されています。回答割合は3割程度ですが、充実した人材募集活動ができることも挙げられています。
(5)連携体制や資金提供の実態~産学連携のヒント~
専門高校で産学連携を行いやすくするには、どのようにすればよいでしょうか。例えば(1)のデータから読み解くと、教職員の負担を軽減することがカギとなりそうです。例えば、連携体制について、9割以上の学科は個々の企業や団体等と個別に連携することがありますが、商工会や農協などの産業団体を通じて複数企業・団体等と連携している学科は4割程度にとどまります。業界を熟知した産業団体の協力が得られれば、より効率的に、かつより適任の企業・団体等と繋がりがもてる可能性があります。
また、学校が所在する市町村からの協力で、産学連携に関わる資金や人材の提供等を受けている学科もありました(3割程度)。地域産業を支える機能として、学校設置者(都道府県教育委員会など)だけでなく市町村からの支援を得ることも一案のようです。
なぜ今、専門高校?~専門高校にまつわる国の事業やコンテンツ~
今、これまで以上に専門高校が注目されています。理由としては、近年の少子高齢化による人手不足や地方の過疎化、AIをはじめとするデジタル技術の急速な発展などにより、専門的な知識・技術を身に付けた人材を輩出する専門高校の役割が一層重要になっていることが挙げられます。2040年における需要数と供給数の推計を照らすと、事務職は約440万人余剰となる一方で、例えば工業についてはAI・ロボット等の利活用を担う人材が約340万人不足すると考えられています(図2)。また、これからの社会では、知識や技能だけでなく、自ら課題を見つけ、多様な人々と協働しながら新たな価値を生み出す力も求められます。こうした背景から、産業界や大学、自治体と連携した実践的な学びを強化するなどし、専門高校の機能強化や魅力向上を進める取組が加速しています。
以下では専門高校や産業教育の振興を象徴する事業を紹介します。
例えば、文部科学省では令和3~7(2021~2025)年度、専門高校を主な対象として「マイスター・ハイスクール(次世代地域産業人材育成刷新事業)」を実施しました。当事業は2種類に分けられます。
「マイスター・ハイスクール事業」では、専門高校が各業種のプロである産業界と連携して教育課程の刷新・実践などが行われました。また、「マイスター・ハイスクール事業」を発展させた「マイスター・ハイスクール普及促進事業」では産学連携の実践モデルを普及することで全国的に産業界等と専門高校の連携体制を強化し、教育の充実が図られました(図3)。
マイスター・ハイスクールの理念は、同省の「N-E.X.T.(ネクスト)ハイスクール構想~New Education, New Excellence, New Transformation of High Schools~」に受け継がれています。当構想は、将来に向けた「高校教育改革に関する基本方針(グランドデザイン)」です。このグランドデザインの中で、新しい学校のイメージ・取組の1つとして「①専門高校の機能強化・高度化(アドバンスト・エッセンシャルワーカーの育成など)」が挙げられ*、具体的には産業界や大学等と連携・協働した「理論と実践の往還による実践力の習得・向上に資するカリキュラムの実施」や「施設設備の高度化」がイメージされています。当構想では、令和7年度補正予算として2,955億円の高等学校教育改革促進基金が措置され、この基金を活用して各都道府県は高校教育改革の先導拠点を整備します。
* 新しい学校のイメージ・取組には、このほか次の2種類があります。
・②普通科改革を通じた高校の特色化・魅力化(文理の双方の素養を有する人材の育成など)
・③地理的アクセス・多様な学びの確保
さらに、事業や基金だけではありません。以下にある通り、文部科学省のサイトでは専門高校にまつわるWebコンテンツも充実しています。専門高校の魅力が紹介されたり、専門高校での産学連携の好事例が紹介されたりしています。
おわりに
第1回は、専門高校の概要やそこでの産学連携の実態、専門高校がこれまで以上に注目を集めている背景や実例を紹介しました。第2回では、マイスター・ハイスクール普及促進事業から得られた産学連携のノウハウを取り扱います。
構成・文・イラスト(Copilotで出力):内田洋行教育総合研究所 研究員 長谷部
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