2014.10.31
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教育現場からのリポートNO.13 「教室環境を整備しよう」

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

 前回は、教育におけるユニバーサルデザイン(以下UD)についてご紹介しました。そこでは、まず教師と子どもが信頼関係を築くことこそが、UD教育の第一歩であるというお話をさせていただきました。人とのかかわりを学ぶ場である学校においては、まず教師と子どもの人間関係を安定させる必要があります。教師が心を開くことによって、子どもたちも心を開いて接してくれるようになり、それが学校生活をよりよいものにしていく土台となるからです。この考えを第一歩として、今回からは具体的なUD教育のあり方を探っていこうと思います。

 さて、バリアフリーという障害のある方への対応から、誰もが使いやすいUDへの転換は、世界の大きな流れであると言えます。教育現場においても、様々な個性を抱えた子どもたちが一同に集い、そこで生活を共にしていくにあたり、UDの考え方はとても大切になってきています。

 UDを教育に生かそうという研究は、明星大学の小貫先生をはじめとして、たくさんのみなさんが取り組んでいらっしゃいます。私はそれらの研究を参考にさせていただきつつ、自身の経験から参考になりそうなことを中心にお伝えできればと考えています。さらに興味のある方は、書籍などもご参照ください。

 

 今回は、「誰もが生活しやすい場」という視点から、教室環境について考えてみたいと思います。教室は、何はともあれ、きちんと片付いていることが大事であると思っています。換気が十分になされ、適度な光が注ぎ、部屋に入ったときに気分がいいと感じられるような環境でなければ、子どもたちは毎朝登校しようとは思わないでしょう。子どもたちの生活の場だから、多少雑然としていてもいいだろうという考え方は間違いです。

 ただ、住宅展示場の部屋のような、整然とした様子を求めているわけではありません。子どもたちの生活の場としてのあたたかみや、心地よさを併存させながら、きちんと片付いた状態の教室にしていってほしいと思うのです。

 しかし、このような教室環境を維持していくのは、実のところとても苦労のいることです。お子さんをお持ちの方ならおわかりになると思いますが、たとえ一人か二人の子どもを育てるのであっても、家の中を常に片付けておくのは難しいものです。それを、40人近い子どもたちと過ごすにあたって、いつもきれいに保つためには、たくさんの工夫が必要になります。

 

 話はちょっと逸れますが、学校という建物は、非常に使いにくく設計されてきたという歴史があります。昭和25年に当時の文部省が設けた広さの基準は、廊下に面している部分が9メートルで、奥行き7メートルであったとされています。この中に、縦40cm×横60cmの机を並べても、40~50人の子どもたちが勉強できるであろうという計算だったのだと思われます。

 ところが、こういった机上の計算は、実際の環境からはかけ離れています。例えば、ランドセルを入れるロッカーと呼ばれるスペース以外に、子どもたちの荷物をしまう場所が確保できない教室があります。体育着や上履き入れが廊下に設置されているものの、廊下の幅が狭いために通行中に当たることも多く、散乱しがちであることは多くの人が知っていることだと思います。

 体育着や上履き以外に、絵の具セット、習字道具、裁縫道具、音楽で使うリコーダーや楽譜ファイルを入れておく袋、水泳バッグなど、子どもの持ち物はとても多いのです。しかし、それらをきちんと入れるためのスペースを、7×9mの教室に確保しきれるわけがありません。

 机の横に袋類がたくさんかけられていたり、ロッカーの上に積み上げられていたりということがあり、それらが雑然とした雰囲気を醸し出していたとしても、手の打ちようがないという実態があることをご承知おきいただきたいと思います。

 もちろん、こういった施設面での環境を改善するために、方策も取られ始めています。平成17年9月には、「教室等の室内環境の在り方について」という中間報告が学校施設整備指針策定に関する調査研究協力者会議から文科省に提出されています。その結果、これまでのデザインとは大きく異なった、とても美しい教室が作られるようになってきました。今後の施策に期待したいところです。

 

 さて、そういった建物自体の問題点はあるものの、それを言い訳にして雑然とした教室にしておくことはできません。そこに、学校の教職員全体の協力や教員一人一人の知恵や工夫が必要になってくるのです。

 まず、学校全体で、片付け方のルールを明確にしておくことが大切です。これはどこの学校でも行われていますが、ゴミの分別やその処理の仕方については、大人だけではなく子どもも理解しておかなければなりません。燃えるゴミ(あるいは燃やせるゴミ)と、それ以外のゴミは、色分けしたゴミ箱に捨てさせるようにしているところが多いようです。色分けしたり、表示をはっきりと書いておいたりすることが、UD教育につながる第一歩です。

 

 とても小さいことですが、私がいつも気にしているのは、リサイクル用紙の扱いです。自治体によっては、紙のサイズに分けて収集されることもありますし、紙類であれば段ボール箱に乱雑に入れてあってもいいというところもあります。また、名刺より大きなサイズであれば、紙袋などに入れておけばリサイクル可能だというところもあれば、新聞紙のようにひとまとめにできなければ扱えないというところもあります。

 私が勤務した学校の多くでは、子どもたちが工作に使った画用紙の切れ端のようなものであっても、かごに入れさせてリサイクルに回す方法が取られていました。しかし、教師によっては、画用紙の切れ端などを燃えるゴミの箱に捨てさせていることもあって、同じ指導をしてほしいなと感じることが度々ありました。学校単位で統一した指導がなされないと、子どもたちの生活には支障がでてきてしまいます。ですから、分別の仕方に関する指導については、十分に気をつけていただきたいと思います。

 このほか、給食で出るゴミの扱いなども、学校全体で共通理解しておく必要があるでしょう。勤務校では、瓶入りの牛乳を使っていますが、そのキャップ部分にあるビニールフィルムをビニール袋に入れるというやり方をとっています。子どもたちは、手際よくそのフィルムを外していくものの、時々破片が床に落ちてしまうことがあります。それを放置してもよいと考えるのか、拾うように指導するのかということが、教室環境に対する教師の意識の違いになっているような気がするのです。

 小さな指導のひとつひとつが、子どもたちの片付けに対する意識を高めるための大事なポイントとなりますので、丁寧に指導していただきたいと思います。些細なことにも注意を向ける教師であることがわかれば、子どもたちも同様の生活習慣を身に付けることができます。わずかなことは見逃しでもいいのだということを示してしまうと、それが学校生活全体にルーズな雰囲気を広げてしまうことにもなり、好ましい環境を維持していくことが、とても難しくなってしまいます。

 生活する中でのルールをきちんと決め、それを守っていくことで、活動しやすい教室をみんなで作っていこうという気持ちを、子どもたちの心の中に育てていきたいものです。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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