2008.04.08
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保護者等による学校評価はなぜ必要か

昨年6月に成立した改正学校教育法を受けて、今年度より幼稚園から高校まで初等中等教育のすべての学校で学校評価の実施とその結果の公表が義務付けられることになった。大きな焦点は、保護者や地域住民などによる「学校関係者評価」の実施だ。教員の一部には、学校経営にまで保護者が直接口を挟んでくるのかと警戒感を持っている者も少なくない。他方、保護者が学校や教員を監視するための手段として歓迎する声もある。学校評価の義務付けの内容と狙いは何か。そして今後どのように展開していくのだろうか。

4月からすべての学校に「学校評価」が義務付け

 学校運営をマネジメント的にPDCA(Plan-Do-Check-Action)のサイクルでとらえる考え方は既に一般化している。学校に限らず組織は、目的遂行のために計画を立て、計画の達成状況を評価し、さらに計画を見直していくのは当然だ。

 しかし、これまで学校では、教育目標に沿った年間計画を立てても、その具体的成果はあまり問題にされなかった。教育目標として抽象的理念を掲げることが多かったせいもあるが、「教育の成果を短期間で測ることはできない」という考え方が教員の間に深く根づいていたことが主な理由だ。だが、一般的な視点から見れば、達成状況の評価なしに新たな計画を組めるはずがないというのが常識となっている。

 このような一般社会と教員の認識のズレが、学校に対して「毎年同じことを繰り返しているだけ」「評価を恐れるのは成果がないことを隠すためだ」などという批判を生んでいると言ってよい。いわば、教育活動に対する点検・評価は、これまでの学校や教員が一番苦手とするところだった。

 ところが、教育の個性化・特色化が各学校に求められるようになり、学校マネジメントの重視とともに学校評価の必要性が叫ばれ始め、小学校設置基準(中・高校へも準用)の策定によって2002年度から学校評価が導入されることになった。同設置基準では、学校評価のうち学校自らによる「自己評価」の実施を「努力義務」として規定している。

 一応、実施するよう努めるという努力義務ではあるものの、文部科学省が昨年3月に発表した2005年度調査の結果によると、幼稚園から高校までの公立学校全体で97.9%、私立学校全体で69.6%が「自己評価」を実施しており、公立学校に限ればほぼ全部の学校が自己評価による学校評価を行っている。

 一方、地方分権や規制緩和の推進、情報公開や説明責任の進展などに伴って、学校評価には「学校運営の改善」に加えて、「教育の質の保証」と「信頼される学校づくり」という目的も求められるようになった。このため中央教育審議会は、2005年10月にまとめた答申「新しい時代の義務教育を創造する」の中で、これまで努力義務だった学校評価の実施を義務化することを提言。2007年6月に成立した改正学校教育法の中に学校評価の義務付けが盛り込まれ、実質的に今年4月より幼稚園から高校までのすべての学校で、学校評価の実施が義務化されることになった。

「学校関係者評価」はコミュニケーションツール

 改正学校教育法を受けた同法施行規則は、学校自身による「自己評価」の実施とその結果の公表を各学校に義務付けたほか、各学校の児童・生徒の保護者や学校とかかわりを持つ地域住民らによる「学校関係者評価」の実施とその結果の公開に務めるよう「努力義務」を課している。

 ただ、現在でも保護者や地域住民へのアンケートなどによる学校評価は公立学校の83.7%で行われているほか、「学校関係者評価」の積極的な実施を指導するよう文科省は教育委員会に求めているため、実際にはほとんどの学校で保護者らによる「学校関係者評価」が導入されることになりそうだ。

 文科省が出した通知の内容を見ると、「学校関係者評価」の評価者は、当該学校の児童・生徒の保護者と、(教職員を除く)当該学校の運営とその児童・生徒の育成にかかわりがある者が直接実施することとしており、地域の有力者などを形式的に評価者に充てたり、保護者アンケートのみで評価に代えることに歯止めを掛けている。

 また、学校自身による「自己評価」の結果が適正かどうかを判断する役割が「学校関係者評価」にはあると説明されている。これは保護者などが学校運営を直接介入することにもつながるため、「学校の教育活動に対する干渉」として反発している教員も少なくない。その一方で、保護者などが学校を監視するための具体的手段として「学校関係者評価」を歓迎する声も一般社会にはある。

 しかし、これらの理解はいずれも正しくない。「学校関係者評価」を理解するための大きなポイントは、その分類上の位置付けだ。

 これまで文科省は、学校評価の種類を学校自身による「自己評価」、保護者など学校外の人間による「外部評価」の2つに分けていた。ところが、今年1月に改訂された文科省の学校評価ガイドラインによると、学校評価は、「自己評価」、保護者らによる「学校関係者評価」、大学教員など専門家らによる「第三者評価」の3つに分けられており、これまで学校の「外部」に置かれていた保護者や地域住民を、学校関係者として学校の「内部」に位置付けている。

 また、これに伴い従来は「外部評価」の資料とされていた保護者や地域住民に対するアンケート調査は、学校による「自己評価」のための資料として扱うことになった。つまり、保護者らによる学校評価は、外部評価というよりも内部評価に近い存在に位置付けられたことになる。

 この背景には、保護者と子どもは学校による教育サービスの消費者だとする最近の風潮に対する反省があると見てよいだろう。単なる消費者は、商品の製造者や提供者に要望や苦情などを言うことはあっても、商品の製造そのものにかかわることはない。それに対して、学校教育における保護者は教職員と共に子どもたちの教育に深くかかわる存在であり、このことは学校教育を単なる教育サービスではないとする主張の根拠の一つともなっている。

 今後の学校評価の在り方を検討した文科省の学校評価推進調査研究協力者会議が昨年8月にまとめた第一次報告は、保護者や地域住民などを学校の「ステークホルダー」(利害関係者)としているほか、改訂学校評価ガイドラインも「学校関係者評価」を学校、保護者、地域住民などの間の「コミュニケーションツール」であると強調している。

 学校教育への市場原理、競争主義の導入という流れが進む中で、保護者らよる「学校関係者評価」を学校の格付けのための手段とする見方があることは事実だ。また、「学校関係者評価」の実施により教員と保護者などとの間に新たな軋轢が生じることを懸念する声にも、現実問題として否定できない面がある。

 だが、それでは、教員、保護者、地域住民などの分断を進めるだけではないだろうか。もし、保護者や地域住民が学校教育のステークホルダーであり、教員と協同して子どもたちの教育に責任を持っている存在だとするならば、「学校関係者評価」は互いの意思疎通を図るための有効な手段となるのではないだろうか。

 それにはまず、保護者らによる「学校関係者評価」を謙虚に受け入れるための教員の意識改革が必要であり、学校評価の結果は自分たちにも責任があるという当事者意識を保護者や地域住民が持つことが必要だ。いずれにしろ、「教員バッシング」や「モンスターペアレント」などという無責任な社会の風潮に乗って、教員と保護者らが互いに疑心暗鬼になっていては、子どもたちの教育はよくならないということだけは間違いない。

参考資料
  • 文部科学省の改訂版「学校評価ガイドライン」
  • 文部科学省・学校評価推進調査研究協力者会議第一次報告
  • 文部科学省・「学校評価について」のページ

構成・文:斎藤剛史/イラスト:あべゆきえ

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