2016.04.26
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意外と知らない"学習指導要領の改訂"(vol.4)

前回から、次期学習指導要領の「三つの柱」・アクティブ・ラーニングの「三つの視点」の下で議論されている、各教科・科目の指導内容の改訂の方向性について順に紹介しています。最終回となる第4回は、生活、芸術系科目、技術・家庭、体育、総合、道徳等を取り上げます。

【生活】 幼児教育との接続

生活科は、具体的な活動や体験を通して自立への基礎を養う教科です。身近な人々や社会、自然と直接関わる授業や、自分自身の生活について考えさせる授業の実践が着実に進められており、大きな課題はありませんが、低学年における他教科等や中学年以降の各教科において育成される資質・能力との関係性を明確化することや、幼児教育との円滑な接続を図るスタートカリキュラムの中核として、いわゆる「小1プロブレム」の発生の防止に役立てること等について議論されています(生活科について(PDF)P.14)。

【芸術系科目(音楽、図画工作、美術、工芸、書道)】 文化に関する学習活動の充実

芸術系科目は豊かな情操(形や色、イメージなどの視点 を持ち、生活や社会と豊かに関わる資質・能力)を育成する科目です。学習プロセスの三つの柱を、(1)創造的に技能を働かせる、(2)作品などの良さや美 しさなどを感じ取り味わう、(3)発想や構想をする、として整理し、議論されています。

現行の学習指導要領より更に 充実すべき指導事項として、音楽では、音楽を聴いて楽曲の特徴を捉え言葉で適切に表すことや、音楽表現に対する思いや意図を持ち言葉で適切に表すこと、我 が国の音楽の様々な特徴をとらえて聴くことなどに課題があることから、「感性を働かせ、他者と協働しながら音楽表現を生み出したり、音楽を聴いてそのよさ や価値等を考えたりするなどして、創造的に表現したり鑑賞したりする力を育成すること」、「我が国や郷土の伝統音楽に親しみ、良さを一層味わえるようにし ていくこと」、「音楽文化についての関心や理解を深めていくこと」等が挙げられています。

図画工作・美術では、表した いことを見つけて絵に表すこと、我が国や諸外国の作品、暮らしの中の作品の表し方の変化、表現の意図や特徴などをとらえることに課題があり、また、「図画 工作を学習すれば、普段の生活や社会に出て役立つ」という質問に肯定的に回答した児童は6割であったことから、「感性や想像力等を豊かに働かせて、思考・ 判断し表現したり鑑賞したりするなどの資質・能力を相互に関連させながら育成すること」や「主体的で創造的な学習活動の充実」、「生活をより美しく豊かに する造形や美術の働き、美術文化についての実感的な理解を深め、生活や社会と豊かに関わる態度を育成すること」等が挙げられています。

書道では、書の美の歴史的背 景や諸文化との関連、また生活と社会との関わりなどに視点をあて、その価値を尊重し継承しようとする心情や態度の育成に至っていない現状などから「書の伝 統と文化を踏まえながら、生徒が感性を働かせて、表現と鑑賞の相互関連を図りながら能動的に学習を深めていくこと」や、「書と生活や社会との関わり、書の 伝統と文化の理解を深める学習の充実、書への永続的な愛好心を育むこと」等が挙げられています(芸術系科目の現状と課題について(PDF))。

【家庭、技術・家庭】 実践力・応用力の育成

家庭科は、衣食住などに関する実践的・体験的な活動を 通して、日常生活に必要な基礎的・基本的な知識及び技能を身につけると共に、家庭生活を大切にする心情を育み、家族の一員として生活をより良くしようとす る実践的な態度を育てる教科です。小学校では「家庭生活と家族」「日常の食事と調理の基礎」「快適な衣服と住まい」「身近な消費生活と環境」の4領域に分 かれています。

家庭分野では「知識・技能を活用して生活の課題を解決する能力や実践力を身につけること」や「家庭や社会とのつながりを考え、人と関わる力を高めること」に課題があります(家庭科、技術・家庭科(家庭分野)に関する資料(PDF)P.9)。

技術分野では、技術と社会や 環境との関わりの理解や、プログラミングや情報セキュリティー等の情報活用能力に課題があります。また、高度な技術製品の普及や科学・技術イノベーション や持続可能な発展を担う人材の育成という観点からも技術教育の必要性等、時代に合わせた改訂が求められています(技術・家庭科(技術分野)に関する資料(PDF)P.7)。「材料と加工」「生物育成」「エネルギー変換」「情報」の4領域のままで、情報の内容に「動的コンテンツのプログラミング」を追加すること、また各領域で技術の習得・理解、課題解決、社会の発展とのつながりを学習することが検討されています。

【体育・保健体育】 スポーツライフの継続

体育科・保健体育科は、生涯にわたって運動に親しむ資質・能力を養うと共に、個人及び社会生活における健康・安全について理解を深め、健康の保持増進のための実践力を育成する教科です。「健やかな体の育成に関する教育のイメージ(たたき台)(PDF)」には、「高等学校卒業後に少なくとも一つの運動やスポーツを継続することができるようにする」という目標が掲げられています。

体育分野では、1985年頃 と比較すると子どもの体力の水準が低く、運動する子どもとしない子どもの二極化傾向が続いていることが課題です。「する、みる、支える」などの多様なス ポーツとの関わり方を楽しむ等豊かなスポーツライフを実現する資質や能力の育成が求められています。

保健分野では、生涯にわたって健康を保持増進する実践力の育成や、少子高齢化や疾病構造の変化による現代的な健康課題の解決に役立つ内容の充実が求められています(体育・保健体育等に関する資料(PDF)P.4)。

【情報】 新科目「情報Ⅰ」の検討

情報は、情報及び情報技術を活用するための知識と技能 を習得させ、情報に関する科学的な見方や考え方を養うと共に、社会の中で情報及び情報技術が果たしている役割や影響を理解させ、社会の情報化の進展に主体 的に対応できる能力と態度を育てる教科です。現在、小中学校には「情報」という教科はありませんが、中学校の技術・家庭では情報の活用・表現、コンピュー タの仕組みや基礎的なプログラミングなどを学習しています。また、小学校段階から各教科等において情報モラルを身につけ、情報手段を適切かつ主体的に活用 できるようにするための学習活動が行われています。

小学生の2割以上、中高生の7割以上がスマートフォンを持っています(情報教育に関連する資料(PDF)P.20)。情報を活用したり発信したりする機会が増えるにつれてSNS等の利用に関連するトラブルが増加していることや、生活に情報通信機器が深く浸透するにつれてその内部構造のブラックボックス化が進んでいることが課題です。

高等学校では、現在8割が「社会と情報」を、2割が「情報の科学」を履修しています(情報教育に関連する資料(PDF)P.15)。文系は「社会と情報」、理系は「情報の科学」としている学校もあります。進路を問わず、統計的な手法の活用も含め、情報と情報技術を問題の発見と解決に活用するための科学的な考え方等を育成する共通必履修科目「情報Ⅰ(仮称)」の設置が検討されています。

【道徳教育】 「特別の教科 道徳」として教科化

道徳教育は、自立した一人の人間として人生を他者と共により良く生きる人格を形成することを目指して、一人一人が、生きる上で出会う様々な場面において、主体的に判断し、道徳的行為を選択し、実践することができるよう児童生徒の道徳性を育成するものです(道徳に係る教育課程の改善等について(答申)(案)(PDF))。

道徳的価値については「自分自身に関すること」、「他の人との関わりに関すること」、「自然や崇高なものとの関わりに関すること」、「集団や社会との関わりに関すること」の四つの視点で分類されています。

子ども達に道徳的な実践への 安易な決意表明を迫るような指導を避ける余り、実際の教室における指導が読み物教材の登場人物の心情理解に偏っているという課題があります。このような 「読み物道徳」から脱却し、「考え、議論する」道徳科(問題解決型の学習や体験的な学習などを通じて、自分ならどのように行動・実践するかを考えさせ、自 分とは異なる意見と向かい合い議論する中で、道徳的価値について多面的・多角的に学び、実践へと結び付け、更に習慣化していく指導)への質的転換を図るた め、現行の「道徳の時間」が「特別の教科 道徳」(仮称)に変わることとなっています。検定教科書も導入される見込みです。

【特別活動】 活動の意義の明確化

特別活動は、「学級・ホームルーム活動」、「児童会・生徒会活動」、「クラブ活動(小学校のみ)」、「学校行事」の四つの活動を通して、人間関係を形成する力(個人と個人)、社会を形成する力(個人と集団)、自己を生かす力(個人)を育成するものです(特別活動において育成すべき資質・能力について(素案)(PDF))。キャリア教育・職業教育、安全教育、防災教育等も「特別活動」です。

公職選挙法改正による投票権 年齢の引き下げを受けて、児童会(生徒会)活動をどう工夫するか、積極的な社会参画につながる、合意形成やより良い「集団決定」に向けた話合い活動の重要 性や特別活動は教科等で学んだことを活用して、自分自身や学級・学校の生活の改善を図るものであると強調すること等について議論されています。

【総合的な学習の時間】 学校間格差解消

各教科等単独では取り組むことの難しい様々な現代的な課題に対応した教育を行う・各教科等において身につけた力を活用しながら探究的に学ぶ機会を確保する時間として、総合的な学習の時間が設置されてから10年余りが経過しました。

「総合的な学習の時間へ の取組が、知識・技能の定着と思考力・判断力・表現力の育成の両方につながっている」、「総合的な学習の時間において育むべき力や学びの在り方をカリキュ ラム・マネジメントの核としながら、学校全体として探究的な学習を行う実践が進められている」等の成果が出てきて、総合的な学習の時間の重要性は認知され てきていますが、そこで育まれる資質・能力や態度の具体的な検証や、それらの社会的価値に関する情報発信が不十分であるという課題があります。

一部の学校では、「ねらいや 育てたい力が不明確で、児童生徒自身が、何のために活動を行い、何を学んだか自覚できていない」、「補充学習のような専ら教科の知識・技能の習得を図る教 育が行われたり、運動会の準備など学校行事と混同された実践が行われたりしている」、「総合的な学習の時間の目標・内容の設定や、全体計画や年間指導計画 の作成に適切に取り組めていない」、「実施状況の評価を改善に反映できていない」といった事例が見られるそうです(総合的な学習の時間について(PDF)P.35)。

まとめ

年内(2016年中)には、 各ワーキンググループ等での議論を踏まえて、中央教育審議会として答申が出されます。告示を行った後、幼稚園は周知を経て2018(平成30)年度から、 小・中・高等学校は、周知、教科書の作成及び検定・採択等を経て、小学校は2020(平成32)年度から、中学校は2021(平成33)年度から全面実 施、高等学校は2022(平成34)年度から年次進行により実施予定となっています。

ニュースを見て気になった教科等について、文部科学省サイトの初等中等教育分科会のページに掲載されている配布資料や議事録を時々のぞいて議論の様子を追ってみてはいかがでしょうか。(当記事は2016年3月末時点の情報を元に構成しています) 
≪おわり≫

参考資料

構成・文:内田洋行教育総合研究所 研究員 江本真理子

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