2007.12.11
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教員免許の更新制って何? 2009年度から始まる具体的中身とは

今年6月に成立した改正教員免許法を受けて、2009年度から教員免許の更新制がスタートする。いわゆる「問題教員」を排除するための方策としてマスコミでも大きく報道されたため、一般社会の関心も非常に高い。その一方で、当事者である教員からは当然のごとく不満の声が上がっている。ただ、教員免許の更新制の内容については、イメージ先行であまり具体的に知られていないのが実情だろう。いったい、教員免許の更新制とはどのようなものなのだろうか。

教員免許の更新制と問題教員の排除は無関係

 教員免許の更新制の具体的な中身は現在、文部科学相の諮問機関である中央教育審議会(中教審)で審議されている。文部科学省は中教審の審議を受けて、2007年度末に教員免許法施行規則などの改正を行い、2008年度にモデル団体などを指定して試行、2009年度から本格的に実施する予定だ。では、教員免許の更新制が始まると、学校の教員たちの日常にどんな変化が起こるのだろうか。じつは、ほとんど変わらないという見方が正しいようだ。

 そもそも文科省が準備を進めている教員免許の更新制の中身と一般社会の受け止め方の間には、大きなギャップがある。一般的には、「問題教員」から教員免許を取り上げ、学校から排除するための方策が教員免許の更新制であるとイメージされている。しかし、文科省は「更新制は、問題のある教員を排除するための制度ではない」(初等中等教育局教職員課)と明言し、時代の変化に対応して教員の知識や技能を「リニューアル(刷新)」するものが更新制だと位置付けている。

 いわゆる問題教員を排除するための方策としては、教員免許法と同時に改正された改正教育公務員特例法により、最大2年間の研修を受けても指導力が向上しない教員を免職にできる制度がつくられることになっているが、これと教員免許の更新制は全く別の制度だというのが文科省のスタンスだ。

 教員免許の更新制の基本は、これまで取得すれば生涯有効だった教員免許に一律10年間の有効期限を設け、10年ごとに教員養成課程を持つ大学などが実施する「免許更新講習」を受けて、教員免許の有効期間を更新するという内容で、公立学校だけでなく国公私立の幼稚園から高校までのすべての教員が対象になる。具体的な制度の中身を検討している中教審の審議によると、免許更新講習は「30時間以上」で、「教職に関する省察」「子どもに関する理解」などの必修領域が12時間、「教科専門」「生徒指導」など選択領域が18時間という構成になる予定だ。

 免許更新講習は、免許更新期限前の前年度から受講できることになっている。つまり、10年ごとに2年間かけて30時間以上の講習を大学などで受ければよいというのが、教員免許の更新制の実像なのだ。免許更新講習では終了時に必ず筆記や実技による修了認定試験が課せられ、その結果は5段階で評価される。最低ランク(60点以下)ならば修了認定を受けられず、教員免許が失効して自動的に失職することになるが、更新期限までならば何回でも講習を受けなおすことができる。また、修了認定のレベルについても文科省は「真面目に受講していれば、まず落ちることはない」(教職員課)と説明している。

 ただ、教員免許の更新は、「個人の理由」となるので、平日の勤務時間中に免許更新講習を受けることはできない。このため、免許更新講習は、夜間、休日、夏休みなどの長期休業期間中に開催されることになっている。教員にとっては、10年に一度のこととはいえ、学期中の平日以外の時間に免許更新講習を受けなければならず、それでなくても多忙化が進んでいる中でその負担は決して無視できないだろう。

現行の教員は「35歳、45歳、55歳」で免許更新

 教員免許の更新制の時期は、2009年度以降に教員免許を取得した者は免許取得日から10年後の年度末までとなる。一方、現在教職に就いている現行の教員は、便宜的に年齢で更新時期が決定されることになっており、中教審の論議によると「35歳、45歳、55歳」が更新時期として予定されている。免許更新講習は更新期限の前年度から受けられるので、更新制がスタートする2009年度には、34歳、44歳、54歳の教員が免許更新講習の受講対象となる見通しだ。

 このように、鳴り物入りで始まろうとしている教員免許の更新制だが、10年ごとに30時間以上の免許更新講習を受講するという労力と受講料などの経済的負担が教員に求められる以外は、学校現場に大きな影響を及ぼすことはほとんどないと見てまず間違いないだろう。免許更新講習で修了認定がもらえず、失職する教員もほとんどいないと見込まれる。もし、各大学が開設する免許更新講習の内容が不十分で、役に立たないものが多ければ、教員免許の更新制は労力と時間の無駄遣いと言えなくもない。大学が開設する免許更新講習の中身がどれだけ教員にとって有益なものになるかどうかが、教員免許の更新制の意義を左右する大きなポイントとなろう。

大学の教員養成にも大きな影響は必至

 一方、教員免許の更新制は、教員以外にも少なくない影響を及ぼすことが予想される。受け入れキャパシティーの関係で免許更新講習を受講できるのは、原則として教授非常勤講師を含む教員に限られ、いわゆる「ペーパー教員」の場合、教育委員会や私立学校が作成する非常勤講師候補者リストなどに登録されている者か、過去に教員経験のある者しか免許更新講習を受講できないことになる見通しだ。これによって、2009年度の10年後に当たる2019年から「ペーパー教員」の免許が一斉に失効(ただし回復講習を受ければ免許は復活する)することになる可能性が高い。

 このため、どうせ取得しても将来失効してしまうということで、大学の教職課程の履修希望者が激減するのではないかという懸念が大学関係者の間で広がっている。教職課程の受講料は、大学にとっても大きな収入源の一つだけに、履修希望者が激減することになれば大学経営にも少なくない影響を与えそうだ。

 また、大学の教職課程自体にも教員免許の更新制は大きな影響を及ぼしつつある。文科省は、免許更新講習の実施主体は「大学」であると強調しており、できるだけ都道府県教委などによる講習開催を避ける姿勢を示している。当初、私立大学などは経費負担が大きいとして免許更新講習の開設に消極的な構えだったが、「更新講習の開催は教職課程を持つ大学の責務」という文科省の強い要請を受け、多くの私立大学が免許更新講習の開設に向け準備に乗り出している。

 しかし、学生相手に教育原理などを教えている大学教員が、本当に30代から50代の中堅・ベテランの現職教員を相手に対応できるのかという不安を指摘する大学関係者もいる。実際、文科省は免許更新講習の最後に、受講者である教員に講習内容を評価してもらい、その結果をホームページで大学ごとに公表することを計画している。受講者である現職教員に免許更新講習が役に立たないと評価されれば、その大学の教職課程は大きな打撃をこうむることは確実だ。ある私立大学関係者は、「文科省にとっての免許更新制の本当の狙いは、大学の教員養成に対する介入を強めることではないか」と言う。

 いずれにしろ、さまざまな思惑が錯そうする中で、2009年度から始まる教員免許の更新制が学校現場や大学の教員養成をどう変えていくことになるのか。その答えが出るのは、もう少し先のようだ。

構成・文:斎藤剛史 イラスト:あべゆきえ

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