教育トレンド

教育インタビュー

2014.11.18
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近藤 良平 ダンスを語る。

子どもたちが「身体を動かすのって楽しい!」と感じられる手助けをしてほしい

近藤良平さんはNHK連続TV小説『てっぱん』オープニングの振付や、NHK総合『サラリーマンNEO』内「サラリーマン体操」の出演・振付でお馴染みの振付家・ダンサー。また長年、横浜国立大学や立教大学等でダンスの指導を行ったり、全国各地でワークショップを開いたりと、子どもから高齢者、学校教員まで様々な人々に身体を動かす楽しさや表現する面白さを伝えています。芸術の街として賑わう池袋の東京芸術劇場内にあるイタリアンレストラン「アル・テアトロ」にて、ダンスの魅力や教育的意義、指導のコツ等について伺いました。

ダンスは技術より、身体を通してコミュニケーションすること

学びの場.com平成24年度から中学校の体育でダンスが必修化され大きな反響を呼びました。ダンスの領域は「創作ダンス」「フォークダンス」「現代的なリズムのダンス」で構成され、特に「現代的なリズムのダンス」に含まれるヒップホップに対し、「どう教えればよいかわからない」といった戸惑いの声が現場の教員から聞こえてきます。

近藤 良平僕は、ダンスの技術を磨くことはさほど重要ではないと思っています。それよりも、一緒に身体を動かすとか、音に乗る楽しさを感じてほしい。「いい汗かいたなぁ」という充実感だけでもいいのです。
皆さん、あおられすぎじゃないでしょうか。マスコミがヒップホップをクローズアップし過ぎたために、先生方が「ヒップホップを上手に踊れるように教えなければ」と焦っているように感じます。
僕の場合は、大学生のとき(横浜国立大学 教育学部 小学体育科)にダンスと出会い、この道に進みました。今の子どもは、中学校の授業でヒップホップのような「現代的なリズムのダンス」を体験できるのですから羨ましいですよ。せっかくの機会なのですから、先生も生徒もヒップホップのステップを教えよう・覚えようということだけに終始してしまうのはもったいないです。

学びの場.com確かに、学習指導要領にもダンス技術の習得に重きを置くのではなく、「仲間とのコミュニケーションを豊かにすることを重視する運動で、仲間とともに感じを込めて踊ったり、イメージをとらえて自己を表現したりすることに楽しさや喜びを味わう」と記されています。

近藤 良平ただ、身体で表現するのは結構難しいのです。訓練されていない人が「はい、表現してみて」と言われても、どうすればよいかわからず、大抵は恥ずかしがってしまいます。けれど、自分一人だけでなく皆と一緒だと、随分楽になります。例えば、僕のワークショップでは、お題に合わせて変身する活動をよくやります。「おじいさん」「警察官」「アフリカゾウ」等、僕が言ったお題を5秒でサッと考えて演じるのです。同じ「おじいさん」でも、杖をついた仕草の人もいれば、腰が曲がった姿勢になる人もいて、十人十色の演技を見せてくれます。
そして、お互いその演技を見て、「こういう表現の仕方もあるのか」と感心し、気づき合い、自分の表現に取り入れていきます。皆と一緒に動くことで恥ずかしさも薄れ、表現には不正解はないのだと気づいて、自分なりに表現できるようになっていくのです。
そうやって皆で身体を動かしていると、どう表現したらいいかなんて小難しいことは頭から吹き飛んで、没頭する瞬間があります。考えるより身体が先に動くみたいな。そもそも考える時間を5秒しか与えませんからね。深く考えず身体を動かしていくと、ダンスが持つモーションのような力がそこに生じるのかもしれません。

学びの場.com教員向けの講習会ではどんなことを教えているのですか?

近藤 良平僕は事前にカリキュラム等を用意しません。参加した方々の人数や年齢、どのくらい声を出す人がいるか等をその場で見て、実践内容をパッと決めます。よくやるのは、二人一組になって行うストレッチです。背中合わせになって身体を曲げたり伸ばしたりしていると、皆さん、気持ち良くなって「ハァ~」と声を出します。これは、一人でストレッチをやっても出てきません。この声を聞くと、身体を動かす気持ち良さを実感されているのだなとわかります。「私は身体が硬いから……」と自分で限界を作ってしまっている人も、ペアになって相手の力を借りて、ワイワイ楽しくやっていくうちに、自然と身体がほぐれていきます。
その後もペアで行います。一人が四つん這いになり、その下をもう一人が潜る運動。また、一人が仰向けに寝て両脚を垂直に上げ、その足の裏にもう一人がうつ伏せや仰向けで乗って上の人と下の人が平行になるポーズ(これはかなりのウルトラCです)。あるいは、四つん這いになった人の背中の上を、もう一人が自分の背中でグルンと転がって猫のようにスタッと着地をする運動等。

 人間って面白いもので、講習が始まった当初は皆さん緊張していますが、ペアを組ませると少し安心するようです。一人で不安だったのが二人になって仲間ができて、ホッとするのでしょう。ただ、このままだとその二人だけの世界に終始してしまうので、ペアはどんどんシャッフルします。すると、また空気が変わります。再び知らない人同士となり、気を使いながら相手の背中の上に乗る人、力加減がわからずまごつく人……等々、その人の個性が出てきます。その結果、身体を通して自分の心がわかってくるのです。
こういったことを講習会でやると、参加者の先生から「今日やったことを学校で教えればいいですか?」とギラギラした目で質問されることがあります。早急な“答え”を欲しいのでしょう。僕は集団でやる楽しさを感じてほしいだけなのですが(笑)。

10代、20代に身体を動かす楽しさを思い出してほしい

学びの場.com近藤さんは様々な年齢層向けにワークショップを開いていますが、年代によって何か特徴はありますか?

近藤 良平10代~20代の若い人は運動の補助ができないことが多いです。例えば、ペアで背中合わせになって、両手を上に上げて相手の手を握り、自分の背中に相手を乗せるストレッチがありますよね? 若い人の多くはこれが苦手。相手を背中に乗せずに腕だけ引っ張って持ち上げようとするので、肩が抜けそうになって危ないのです。

学びの場.comなぜできないのでしょうか?

近藤 良平小さい頃にやったことがない、あるいは身体を動かす楽しさを忘れてしまっているのだと思います。
人間は一般に10歳から18歳くらいにかけて思春期に入り、急激に自己完結モードが進みます。他人と身体的に接触する機会が激減し、すると身体的接触がコミュニケーションの手段だと思わなくなるのです。それまでは友達同士でくすぐり合ったり、じゃれ合ったりしていたのが、恥ずかしがるようになり、大人ぶってやらなくなる。その傾向は20代でも続きます。特に最近は、皆、スマホばかりいじって、他人と直接触れ合わなくなりましたからね。
そういう人たちに、身体を動かす楽しさを思い出してもらうことも、ワークショップの狙いの一つです。誰でも幼い頃は友達同士で身体を使ってたくさん遊び、その面白さを知っていたはず。その楽しさを再確認してほしいのです。
不思議なことに、30代になると急に他人との身体的接触を求める傾向があります。人恋しくなるのかな? だから僕のワークショップに来る30代以上の方々は、キャッキャとはしゃぎながら運動していますよ。

学びの場.comでは、10代を指導する際には、どんなことに気をつけるべきでしょうか?

近藤 良平起伏を作るようにしています。ワァーっと動く時間と、静かにしている時間の両方を設け、メリハリをつけます。そうでないと、10代の子はすぐ飽きてしまう。先程紹介したストレッチも、30代以上や小学校低学年の子どもなら飽きずにずっとやっていますが、10代は続きません。この子たちを毎日指導している学校の先生は、本当にすごい方達だなと思います。

身体と心と同時に付き合うことは正しい

学びの場.com近藤さんの考えるダンスとは、皆で一緒に身体を使って表現する楽しさを味わう、身体を動かすことで自分や他者の心に気づく、ということですね。このような哲学はどこから生まれたのですか?

近藤 良平土台になっているのは大学時代に学んだ、横浜国立大学教育人間科学部教授の高橋和子先生の授業です。高橋先生は小学校学習指導要領の作成にも携わっている方で、当時舞踊の研究や指導もされながら『からだと心と同時に付き合ってみよう』という「からだ気付き」の講義をされていました。

学びの場.comどんな授業だったのですか?

近藤 良平二人一組になって相手の鼓動を聞いてみようとか、相手と重なるように床に寝て相手の呼吸を感じてみようとか。ブラインドウォークもやりました。二人一組になり、一人が目隠しして、もう一人は誘導役。誘導役は相手を色々な場所へ連れて行き、花の匂いを嗅がせたり、草木や水に触れさせたり、風を肌で感じてもらったりする活動です。やったことあります?

学びの場.comテレビで見たことはあるのですが、自分でやったことはありません。

近藤 良平そうですか。僕が説明するより、やった方が早い(笑)。ブラインドウォークもそうですが、身体を動かす楽しさを言葉で説明するのは難しいので、歯がゆいですよ。
ブラインドウォーク中は会話禁止なので、目隠し役の人は最初とても怖いのですが、そのうち楽しくなってきます。どこに連れていってくれるのだろうとワクワクしてくるし、目が見えない分、聴覚や嗅覚や触覚等で感じる楽しさを味わえます。そして、会話ができない分、身体で相手とコミュニケーションする面白さがわかってくるのです。
また、ずっとおっかなびっくりの人もいれば、すぐに慣れて積極的に楽しむ人もいて、その人ごとの個性が出てきます。視覚を使わずに世界や相手を感じ、言葉を使わずに身体だけで伝える。まさに「身体と心と同時に付き合う」楽しさを味わえます。
誘導役の人にも個性が出ます。優しく誘導する人、強引に連れ歩く人。普段リーダータイプの人が誘導は下手だったり、口下手な人が上手に誘導できたり。誘導役は、言葉以外の方法で相手にたくさん感じさせ、伝えてあげるという「身体の言葉」の使い方を実感できます。
ブラインドウォークは僕のワークショップでも行っています。やる前とやった後とでは、お互いの距離感や親しさが劇的に変わります。やる前は、よそよそしく「よろしくお願いします」と目も合わさずに挨拶をしていた二人が、やった後はすごく盛り上がる。「どこに連れていってくれたの?」「え? あんな所まで行ったの?」と、お互いの顔を見ながらワイワイと喋り出すのです。まるで飲み友達みたいに(笑)。この瞬間は何度見ても面白いですね。当人達もびっくりするくらい心が開くのです。
このような「身体と心で感じる」ことを大学時代に高橋先生から教えていただき、衝撃を受け、次第に「身体と心と同時に付き合うことは正しい」と考えるようになっていったのです。妙に大人ぶって見栄を張ったり、本音を隠したりする人の垣根が、身体の動きを通して取り払われていく様子が面白いと思ったのです。

学校や家庭でやってほしいこと

近藤 良平ニュース等を見て思うのですが、日本人の助け合いの精神や団結力は素晴らしいですね。皆でサッとコミュニケーションして、危機を乗り越えようとします。これは日本人の良い点でしょう。斜に構えて、人との身体的接触を避けている10代・20代だって、そういう機会さえあれば、団結したりコミュニケーションしたりするのです。皆さん、良いものを持っているのです。
その気づきの場所と機会として、ダンスを活用すれば良いと思います。ダンスの技術を教えることより、身体を動かす「場所」や「機会」を作ってあげるのです。今の子どもは、遊ぶ場所がなかなかないじゃないですか。大人が率先して、子どもを公園等の身体を動かせる場所に連れ出して、身体を動かす遊びをセッティングしてあげることがとても大事だと思います。
子どもだけじゃなく、大人もそうです。ダンスとは限りません。地域の祭りで盆踊りに参加するのでもいい。大人も身体を動かしましょう。

学びの場.com具体的には、今日教えていただいたストレッチや運動を、学校や家庭でも取り入れるとよいのでしょうか?

近藤 良平うーん……(しばらく考え込んで)、僕の中にも葛藤があってうまく言えないのですが、きっちりカリキュラムを決めて「これやったら次はこれ」というやり方を、本当はしない方が良いと思います。そういうやり方は一般化しやすく、すぐ出来てラクですが、教科書的なやり方を僕はしたくない。
講習に参加した先生方にも「今日やったことを、そのまま授業に取り入れたりしないで」と、助言しています。人間は受け身に慣れてしまうと、大抵は自分で考えて動かなくなるものですから。例えば、ワークショップで「僕の動きを真似してください」と指示すると、ほとんどの人は出来ますが、僕が止めた途端出来なくなる。言われたまま動いていたからです。
ダンスの授業も、もっと気楽に、自由にやればいいと思います。教員向けの講習会でも「生徒さん達と一緒に、ゴロゴロしてみてはいかがですか」と提案しています。子どもたちが「身体を動かすのって楽しい!」と感じられる手助けを、先生方にはしてほしいと思います。

近藤 良平(こんどう りょうへい)

振付家・ダンサー。東京都生まれ。ペルー、チリ、アルゼンチン育ち。横浜国立大学教育学部卒業。学ラン姿でダンス、映像、コント等を展開するダンスカンパニー「コンドルズ」主宰。第4回朝日舞台芸術賞寺山修司賞受賞。NHK教育『からだであそぼ』、NHK総合『サラリーマンNEO』等の振付出演をはじめ、映画やTVCMにも出演。『第68回国民体育大会』式典演技総演出を担当。横浜国立大学、立教大学等で非常勤講師としてダンス指導や、全国各地でワークショップを行っている。

インタビュー・文:長井 寛/写真:赤石 仁/撮影協力:アル・テアトロ

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