教育トレンド

教育インタビュー

2012.03.20
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髙田延彦 育児を語る。

男は、仕事以外の時間は子どもと向き合う父親であれ

髙田延彦さんは最強のプロレスラー、総合格闘家として活躍し、2002年に現役を退いてからもファンの熱い支持を受けている。その一方、『髙田道場』主宰として子ども達の健全な心と身体を育む活動に取り組み、家庭では8歳の双子の男児のよき父親としても知られる。闘う男から、育む男へ。髙田流の育児論、そして彼が考える"父親"とは?

小6までの成長期に身体を鍛えることで、社会を生き抜く「土台」を作る

学びの場.com髙田さんは東京・品川で『髙田道場』という格闘技道場を主宰され、子どもたちへの指導を行われていますね。

髙田延彦キッズクラスは、4歳~小6までの子どもたちを対象に、体操・レスリング・ボクササイズのカテゴリーに分けて指導しています。その目的はレスリングに絞っていうと、子どもとしてもっとも成長する時期に、身体を使って他人と取っ組み合うことで、“生命力の土台”を培ってもらうこと。
最近の子どもたちは、きょうだいが少ない上に、外遊びの機会まで激減しています。余暇は何をしているのかというと、ゲーム機などの画面に向かって時間を捨てている子どもが実に多い。でも本来、小6までは、今後、社会人になって世の中を渡り歩くための“心の武器”、つまり人として大切な生きる知恵を作り上げる大事な年代なんです。この時期に身体を思い切り使って誰かとぶつかり合うことで、他人の痛みもわかるようになるし、また自分の悔しい思いを前向きなパワーに変える方法もわかっていく。それが将来、心の武器になると思うんです。

学びの場.comレスリングというスポーツは、ときには危険を伴うこともあると思いますが、キッズクラスではどのような指導を行っているのでしょう?

髙田延彦レスリングといっても、アマチュアレスリングの要素を取り入れた髙田道場オリジナルの体育教室です。マット運動を中心に「身体を動かすことの楽しさ」「触れ合いの中から生まれる自己肯定感」を子ども達に知ってもらえるよう指導してします。うちの指導者はアマチュアレスリング国内トップクラスの実績を持ち、彼らは自分自身の経験から「どうすれば子どもたちが楽しいと思うか?」をわかっています。それをベースに独自のメニューを組み、子どもたちの中で眠っている身体能力を刺激して引っ張り上げていくんです。

学びの場.com具体的には?

髙田延彦例えば、二人一組になって、片方が馬になります。それを一方が、馬飛びして、股をくぐる。また、一人が膝をついて四つん這いになり、立っているパートナーの足の間を8の字を描くようにしてくぐる……とか。そのような動きを、パートナーと交互にハイスピードで繰り返します。

学びの場.com子どもに「楽しい!」と思わせるためには、何が大事なのでしょう?

髙田延彦レスリングというのは、何の装備もつけずに身体と身体でぶつかり合う、もっともシンプルなスポーツです。でも、サッカーや野球と違って、子どもにはイメージしにくいですよね? うちの道場でも、自ら「レスリングがやりたい」と言ってくる子どもはほとんどいません。最初はみんな親が連れてくるんです。「武道をやらせたい」とか「礼儀礼節を学ばせたい」という理由でね。子どもたちにとってみたら「え? 僕、何やるの?」って状態ですよ。だからこそ“つかみ”が大事なんです。
ポイントは、いまの子どもたちに欠けている“外遊び”にあります。レスリングの練習を黙々とやるのではなく、途中に綱引きや、大縄跳びといった、みんなで楽しむチーム戦のゲーム要素も組み込んでいきます。のちには、1対1でレスリングのスパーリングもやりますが、子どもたちは遊びなのかスポーツなのかわからないまま、集中してメニューを追いかけていくうちに自然と身体ができていきます。
どんどん夢中になっていく子どもたちを見て思うんですが、「身体を動かす」というのは、本来、生物が持っている本能ですから、理屈抜きに楽しいんですよ。今の子どもたちは、その機会に恵まれていないだけで、生物としての本能がなくなってしまったわけではありません。身体を使って遊ぶことに、みんな飢えているんです。

学びの場.comレスリングの試合にも参加するのでしょうか?

髙田延彦試合数は多いですよ。ただ、勝利至上主義ではなくて、試合に出ると、それまで積み上げてきた練習の意味がわかるようになるからです。「なんでこんな練習をやるのか?」意味がわからなかった子どもたちが、自ら意味を見出すようになり、目的意識を持つようになる。そこが大事なんですね。

学びの場.com学校教育では、新年度より中学1~2年生を対象に武道が必修化され、中でも柔道が最も採用が多いと見られています。レスリングとは異なりますが、柔道も事故が多い競技です。多くの初心者が柔道に取り組むことになりますが、髙田さんはこれについてどのようにお考えでしょう?

髙田延彦たとえ体育教師であっても、柔道の未経験者に指導をさせるのは無理があると思います。僕も新聞記事を読んで驚きましたが、名古屋大学の調査によると、28年間に114人もの中・高校生が柔道のクラブ活動や授業で亡くなっている。危険といわれるボクシングよりも多い数字ですよ。柔道を授業で採用するなら、専門の経験を持った柔道家を指導者として派遣するべきでしょう。例えば、柔道の二、三段クラスになると、相手が受け身をとれないことがわかったら、瞬時に胴着をグッと引いて、相手の体を守る判断をするんです。そうやって事故を未然に防ぐわけですが、これはキャリアのある経験者でないとできません。

学びの場.comなるほど。ところで、髙田さんは全国を回って子どもたちを指導する『ダイヤモンド・キッズ・カレッジ(以下、DKC)』というイベントも行っていらっしゃいますが、これは「出張版 髙田道場」という感じですか?

髙田延彦DKCは体験イベントですから、道場と比べるとゲーム性の高い内容で、体操のイメージが強いです。子どもたちに楽しい時間を過ごしてもらうことはもちろんですが、一方でその姿を見ている“親たちを啓蒙する”イベントといってもいいかもしれない。というのも、最近、スポーツをやっている子とやっていない子の体力差が問題になっています。子どものスポーツ環境というのは、本人の自主性というより、親の意識によって変わるんです。

学びの場.com親が意識して運動させる機会を作るということですか?

髙田延彦もちろん日々の授業についていく学力は必要ですよ。学校が楽しくなくなっちゃうから。同時に、小6までの成長期に絶対必要なのは“日々、身体を動かすこと”です。思い切り体を動かして、腹を空かし、しっかり飯を食ったら、倒れこむように眠る。そういうモードで生きることが、将来、社会を生き抜いていく土台作りになる。ところが、特に都心部では、小3になったらスポーツをやめて塾通いが一般的な傾向になっています。成長期に身体作りをおろそかにして、頭に知識だけを詰め込んでいっても、それを表現するための土台がなければ、厳しい社会に出て健全に使いこなせないでしょう。心身の土台作りは、この時期にしかできません。親をはじめ周囲の大人は、それをもっと意識してほしいと思います。わが子がその年頃になって、一層そう思うようになりました。

子どもを叱る時は、3回深呼吸。自分の考えをしっかりまとめてから

学びの場.com髙田さんには双子の息子さん(8歳)がいらっしゃいますが、家庭ではどのように育児参加されているのでしょう?

髙田延彦僕は、育児を家事とは考えていません。ですから、料理や洗濯といった家事についてはパートナーに任せていますが、育児の責任は五分と五分。夫婦の間に役割分担はなく、自分がやれることはすべてやっています。オムツ替えはもちろん、風呂にも入れるし、散歩、一緒に遊ぶ……。特に我が家は双子なので、夫婦で線引きしていたらやっていけません。双子はこの春、小3になりますが、子育てはもう僕にとっても生活サイクルの一部です。

学びの場.com育児は楽しいですか?

髙田延彦もちろん楽しいですよ。参加すればするほど“いい時間”であることがわかってくる。父親になって間もない頃、友人から「最初は大変だけど、乳児の時間はあっという間に過ぎてしまう。一番、変化のある時間だから、夫婦で共有しておいたほうがいいよ」って言葉をもらったんです。その言葉が僕の育児参加の後押しになりました。今ではその言葉の意味がよくわかります。

学びの場.com子どもの成長は、本当に早いですからね。

髙田延彦でも、常に子どもと触れ合っていないと、相手の成長の変化に気が付かない。だからこそ、仕事で留守にする以外の時間は、最優先で子どもたちと向き合うようにしています。そうすると、子どもの些細な変化もわかるんですよ。だから、子育てに関して夫婦で特別なミーティングをする必要もない。日常の会話で充分コンセンサスがとれるので、夫婦がぶつかることもないんです。

学びの場.com髙田家には「子育ての方針」はありますか?

髙田延彦一つは挨拶。礼儀礼節ですね。それと、子どもがイヤといっても、小6までは取っ組み合いをさせること。今、二人とも髙田道場に通わせていますが、決してプロの選手にするのが目的ではなく、単に心身の土台作りとしてやらせています。あと、特別な予習はさせませんが、学校の授業についていけるだけの勉強面のバックアップはしています。加えるなら、春・夏・冬の長い休みの時は、家族で自然の中を旅して、いい時間を過ごすことでしょうか。

学びの場.com父親として、息子さんたちを叱ることもありますか?

髙田延彦僕は“怒り”ます。最近、「親は怒ってはいけない。叱りなさい」とかいう論調がありますが、それは言葉の屁理屈だと思う。子どもにとっては叱られるのも怒られるのも同じなんです。子どもに「これは悪いことなんだ」としっかり伝えるには、「怒」の感情も重要です。本気じゃないと伝わらない。息子たちから見たら、僕は多分、めちゃくちゃ怖い父親だと思いますね(笑)。場合によっては、尻を叩くこともあるしね。
悪意のある行動はもちろんですが、子どもがウソをつく、ごまかす、ふてくされる……そういうことを彼らが当たり前の表現・行動として理解してしまうと、将来、他人を傷つけたり、信用をなくしたり、絶対に損をすると思うんです。だから僕はなるべく現行犯でつかまえるようにしています。

学びの場.com尻を叩くのはどういう場合ですか?

髙田延彦その前にイエローカードを何枚か出して、それでも彼らに改善が見られない時ですね。尻は一番間違いが起きない場所ですから。「いいか? いくぞ」と確認した上で叩きます。

学びの場.com髙田さんはプロの格闘家としての経験をお持ちなので、加減もわかっていらっしゃるかと思いますが、親が子どもに“愛のムチ”を振るう時に気をつけるべきことは何ですか?

髙田延彦親も人間ですから、子どもが理不尽な態度を続けたらカッとなりますよね。でも、カッとなったら、心の中で3回深呼吸して「今、自分が何に対して怒っているのか?」「そのことに対して、自分はどう考えているのか?」と冷静に自問自答して、しっかり自分の考えをまとめてください。その結果、「一発入れておくか」となったら、尻に一発入れます。やるなら強めです。なぜなら、親が子どもに手を上げることなど滅多にないことなのだから、その一発の重さをビシッと強く子どもに肌で伝えるんです。

学びの場.com最近は叱れない父親が増える傾向にあるようです。また、仕事中心で日頃育児に参加していない父親が、急に子どもを叱るのも難しいと思うのですが、何かアドバイスをいただけますか?

髙田延彦逃げていないで、一日も早く、子どもとの時間を作り始めることですね。親を一番見ているのは子どもですよ。ごまかしは一切きかない。日常、自分を見ていない親、変化にも気付かない親に叱られても、その真意は通じるわけがありません。子どもの年齢によっては、「今までは時間がとれなかったけど、これからはもっとキミとの時間を増やしていくから」と正直に宣言してもいい。夜や休日の仕事の付き合いを削って、子どもとの時間を増やす努力をして、そこからのスタートだと思います。
僕が子を持って思うのは、「子どもにとって最後のよりどころでなければ、親になった意味がない」ということです。親子関係のゴールはそこだと思うんだよね。でも、その信頼関係を築くためには、日々しっかり子どもと向き合っていくこと。その時間を積み重ねていくことなんです。

学びの場.comありがとうございました。

髙田 延彦(たかだ のぶひこ)

1962年神奈川県生まれ。1980年3月、新日本プロレスに入団。翌81年にプロレスラーとしてデビューし、新日本、UWFインターを経て、PRIDEに参戦。数多の名勝負を繰り広げ格闘技界にその名を刻むが2002年、引退。その後、指導者、タレント、俳優として活躍中。教育活動面では1998年、髙田道場設立、代表を務め「子どもたちの身体と心を磨く場所」として『ダイヤモンド・キッズ・カレッジ』なども主宰する。

インタビュー・文:寺田 薫/写真:柳田隆晴/スタイリング:水口卓麿

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