柿沢安耶 人気パティシエが語る食育・農育~食の原点を知れば、子どもは野菜を好きになる!
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柿沢安耶さんは東京・目黒区にある世界初の野菜スイーツ専門店『パティスリー ポタジエ』のオーナーパティシエ。野菜をスイーツにするという大胆な発想で国内・外から注目を集めています。その一方で、日本の「農業」や「食育」に強い関心をもち、小学校での食育授業にも積極的に参加。さて、人気パティシエの〈食の授業〉とはいかなるものでしょうか? ただ、おいしいだけではダメ。身体のなかから元気にしたい学びの場.com(以下、学びの場) 野菜スイーツ専門店のオーナーパティシエという多忙な身でありながら、近年、小学校での食育授業にも積極的に参加なさっていらっしゃいますが、そもそもご自身が〈食〉に興味を持たれたきっかけは何でしょう? ![]() 柿沢安耶(以下、柿沢) 最近、パティシエに憧れる小学生が多いと聞きますね(笑)。でも私の場合、〈食〉に興味を持ち始めたのは大学生になってからです。大学では仏文科に在籍していたのですが、広い目でフランスを知りたいと思ったときに、その食文化に興味がわいたんですね。それで料理研究家の先生のもとに通って、フランス料理を勉強し始めました。その後、フランス留学も果たして、大学を卒業するころには、〈食〉を将来の仕事にしようと決めていました。 学びの場 大学卒業後は、有名パティスリーに就職なさって? 柿沢 ええ。そのあとカフェ・レストランにも勤めましたが、現場で働くうちに、もしも自分で店を持つなら「ただおいしいだけではなく、何かお客様のために+αになるような店を」と思い始めて。その結論が、〈食べて、身体のなかから元気になってもらうこと〉でした。そのころから、マクロビオティックの勉強を始めたんです。 学びの場 マクロビオティックというのは〈長寿法〉ともいわれますが、玄米や雑穀を中心に野菜と豆類を食べる、いわゆる<玄米菜食>の考え方ですね。 柿沢 知ったときには「これだ!」と思いましたね。私が考えていた〈身体のなかから元気になる〉ということは、調理法以前に、食べ物の原点までさかのぼって、農薬や肥料を一切使わず、自然のなかできちんと育てられた〈食材〉であることがまず大事なんだと。 学びの場 その〈食材〉に対する気づきが、柿沢さんの後の活動を大きく支えていくわけですね? ![]() 柿沢 ええ。マクロビオティックには二つの基本思想があるのですが、その一つが『身土不二』。これは「身体と土は離れられない」という意味で、つまり、自分が生まれ育った土地のものを食べることが身体にいいということですね。もう一つが『一物全体』で、これは「その物の全てを食す」という意味です。たとえば、ネギなら一本丸々、余すことなく食べる。ただ、マクロビオティックは非常にストイックな食事法でもあるので、一般の人はなかなか継続できません。そこで私は、安心でたしかな食材を使ったベジタリアン・レストランを開こうと思ったんです。 田んぼも畑も知らない東京っ子が初めて目の当たりにした農業学びの場 そうして2003年、栃木県宇都宮市にご自身のレストランを開店なさった。 ![]() 柿沢 有機農業と本格的にかかわり始めるのはこのころからです。実は、私は東京出身で、それまで田んぼと畑の区別もつかないくらいだったんですね。レストランで働いていたときも、発注さえすれば当たり前のように店に野菜が配達されてくるわけで、体験はおろか農業の現場を見たことすらなかった。それが店を開くにあたって、食材の仕入れ先である農家を訪ね歩くうち、目からウロコですよ。野菜やお米を作る大変さ、尊さ。それを目の当たりにして、私の食材に対する意識や扱い方が変わったんです。同時に、「農業という〈食の原点〉を知れば、食べ物の大切さにみんなもっと気づくのに」って。 学びの場 その思いから、ご自身のレストランで、食育セミナーをスタートするんですね。 柿沢 セミナーといっても、店に農家の方を招いて、生産現場のお話をしていただいたり、お客様を畑に連れて行って、農業体験をしたりという簡単な内容だったんですけど、これがとても楽しくて。そのうちにもっと都市部に暮らす人たちにも野菜のおいしさと農業の現実を知ってほしいと思い始めたんです。 野菜離れが進む子どもたちに、地元の〈味〉を実体験させる学びの場 それで、宇都宮よりも都市部で、田んぼも畑もない東京・目黒区に野菜スイーツ専門店『パティスリー ポタジエ』を開店なさったのですか。 柿沢 お菓子として野菜を食べさせてしまうのは、ある意味、反則かなとも思うのですが、東京の店を始めてから「野菜嫌いな子どもなのに、ポタジエのケーキはちゃんと食べる」という話をお客様から耳にするようになりました。ケーキってどこか特別というか非日常というか、不思議な癒しの力を持っていますよね? だから野菜嫌いな子どもたちも、ケーキの魔法のおかげで食べられたのかもしれないけれど、そもそも子どもが苦手な食べ物って、親の調理方法や、最初に食べたときの印象が悪いだけなんです。 それなら次は、ケーキで野菜を食べさせることだけではなくて、その食材になっている野菜が〈どこで・どんな風に・どんな人によって作られているのか〉という原点まできちんと伝えることで、子どもはますます野菜好きになるんじゃないかなって。そんなことを考えているときに、小学校での食育授業のお話をいただいたんです。 ![]() 徳島県阿波市立市場小学校の児童たちが描いた「野菜スイーツ」のアイデア 学びの場 2009年に行われた滋賀県彦根市立佐和山小学校と徳島県阿波市立市場小学校での食育授業ですね。 柿沢 そうです。これまでも小学生の保護者や中・高・大学生を対象にした講演や調理実習の経験はあったのですが、正規の家庭科の授業として行ったのは初めてでした。 学びの場 では、滋賀県の佐和山小学校を例に、授業の流れを教えていただけますか? 柿沢 私の授業は〈土地のものでスイーツを作る〉という切り口で、対象は5年生です。自分が生まれ育った地元のものを食べてその価値を知るというのが目的の一つでした。佐和山小学校のある彦根市は米作りのさかんな土地です。そこで、地元の農家の方を授業に招いて、地元のものを食べることや、自給率、農業を取り巻く問題(担い手の減少や高齢化)などの話をし、スイーツには地元の米を使用することに決め、5月に全員で田植えをするところからスタートしました。 ![]() 次の授業は6月下旬で、田んぼの害虫を駆除するために鮒を放流します。今、ほとんど鮒を使っての害虫駆除はしていないのですが、昔は自然に琵琶湖から鮒が上がってきたそうです。田んぼで大きくなった鮒は、その後、琵琶湖に還します。 そして8月末に稲刈りをして、最終回となる10月の授業が調理実習です。自分たちで育てた米と、地元名産の下田なすを使って「ライスプディングとナスのコンポート」を作りました。各班、食材の計量だけはしておきましたが、下準備はナシ。私の説明にそって、子どもたちの力だけで作り上げます。 ![]() 学びの場 店舗を離れ、直接、子どもたちと触れ合った感想はいかがでしたか? 柿沢 この実践では、子どもたちは知識を感覚で吸収するんですね。だから生の野菜を素手で触らせただけでも、反応が全然違ってきます。米作りは私も初めての体験でしたが、泥だらけになっても楽しそうな子どもたちを見ていて、何より〈実体験する〉ことが大事なのだと思いました。家庭や学校で、食べ物を〈生態系〉からとらえることや、農家という〈作り手を知る〉こと、自分の手で作り出したものを食べることを〈実体験〉していけば、野菜嫌いな子どもも減っていくのではないか? いまはそんな気がしています。私の授業はまだまだ実験段階ですが、これからも携わっていくことができれば嬉しいですね。 インタビュー・文:寺田薫/写真:言美歩 ※写真の無断使用を禁じます。 【関連記事】
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