2008.09.09
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不登校2年連続増、どう対応する?

不登校2年連続増――文部科学省が発表した2008年度の学校基本調査(速報)などの結果、これまで減少傾向にあった不登校の子どもの数が2年連続して増加したことが明らかになった。特に中学校では、全生徒数に占める不登校生徒の割合が過去最高を記録した。果たして不登校の子どもたちは、また増加していくのか。そして、不登校の子どもたちに学校、家庭、社会はどう対応していくべきなのだろうか。

揺れ続けた不登校への対応方針

 調査結果によると、2007年度の小・中学校の不登校者は、小学校が2万3926人(前年度比0.4%増)、中学校が12万9254人(同1.9%増)で、いずれも2年連続の増加。不登校は05年度まで4年連続減少していたが、ここにて増加傾向に転じたことになる。全児童・生徒数に占める不登校者の割合は、小学校が0.34%、中学校が1.20%で、中学校は過去最高を記録した。少子化による児童・生徒数の減少が進むなかで、実際に人数、全体に占める割合ともに増加したということは、明らかに不登校が再び増え始めていると言ってよいだろう。

 不登校の増加の原因を考える前に、不登校に関する歴史を振り返ってみよう。不登校は、以前は「登校拒否」と呼ばれていた。登校拒否の子どもは昔から存在したが、それが社会問題として注目を集めたのは1980年代ごろからだ。一般的な解説によると、校内暴力で全国的に学校が荒れていた時代で、学校側はいわゆる管理教育によって鎮静化させたが、それに代わっていじめが広がり、次いで登校拒否が増加したと言われている。つまり、「校内暴力→いじめ→登校拒否」という図式だ。

 登校拒否の子どもは当初、怠学と同じか、精神疾患などがある特別な存在とみなされていた。しかし、92年に旧文部省が登校拒否への対応を示した初等中等教育局長通知の中で「登校拒否はどの児童生徒にも起こりうるものである」との認識を示したことをきっかけに、社会全体の登校拒否に対する受け止め方は大きく変化する。学校現場の対応も変化し、強い登校刺激を与えることはよくないという考え方が主流となった。

 また、「学校を拒否しているのではなく、行けないのだ」という理由で、登校拒否に代わって「不登校」という名称が定着するようになった。旧文部省は92年から、教育委員会が設置した「適応指導教室」や民間のフリースクールなどに通う子どもについて、一定の条件で小・中学校の「出席扱い」とすることを認めるなど、学校復帰を前提としながらも学校外施設での教育を是認するなど、柔軟な姿勢を打ち出した。

 にもかかわらず、不登校は増加を続けたばかりか、学校関係者の間に「無理に学校に行かなくてもよい」という雰囲気が生まれ、不登校に対する学校の対応が消極的になったと批判が一部から出始めた。

 これを受けて文科省は2003年に、92年初中局長通知の趣旨が間違って理解されている面があると指摘し、学校に積極的な対応をするよう求めた初中局長通知を改めて出し、それまでの方針の一部転換を図った。以降、スクールカウンセラーの配置などもあって05年度まで不登校は減少していたが、ここにきて2年連続で増加に転じることになったというのが不登校をめぐるこれまでの経緯だ。

学校批判一辺倒から変化したマスコミ論調

 調査結果から不登校のきっかけとなった理由(教員による複数回答)を見ると、「その他本人に関わる問題」が38.8%、「いじめを除く友人関係」が18.4%、「親子関係をめぐる問題」が11.1%、「学業不振」が9.6%などで、「いじめ」は3.5%にすぎなかった。

 また、今回初めて不登校が増加している原因を都道府県教委に尋ねているが、「人間関係をうまく構築できない児童生徒の増加」が93%、次いで「家庭の教育力低下で基本的生活習慣が身につかず不登校に結び付く」が82%、「嫌がるのに無理に学校に行かせることはないと考えるなど保護者の意識の変化」が65%などとなっている。都道府県教委の多くが、子ども本人や保護者に原因があると受け止めていることが分かる。おそらく、これは学校関係者の多くに共通した感想だろう。

 では、なぜ不登校は再び増加してきのだろう。
 先に挙げた「校内暴力→いじめ→登校拒否」という図式を当てはめると、現在は不登校が増加するサイクルに入っているとも解釈できる。実際、1993年から2000年まで校内暴力は急増し、その後も高い水準で推移していた。旧文部省は小学校まで校内暴力の有無の調査対象に加えたほどだ。そして2006年にはいじめが原因による子どもの自殺が相次ぎ、大きな社会問題になった。順番からいえば、次は不登校となる。

 また、子どもたちの変化も見逃せない。学校裏サイトなどによる「ネットいじめ」などいじめの方法は、より陰湿化していると言われている。他人とコミュニケーションを取る能力の低下も学校関係者にとっては周知の事実だ。都道府県教委が指摘するように、「いじめなどの心配があるなら無理に学校に行かせる必要はない」と割り切る保護者が増えたことも間違いない。

 いずれの論議にも賛否両論はあるだろうが、それなりに正しいのだろう。不登校の問題は、子ども本人、家庭、学校、そして社会全体の風潮などが複雑に絡み合っており、これが原因だと断定することは限りなく難しい。しかし大事なことは、現在いる不登校の子どもたちをどうするのか、そして、これから不登校の子どもたちを出さないようにするにはどうしたらよいのかということだ。

 その意味で注目されるのは、今回のマスコミの論調では「子どものコミュニケーション能力の低下」「保護者の意識の変化」など、学校以外の要因を強調しているところが多かった点だ。おそらく、記者会見での文科省の誘導もあったのだろうが、学校ばかりを批判する姿勢がおかしいことにマスコミも気付き始めたのだろう。

 学校関係者から見れば、子ども本人や保護者にも問題の一端があるというのは当然の思いだろうし、マスコミが子どもや保護者の問題に目を向け始めたこと自体は歓迎すべきことだ。だが、懸念されるのは、このような論調に学校や教育委員会が無自覚に迎合すれば、「不登校は子どもや保護者の責任」という考え方が学校関係者の間に蔓延しかねないことだ。

 例えば、「モンスターペアレント」という言葉が登場し、社会全体が保護者の問題に目を向け始めたが、その結果、保護者の間では「モンスター呼ばわりされたくない」と学校への要望を抑える雰囲気が生まれつつある。一方、要望やクレームを言ってくる保護者をすべて「モンスター」と切り捨てる教員も出始めているという話も聞く。
⇒【関連記事】小野田正利 保護者クレーム問題を語る

 不登校問題も同様で、学校ばかりを批判していた時代が終わり、子どもや保護者にも責任があることを社会が理解するのは悪いことではない。しかし、複雑に問題が絡み合っている不登校は、学校の努力だけで解決することは困難だ。だからこそ、学校、家庭、関係機関、社会全体が連携しなければならない。2年連続で不登校が増えている原因を究明することはもちろん必要だが、いたずらな犯人探しに意味はない。

 学校、子ども、保護者、社会のそれぞれ責任があることを前提に、互いに協力し合って対応策を見つけていくしか、不登校問題を解決する道はないのではないだろうか。

参考資料

構成・文:斎藤剛史/イラスト:あべゆきえ

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