2020.03.17
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言葉のちからを育てる国語教育 ―学んだことの表現&活用で確実な定着へ―(No.9)

この連載は、「生徒の読解力を高めるためにどのような授業をしたら良いのか」という問いから始まり、文学的文章を「物語をとらえるための枠組み」を使って読むための授業づくりについて段階的にご紹介しました。最終回となる今回は、各単元の評価をどのように行っていくべきかについてお話したいと思います。

小平市立小平第五中学校 主幹教諭 熊井 直子

本当に分かったかどうかは表現しないと分からない

少し中学校の国語の授業とは違う観点からお話をします。

私は国語科の教員ですが、英語やフィンランド語などの外国語の学習をすることを趣味のひとつとしています。外国語学習をしていてよく言われることのひとつに「書ければ読める」があります。

TOEICなどのリスニングとリーディングのテストのスコアをあげようとすると、とにかくひとつでも多くの問題を解いて練習しなければという気持ちになります(これは他の多くのテストに対しても言えることかもしれません)。私自身も勉強していてそういう気持ちになりますし、実際とにかく問題数をこなすことを第一にする時期もあります。でも、多聴多読をしていればそれだけでスコアが伸びるかというとそうではありません。ある文法や単語を本当に理解するためには、自分自身で使いこなせるレベルまで書いたり話したりして表現する練習をする必要があります。自分が使える単語や文法であれば、リーディングやリスニングで出てきてもつまづくことはありません。

もちろん、「書ける」ようになるためにはとても時間がかかります。

例えば、ある日本語の文を英語で書けるようにするときに必要な手順は、簡単に整理すれば、

  1. 日本語を英語にする
  2. 自分の英文が適切かどうかを確認する
  3. 違うところは直し、もう一度何も見ないで日本語を英語にする。

の3つです。

「1.日本語を英語にする」ときには、単語や文法の知識を思い出したり調べたりするという作業が必要です。「2.自分の英文が適切かどうかを確認する」ときには、正解として答えが示されているときであれば、なぜその英文が正解と言えるのか、自分の文はどこが間違っているのかという確認作業が必要です。「3.違うところは直し、もう一度何も見ないで日本語を英語にする」では、1と2で確認したことを覚えて定着させる必要があります。

たった1文であってもこの3つの作業を行うことは、ただ英文を読んでいるだけの時と比べたらかかる時間も労力も大きく異なります。でも、それぞれの確認作業に時間がかかるということは、まだ自分の言いたいことを英語で表現するための力がたりないということなのです。そして、1や2で、ひとつひとつ確認をしていくことは英文を一度さらっと流して読むとき以上に細かいところを意識する力が必要になります。

普段は流してしまう部分を意識し、適切な英語で自分の言いたいことを表現できるようになった時に、本当に「わかった」「できた」と言うことができるのだと思います。

「なんとなく」ではなく、どこまで「わかった」のかを確認することが大切

これは、単元の振り返りに関しても同じことが言えます。「なんとなくわかった気がする」と思っていることを自分の言葉で書くためには、これまで単元の中で学習したことをもう一度しっかり確認したり、文章の細部にもう一度着目したりする必要が出てきます。単元の最後にこのような活動をすることによって、ただ先生の話を聞いて先生の言葉を書き写しただけのときよりも定着度や理解度が変わってくるはずです。

この連載の第2回で「『なんとなく』で終わらせない」という文章を書きましたが、「なんとなくわかった気がする」と思っていることを自分の言葉で書いてみると、実はあまりわかっていなかったということに気がつくこともあります。また、「もうわかっている」ということを改めて自分の言葉で書くことによって確実な定着を図ることもできます。

そのため、私は単元の最後にできるだけまとめの文章を書かせるようにしています。例えば、

  • この単元を通して学んだことを書きなさい。
  • この文章のあらすじを起承転結がわかるようにまとめなさい。
  • 登場人物がどのような役割を果たしているのか、文章中の具体的な言葉を用いながら説明しなさい。

などの課題を出します。場合によってはどの課題に取り組むかを選べるようにして、国語が苦手な生徒が手も足も出ない状態をできる限り作らないように工夫しています。

定期考査は、単元で学んだことを活用するところ

単元のまとめでこのような課題を出すので、私は、定期考査ではこれまでに学習した文章は出題しません。その代わり、単元で学んだことを踏まえれば理解できる初見の文章を探し、単元で学んだことを活用して解けるような問題を出題します。

もちろん定期考査でこれまでに学習した文章を出題し、単元で学習したことの定着度や理解度を図ることも悪いことではないと思います。例えば、授業時間中に先程述べたようなまとめの課題ができなかった場合などは、定期考査で改めて出題する意味があります。

ただ、やはり国語科の教員として意識しなければいけないのは、言葉は「暗記するもの」ではなく、「活用するもの」であるということです。授業の中で学習したことを他の文章に応用させることができなければ、その知識や技術は本当に定着したことになりません。単元の中で、学んだことを理解しているかどうかを自分の言葉で表現させることによって確認し、定期考査で学んだことが活用できるかどうかを確認する。この繰り返しによって、真に生きた「読解力」を生徒に身に付けさせることができるのではないかと考えます。

おわりに

今回の連載では、生徒に読解力を身に付けさせるためにはどのような授業を行うと良いかについて文学的文章を中心に取り上げながらお話してきました。しかし、全てにおいて言えることは、

  • 授業を通して身に付けさせたい力を細分化すること
  • 単元同士のつながりをもたせながら指導を行うこと
  • 単元の評価や定期考査を通して学習内容を定着させ、活用のチャンスを与えること

の3点です。読解力に関わらず、何らかの力を生徒に身に付けさせるためには時間がかかります。教師ができることは、どのような手順を踏んでいけば生徒に力を身に付けさせることができるのかということを考えることであると私は思います。

熊井 直子(くまい なおこ)

小平市立小平第五中学校 主幹教諭
英語もできる国語の先生を目指しています。2016年度に1年間フィンランドの高校で国語の授業を研究していました。英語教育に力の入る今だからこそ母国語教育のあり方を今一度よく考える必要があるのではないかと考えています。

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