子どもたちの体力低下が言われ久しいですが、現在は運動能力の高い子と低い子が二極化してきています。そして、これだけ長い間社会問題となってきたにも関わらず、「転んでも手が出ない」「転んで手をついた時に骨折してしまう」「ボールが来ても避けられない」といったことが、まだあります。
そのような子どもたちが自分で自分の身を守るための行動がとれるようになるために、どのような観点で運動や遊びをさせていったらいいのでしょうか。
「転んでも手が出ない」は、筋肉が弱いから手が出ないのではなく、神経が育っていないから手が出ません。「転んで手をついた時に骨折してしまう」「ボールが来ても避けられない」も筋肉が足りないからちゃんと手をつけなかったり、ボールを避けられなかったりするのではなく、神経が育っていないからちゃんと手をつけない、ボールを避けられないです。そのため、神経を育てていくことを考える必要があります。
一般に、体力は以下の4つの要素があると言われます。
- 筋力
- 心肺持久力
- 身体組成
- 柔軟性
しかしここで忘れてはならないのが平衡性・敏捷性・協応性といった「調整力」です。これらは神経によるところが多い力になります。ただこの観点では「転んでも手が出ない」といったものは解決に向かうことはできません。というのもこれらは運動の出力についての観点が強いからです。
運動のメカニズムをみてみましょう。運動は、
脳 → 神経(運動神経) → 手足・身体が動く
という道順を辿ります(わかりやすく運動神経としましたが、正確には遠心性神経と言います)。しかし実はその前にも大切な工程があります。目で見たものを脳で認識することです。そのため、
目・耳・皮膚などで感じる → 神経(感覚神経) → 脳(認知し、情報を処理する) → 神経(運動神経) → 手足・身体が動く
となります。この工程をコーディネーション・システムと言います。この能力をコーディネーション能力といい、ドイツでは7つの能力とされ、リズム能力・バランス能力・連結能力・識別能力・反応能力・変換能力・定位能力になります。
(参照「部活動問題から提唱する幼児期・児童期の保育・教育について(2)~コーディネーション能力~」)この工程を考えていかないと、子どもは自分で身を守ることができるように育たないでしょう。
言われたことに従うだけの活動や、みんな同じことをする活動では育たない力になります。体育のなかだけでなく、その他の活動や遊びにおいても育てることが出来る能力でもあります。例えば一斉指導においても教員が一方的に話すだけでなく、問いかけを多くしたり、子どもたちの反応にリアクションしたりするだけでも、これらの能力を育てることにもつながります。念頭において指導にあたってみてください。
赤堀 達也(あかほり たつや)
旭川大学短期大学部 准教授・元パーソナルストレッチトレーナー・バスケットボールコーチ
幼児体育指導、小学校のスポーツ少年団指導、中学校の部活動指導、高校の体育指導、大学の体育指導及び部活動指導と、全年代の子どものスポーツ及び体育指導の経験を生かし、子どもの運動能力の向上を図る研究を行う。
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