2006.01.17
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できる教師に学べ! 教師のためのデジタル仕事術セミナー

2005年12月25日、内田洋行 東京ショールーム地下1階CANVASにて「教師のためのデジタル仕事術セミナー」が開催された。本イベントは、『できる教師のデジタル仕事術』(時事通信社より12月15日出版)の出版記念および、同書の著者でもある堀田龍也(メディア教育開発センター助教授)氏らを中心メンバーとした「教育情報配信プロジェクト」の中間発表の場も兼ねてのもの。大雪の被害が心配される中、150名近くの参加者がつめかけ、会場内は熱い熱気に包まれた。

 

  学校現場の情報化は一般企業より数段遅れていると言われている。しかし、ここ数年でパソコンを使える教師は激増し、調べ学習など、授業でインターネットなどのITを活用するのは当たり前。授業以外でも、成績管理、業務連絡などさまざまな業務が、デジタル化を前提としたものに変換しつつある。

 このような状況の中、教育改革でただでさえ忙しいのに、IT対応でますます多忙化したのではたまらない、というのが教師たちの本音だろう。

 今回のイベントでは、ITをいち早く授業や校務で活用し、授業の質を高めたり、業務を効率化することに成功している3人の現場の先生と、情報教育分野の研究者として多数の実績を上げているメディア教育開発センター助教授の堀田龍也先生をお招きし、その仕事術を披露していただいた。


堀田龍也先生
● なぜ今教師のためのデジタル仕事術なのか

 最初にご登場いただいたのは、堀田龍也先生。導入で、

「世の中に“仕事術”を扱った書籍は多数あるが、最初に“仕事術”につながる点に着眼した書籍としては1969年に梅棹忠夫先生が出版した『知的生産の技術』がある。それまで各自の経験レベルでしかなかった“仕事術”をテクニックとして一般化したことで、“仕事術”は劇的に進化していきました」

と、仕事術の変遷に触れ、

 「数ある仕事術の本の中でも、教師という特殊な仕事を扱ったものはほとんどなく、一般書では教師に当てはまらないことも多い。しかし、学校現場も今や情報化を前提とした仕事術を求められているし、今後、今より多忙になることはあっても暇になることはありえないだろう。多忙化する社会の中をどう乗り切っていくか、一歩先を行く先生方の仕事術の中から学んで欲しい」

と本イベントへの思いを述べた。

 


「日経ソリューションビジネス」編集長 桔梗原富夫氏
 
●企業人の仕事術とは? IT化のトレンドは?

 次にご登場いただいたのは「日経ソリューションビジネス」の桔梗原富夫編集長。日ごろ教師が実際に見る機会のない「企業」という場での情報化、仕事術の実態を教えていただいた。

 ユニークなITの活用事例では、町の小さな写真館が、年賀状ソフトを顧客管理のデータベースソフトとして活用し、地域密着で着実に売り上げている例、ある寺院で同じく顧客のデータベースを作成し信徒にタイミングよくDMを発行したりホームページ上でおみくじなどのサービスを開始して若者にもアピールしている例、「誰もやっていないこと」にこだわり、超キングサイズの衣料に絞った商品のネット販売で急成長した地方の衣料メーカーの例などを紹介。大企業に限らず、さまざまなところでITが生かされていることを実感させられた。

 IT業界のこれからにも触れ、「今後もITは日本にとって競争の源泉になるだろう」と予測する一方、「IT分野に進む日本の学生は、急速に台頭しつつある中国、インドに比べて極端に少ない」という、将来に不安を感じさせる現状も提示。教師たち今後の課題を示唆するものとなった。

 最後に、「学校ホームページを充実させ、もっと学校のことを外部にも知らせてほしい」「子どもたちにインターネットはPCの基本的な使い方の指導をしてほしい」「経済や技術の最新動向を指導してほしい」「グローバルな視点や夢を持った子を育てて欲しい」など教育現場への期待が語られた。

 


佐藤正寿先生


石原一彦先生

 

● できる教師たちに「仕事術」を学ぶ

 続いて、岩手県水沢市立水沢小学校の佐藤正寿先生、滋賀県大津市立藤尾小学校の石原一彦先生、愛知県小牧市立光ヶ丘中学校・校長 玉置崇先生のお三方による、「私の仕事術」が発表された。

 時間の都合で、それぞれの先生方の一番こだわっている点についてのみ紹介された。

 佐藤先生のこだわりはホームページやブログで自分の事例をどんどん発信し切磋琢磨すること、いつでもどこでも教材開発をモットーに、オフの日でも常にアンテナを張っていること。

 石原先生には、情報化によって教師のポテンシャルを高める「教員サイボーグ化計画」と、デジタルツールを使って子どもたちの能力を鍛える方法について事例を用いながら解説いただいた。

 トリを務める玉置先生は、冒頭に得意の小噺を披露。会場をドッと沸かせた後、日報メールによる人材の育成、毎日更新の学校ホームページによる地域や保護者応援団の形成などを伝授いただいた。

 お三方それぞれの個性あふれる発表から、「仕事術」と一言で言っても答えはひとつではなく、それぞれに自分に合ったやり方でいいのだ、「デジタル」といっても、結局は使う人の「人間力」が一番大切なのだ、と感じさせられた。

 


玉置崇先生

 

 


会場を埋め尽くす参加者たち

● 「できる教師」たちの本音に迫る!

 次に、堀田先生と、佐藤、石原、玉置3名の先生たちによる座談会が行われた。桔梗原氏(企業人という立場)の仕事術から何を学んだか、それぞれの先生の発表から何を学んだか、自分の仕事術における哲学とは何か、など、ぶっつけ本番、準備なしの展開で堀田先生が次々投げかけるテーマについて本音を語っていただいた。

「今後デジタル化によって仕事環境はどうなって欲しいか」というテーマについては、

「必要な情報を集めておいてくれる、授業の準備や出張の準備をしておいてくれる、秘書のような機能(エージェント)が実現してくれれば。また、コンピュータが表にあまり見えないで、日常生活の空間に溶け込んでいる状況になっているのが理想」(石原先生)、

「教師であれば自分の実践に誇りがあるはずだしそうであるべき。すべての教師がホームページなどで実践を気軽に見せ合いコミュニケーションを広げて、互いに高めあえるようになれれば…」(佐藤先生)、

「教師にとっては授業がすべて。ITによって、瑣末な雑用の負担が軽減され、もっと授業づくりなど本質的なことに時間を生かせるようになってくれるといい」(玉置先生)
などの意見が出された。

 最後に、3人の先生がたから、会場に集まった教師の方々へ次のようなメッセージが送られた。

「子どもの頃から劣等生だったが、とにかく一生懸命やってきたことが長所だと思っている。自分もITを活用し始めたのは最近のことで、決して早いほうではないが、とにかくやれるだけのことをしている。その事例がみなさんの参考になればとても嬉しい」(佐藤先生)

「学校によっては劣悪な情報環境のところも少なくないと思う。でも環境整備を待っていたら子どもたちは卒業してしまいます。パソコンがなければ自分で買えばいい。校内LANがなければ自分で敷設すればいい。環境が悪いと嘆く前にすすんで灯りをつけましょう」(石原先生)

「私たちも、自分の仕事術が絶対正しいと思っているわけではない。私たちの話を聞いて、自分のほうがもっといい仕事術を知っている、こんな方法もある、と言う方は、ぜひ教えてください。互いに披露し合ってもっといいものを作っていきましょう」(玉置先生)

 堀田先生の軽妙な司会、諸先生方のたくみな話術で、飽きさせることなく、笑いの絶えない、そして、先生方の秘策・裏技満載の充実した座談会であった。


内田洋行 畠田 浩史氏
●完成間近! 教師たちを支援する夢のツール

 最後に、内田洋行から、「教育情報配信プロジェクト」について説明があった。このプロジェクトは、今回講師として参加された4名の先生がたのほか、静岡大学工学部システム工学科助手の石塚丈晴先生、千葉県柏市立土南小学校の西田光昭先生、三木市立教育センター副所長の梶本佳照先生と内田洋行が共同研究し、学校教師の業務支援ツールを共同開発するものである。2006年3月にベータ版が完成する予定とのこと。多忙な教師たちの負担を軽減し、よりよい授業づくりのお助けツールとなるか。完成が待たれるところである。

(取材・文/学びの場.com 高篠栄子)

 

情報交換会にて

 

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