2014.08.01
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教育現場からのリポートNO.8 「発達障害のことを保護者と話すために 2」

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

 前回は、児童に発達障害があるのではないかと感じた場合に、教師がどのような対応をしていくべきかについてお話ししました。今回はその続きで、保護者の立場であったなら、どのような対応をしていただくとよいかについて、お伝えしていこうと思います。

 さて、本題に入る前に、発達障害に関する考え方を、再度お話ししておこうと思います。私がこの投稿の中で使っている「発達障害」という言葉は、「発達障害者支援法」に基づいています。その第二条で、発達障害を以下のように定めています。『この法律において「発達障害」とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう。』

 しかし、学校において困難さを抱える子どもたちが、必ずしも発達障害を抱えているということではありません。また、この法律で規定されているような広汎性発達障害、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)に類する困難さだけが、問題となるわけでもないのです。

 では、なぜ発達障害をクローズアップさせなければならないかというと、多くの人たちには察知しにくいという側面をもっているからです。ある子どもと話をしてみると、大人のような語彙数をもち、様々な知識があるにもかかわらず、こだわりがとても強くて自閉的な傾向が強いということがあります。そういった子どもたちの多くは、周囲から奇異な存在だと受け取られかねません。本人の困難さに対する思いやりが示されないばかりか、自己主張が強いとか周囲になじめないということが理由で、友達からも距離を置かれてしまうのです。「見えない障害」(脚注1)と表現する方もいらっしゃるように、子どもたちの発達障害は、特に理解を得にくいという側面があるのです。

 ですが、発達障害に限らず、多様な困難さを抱える子どもたちがいることにも、私たちは注意を払わなければなりません。DVの被害にあって苦しんでいる子どもたちと出会うことも、最近では珍しいことではなくなってきました。とても悲しいことだと思います。他にも様々な障害を抱えていることもあります。

 

 私が教師になって間もなくのころ、場面緘黙症(ばめんかんもくしょう)の子どもを1年生で担任しました。場面緘黙症についての説明文を引用します。「家族や親しい友人とは何の問題もなく話しているのに,学校などの特定の場面では,ひと言も話すことができない状態を緘黙といいます。言語能力(発語・理解)はほぼ正常であるにもかかわらず,学校などの特定の場面や状況で話さなくなることから,場面緘黙症または選択性緘黙症といわれています。」(脚注2)

 今回は、そのI子さんのお母さんをはじめ、私が出会った保護者の方の例をお示ししながら、話を進めていこうと思います。

 I子さんは、家では活発に話すことができても、学校ではほとんど声を発することすらできませんでした。近所の同級生は、「先生、I子ちゃんは、家で遊ぶときにはちゃんと話をするんだよ」と教えてくれました。私は若くて経験も少なかったので、緘黙症という言葉も初めて耳にするものでありましたし、場面によってその症状が出るということにも驚きでした。

 さて、入学式から数日経って、最初の保護者会が開かれました。そのときの保護者のみなさんは、とても穏やかな方ばかりで、しかも教育に熱心でした。無理難題を押し付けるようなタイプではなく、若い教師である私を支えていこうという優しさをもった方がたくさんいらっしゃいました。

 その保護者会でI子さんのお母さんは、他の保護者のみなさんに向かって、I子さんの実態をお話しされました。うちの子は家では話をするけれど、幼稚園ではまったく話すことがなかったこと、小学校に入学してもそれは急には改善されないこと、相手の言ったことはよく理解できていることなどでした。

 その席にいらした保護者の方々は、それをとても真剣に受け止めてくださったようで、帰宅されてからご自分のお子さんに、I子さんのことを話してくださいました。翌日、I子さんに対してはさらに優しく接することができる子どもたちの様子を見て、涙が出そうになりました。I子さんは、周囲の理解を得て、安心して学校生活を送ることができるようになったのは言うまでもありません。

 

 同様の例は、他にもたくさんあります。J君は、生まれたときに仮死状態にあり、生存が危ぶまれたこともあったという子どもでした。J君も発達障害と言われる障害ではありませんでしたが、大きな困難さを抱えていました。J君のお母さんも、保護者会で我が子の様子を話してくださいました。「迷惑をおかけすることがあると思いますが、そんなときにはご連絡ください」という内容でした。他の保護者の方は、そのときも十分にJ君の実態や、お母さんのご苦労を受け止めてくださいました。

 このお二人に限らず、保護者の方が勇気をもってカミングアウトされることがあります。それは、教師にとってはとてもありがたいことです。教師の立場からは、それぞれの子どもたちの実態を、保護者会で話すことはなかなかできません。もちろん、いい情報をお話しすることはできるのですが、個人情報に関することには神経を使います。ですから、ご心配なことがあるときには、保護者の方が自らお話しされることがベストであると思っています。

 

 逆に、とても暴力的な子どもで、他の子どもたちに悪影響を与えている場合であっても、当事者である保護者が、他の保護者に一切かかわらないということもあります。その結果、他の保護者からは、「ひとこと謝罪があってもいいのではないか」という批判が、担任に寄せられることがあります。

 そういったことを予測され、保護者会に出席するとバツが悪いと思われるのか、参加すら拒む方もいらっしゃいます。それでも、授業参観等にはお越しくださり、他の保護者の方と顔を合わせることがあるのですから、かかわらないで済ませられることではないように思います。

 

 これまでも何度も申し上げてきたように、発達障害を含む様々な困難さについて、私たちはもっと理解し合う必要があります。お互いが支え合って生活していることに、思いを寄せるべきです。周囲の理解や優しさがあれば、保護者の方が我が子の成長を期待し、困難さを抱えていたとしても一緒に乗り越えていこうとするエネルギーをもつことができるからです。

 I子さんやJ君のお母さんが、勇気をもってお話しされた背景には、周囲の理解を得られるだろうと思われる何かがあったのだろうと推測されます。地域のつながりや、それまでの人間に対する信頼関係なのかもしれません。時代の変化と共に、保護者の方にそういった支え合いの気持ちが薄れてきているとすれば、とても悲しいことだと思います。

 

(注1)見えない障害に関して、活動をされている方をご紹介します。バッジを身につけることによって、障害を理解してもらおうという活動をされています。みなさんもぜひ、サイトをご覧になってください。(わたしのフクシ。http://watashinofukushi.com

 

(注2)以前にもご紹介しましたが、発達障害やその他の障害に関する情報を配信しているサイトです。(独立行政法人国立特別支援教育総合研究所 緘黙症のページ

 https://www.nise.go.jp/portal/elearn/jyoucyo-kanmoku.html

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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