2013.11.13
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若い先生たちへのメッセージNO.13 「虐待やネグレクトの問題に対応しよう」

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

 10月に入っても30度を超える日が続いていたのに、急激に気温が下がりました。先日、暖房を出しました。学校では風邪などの流行が始まりました。教師にとっても、健康が第一。体調を整えていきたいですね。

 さて、今回は前回に引き続き、ちょっと重たい話題です。でも、教師をしていると、こういった問題から目をそらすわけにはいきません。一緒に考えていきましょう。

  

 ここ数年、虐待の被害を受けて転校を余儀なくされる子どもや、ネグレクトと思われる子どもが目立って増えてきました。しかし、そのような家庭環境に問題を感じ、子どもの生活を整えようと努力したとしても、教師にできることには限界があります。どんなに子どもがお腹を空かせていても、暴力を振るわれていても、自分の子どものように引き取ってしまうことはできないのです。私も教師を続けている中で、自分の力の限界に、何度ももどかしさを感じました。

 子どもたちが家庭での不安定さを抱えていれば、学校生活においても影響が出てきます。それは決して好ましい姿としては表れません。例えば、友達に対しての過激な暴力となることもありますし、無気力という形で表れることもあります。もちろん、発達障害による不適応と区別する必要性があるのですが、子ども自身が抱えている困難さは、同様に厳しいと言えます。

 では、虐待やネグレクトの子どもたちに対して、どのようにかかわっていけばいいのでしょうか。

 まずは、正確な情報を得ることから始めてほしいと思います。身体にあざや傷がないかどうか、食事をとっているのかどうか、保護者が子どもに対して関心があるのかどうかなどの情報を収集することが大切です。兄弟姉妹がいれば、関係する担任の先生とも連絡を取り合う必要があります。長く勤務している教師や、養護教諭から聞き取ることもできるでしょう。

 ただ、このような情報収集に際して、気をつけなければならないことがあります。個人情報を保護することに、十分に配慮しなければなりません。ですから、子どもや保護者の了解なく、身体をくまなく調べるようなことはできないのです。私たち教師の権限は、とても小さいものであることを認識しておく必要があります。

 あざや傷が気になる場合は、最初に子どもから聞き取り、保健室などの人目のない場所で、複数の大人の立ち会いのもとに確認していきましょう。一人で対応することは、絶対にやってはいけません。誤解を招く要因となってしまい、教師自身の立場を危うくするからです。

 また、身体に傷などがない場合でも、明らかに食事をとっていないとか、毎日同じ洋服を着ているなどの問題を感じた場合にも、同様に複数で聞き取りを行います。その際、子どもの心にも気を配り、保護者を批判することは避けなければなりません。子どもの様子を心配しているから質問したいことがあるのだということを、きちんと伝えてから対応していきましょう。

 子どもの様子や聞き取りから、虐待やネグレクトであると考えられた場合は、学校に設置されている組織を使ってカンファレンスを行ってもらうように、担当の先生に相談します。管理職や担当の先生にも実情を知ってもらうことが肝心だからです。急ぐ場合には、直接、管理職に報告することも大切です。その緊急度がわからない場合には、学年主任の先生や、特別支援教育コーディネーターに相談して、判断を仰ぎましょう。

 カンファレンスの話し合いの結果によっては、専門機関に情報提供が行われます。自治体によって名称が異なりますが、子ども家庭支援センターなどとよばれる機関に情報が提供されます。そこから、必要に応じて、福祉課や児童相談所へ情報が伝わることになっている場合が多いようです。

 緊急性のある場合は、専門機関が動いて対応をしてくれるからいいのですが、多くの場合は学校での対応を余儀なくされます。その対応は、主に担任が行うことになりますから、担任の負担は大きなものとなります。

 

 10年くらい前にも、朝ご飯を食べてこない子どもはいました。朝ご飯だけならまだしも、夕飯も食べていないこともあったのです。そんなときには、保健の先生がこっそりクッキーを食べさせてくれることもありました。また、冷蔵庫に入れておいた牛乳を飲ませてくれることもありました。保健の先生は、そういうことをすることがベストであるとは思っていません。私たち教師とて同じです。しかし、お腹が空いているのを見過ごして、子どもたちが学習に専念できないことや、友達に暴力や暴言の形で不満が爆発してしまうことを心配したのです。

 このごろは、そのころよりももっと厳しい状況にあるのではないかと感じます。ある子どもは、イライラが募って、何時間も暴れることがあります。また、ある子どもは、学校に来ても無気力で、何もしないでボーっとしているか、寝てしまうという状態を長く続けています。

 

 学校で危惧しているような実態は、地域にも広がっています。ある児童館の館長さんから伺ったところ、休日の利用日には昼の時間に休みを取り、必ず帰宅させる対応をとっているとおっしゃっていました。そうしないと、昼ご飯を食べることなく、朝から夕方まで児童館で過ごす児童が増えているからだそうです。しかし、休み時間を取っても、根本的な解決とはなっていません。帰宅してもご飯を食べることができるとは限らないからです。友達の家に行ってご飯を食べさせてもらうとか、近くの公園で時間をつぶす様子があるそうです。給食を食べることができる平日ならいいのですが、休日や長期休業日の方が、食事をとることができないという危機感を、子どもたちは抱えているのです。

 学校や教師にできることには限界があっても、黙って見過ごすわけにはいきません。専門機関と連携しながら、子どもたちの命の危機にも、敏感でありたいと思います。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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