2011.09.06
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【応援メッセージ】「教育つれづれ日誌」執筆者・山下 豪一さんより

「東日本大震災 学校応援プロジェクト」に掲載した記事や執筆者へ向けて応援メッセージが寄せられています。今回は、宮崎県の都城市立高崎中学校 教諭 山下 豪一さんより、宮城県の南三陸町立歌津中学校 校長 阿部 友昭さん宛てへのメッセージです。

南三陸町立歌津中学校 校長 阿部 友昭 様

阿部校長先生の記事を読ませていただきました。この数か月間の校長先生の心痛、ご苦労、並々ならぬものだったとお見舞い申し上げます。

震災のため、学校施設が避難所となり授業や学校行事が思うように実施できなかったり、生徒の皆さんも、部活の練習が十分にできなかったりと、教職員・生徒の皆様の苦労に心が痛みました。

私の現在の勤務校は、宮崎県都城市高崎にありますが、昨年度は口蹄疫の影響で、修学旅行の延期をはじめ様々な行事が取りやめになったり、中総体前の練習試合を自粛したりしました。また、比較的高崎地区は軽かったものの、今年度は新燃岳の噴火による降灰で、屋外競技の練習に影響が出ました。東北の皆さんとは比較にはなりませんが、自然災害の苦労については、他人事のように思えませんでした。

数日前、被災されたピアノ教室を開かれていたある女性のことがテレビで放送されていました。命は助かったものの、教室を開いている家を失い、ピアノを失い、失意のあまりにピアノに触れることさえできなくなり、途方に暮れた日々を過ごす毎日だったそうです。「生きる意義を失った…」そんなことを感じさせる姿でした。立場が変われど、同じ教師として自分を重ね合わせ、心が痛みました。

精神的にダメージを受け、つらい思いを背負った生徒。その生徒たちをどう励まし、導いていくか。自分自身も被災者でありつらい思いを背負いながらも、気持ちを奮い立たせ児童生徒に対応しなければならない被災地の教職員。そんな皆様に、私は「自分は何ができるのか…、自分はどうすればいいのか」、答えが出せない己自身に、無力感を覚えました。

「このピアノの先生はどうなるのだろうか。どうか立ち直ってほしい」、そんな思いで続きを見ていました。すると、避難していたピアノの教え子たちが帰ってき始め、再会します。つらい思いをしたはずの教え子たちが、「先生、また教えてほしい。ピアノを弾きたい」と話します。その声で、触れることさえできなかったピアノで再起を決意し、間借りながらも教室を再開されました。

このエピソードの中に、被災した人々が希望を見出し未来に向かって立ち上がるためのヒントを垣間見たように思えました。ピアノ教室の生徒さんたちも、精神的に苦しく重いものをたくさん背負っているはずです。それなのに、「またピアノを弾きたい。習いたい」と、前向きに生きようとしている生徒の姿が、先生であるその女性を前向きにし、生きる気力を奮い立たせたのだと思います。

歌津中学校の終業式での生徒の声『1学期を終えて』の文章(阿部校長先生執筆「被災から130日、1学期を終えて」)を思い起こしました。十分な練習ができず、県大会出場を逃した3年生。一旦は目標を見失いましたが、遠方から来て被災地復興のために懸命に働くボランティアの人々を見て、前向きに生きる気力を奮い立たせていました。

うまく表現できないのですが、“前向きに、ひた向きに懸命に生きる姿は、ほかの人を感動させ前向きに生きる気力を奮い立たせる…”のではないかということです。また、そのことは次から次に人々に広がっていくのではないかとも考えました。実際、先ほどのピアノの先生の生き方や、歌津中3年生の文章に触れ、私自身も、現在自分のありようを反省し、“前向きに、ひた向きに懸命に生きなければ”と思いを新たにしました。

阿部校長先生にお尋ねいたします。先生も、先ほどの3年生徒の声に触れ、「つらいけれども、この生徒たちのために、頑張ろう」との思いを新たにされたのではないでしょうか。日々の学校生活は、大変苦労も多いことと思いますが、生徒のひたむきな姿に励まされることが多いのではないでしょうか。

校長先生、私に代わって『1学期を終えて』を述べてくれた生徒さんにお礼の言葉をお伝えください。「遠く離れたところの、一人の教員の生き方を再考させてくれて、ありがとう。今できることをなおざりにしないようにします」と。

私は思うのですが、被災地の皆様の復興に懸命に生きる姿は、生きる意義を見失いがちな被災地外の人々に道標を示しているのではないでしょうか。“前向きに、ひた向きに懸命に生きなければ”という気持ちが、日本中で広がっていけば、明るい日本の未来が見えてくると思います。

私は、ボランティアで直接被災者の方々を応援できませんが、今回の気づきを教え子や周りの人々に伝えていくことで、被災地の方々を応援していこうと考えております。

平成23年8月28日

都城市立高崎中学校 教諭 山下 豪一(やました ひでかず)

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