2006.04.25
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お金を通して社会の仕組みを学ぶ キッズ・マーケットキャンプ

春休みが始まって間まもない3月28日~30日、3日間にわたって、キッズ・マーケットキャンプというイベントが早稲田大学日本橋校で開催された。全国から集まった、小学5、6年生と中学1年生、33名が、お金の大切さ、計画的なお金の使い方などについて学習した。

お金のありがたさや、やりくり、我慢といったことを学ぶ

 「よく誤解されるのですが、別に子どもたちに対し、投資家育成を目的とした金融教育をしているわけではありません。お金というものを通して、社会の仕組みを勉強してもらいたいのです」
と語るのは、本イベントの発案者であり主催の早稲田大学日本橋校 ファイナンス研究科教授の大村敬一氏。

 「最近は、お小遣いをもらう子が少なくなっているそうです。もちろん貧しいからではない。欲しいものは親に言えばなんでも買ってもらえるので、お小遣いの必要がないからです。昔の子どもは、お小遣いをやりくりして欲しいものを買ったり、お小遣いで買えないものは貯金して買ったりした。これらの経験を通して、お金のありがたさや、やりくり、我慢といったことを学んできたのです。そういったあたりまえのことを、今の子たちはできなくなっているのでないか、そういう危機感から、子どもたちにお金の大切さを学んでもらおうと思って、キッズ・マーケットキャンプをスタートしたのです」

 


 

2004年の夏、大村氏の考えに賛同する協力者たちで小規模に第1回のキッズ・マーケットキャンプを開催し、今年で3年目、夏、春合わせて4回目の開催となる。

 3日間のプログラムでは、「ライフプランを立てる」「お金を貯める」「リスクと付き合う」「投資ってなんだろう」など、45分8コマの講義をこなす。また、野外学習として日本銀行本店、東京証券取引所、貨幣博物館などの見学も盛り込まれている。最終日には、「エグゼクティブランチ」と称して、企業の経営者とともにお弁当を食べながら、会社や仕事のことなど自由に話し合う時間もある。
 講師は、千葉商科大学大学院教授の伊藤宏一氏をはじめ、大手銀行や証券会社の取締役など、そうそうたるメンバー。

 これだけ充実した内容だが、「寺子屋的に小規模でやりたい」という大村氏の意向で、参加者は抽選で30名程度まで。ただ、他の地域でも同様の講義を行いたいという要望も増えているという。


早稲田大学日本橋校
ファイナンス研究科教授 
大村敬一氏

「きれいな」お金の使い方を学ぼう!

さて、実際の授業を見学してみた。

 初日、伊藤宏一氏による「目標をたてる」「ライフプランをたてる」のコマを見学する。
 ここでは、やりたいことのためにはお金が必要、そのために計画的にお金を貯める、ということを学ぶ。伊藤氏は夏目漱石の『坊ちゃん』のエピソード(中学の時に父親をなくした坊ちゃんは、遺産分けでもらった600円を元手に師範学校で勉強して教員となり、40万円の月給をもらう)を引用し、目標や計画の大切さを悟らせる。 そして、自分や家族の年齢を書いたライフプランシートを作成し、30歳のとき、60歳のときに自分はどんな仕事をしていたいか、どんな生活をしていたいかを記入していく。

 「野球選手になりたい」「パイロットになりたい」などの夢は誰でも持っているだろうが、それを実現するためにはどんな勉強をしなければならないか、どんなお金が必要か、までを考えることはあまりないのではないだろうか。何かをしたい、と思ったときに、「勉強をしていないから」「必要なお金が貯まっていないから」できない、ということを避けるためにもライフプランは必要である。言い換えれば、ライフプランがないから多くの人は夢がかなわないのだとも言える。そう思うと既に人生の半分を過ぎた筆者にはなかなか厳しい講義であった。

 最後に、伊藤氏からの質問。

 「みんなは、お金ってきれいなものだと思う?汚いものだと思う?」

 子どもたちから「きたない」「きれい」「どちらとも言える」などの声があがる。


ライフプランシートに自分の将来像を描く

 

「お金自体はきれいでも汚くもない。ただ、使い方によって、きれいにも汚くもなるんだよ。ここではきれいなお金の使い方を勉強するんだよ」
おそらく、キッズ・マーケットキャンプ3日間のすべての目的がここに凝縮されている。株で一攫千金、という下心で見学に来た筆者は密かに赤面。
 そのほか、講義内容については、昨年夏のキッズマーケットキャンプを取材した記事もご参照されたい。

こちら


千葉商科大学大学院教授 
伊藤宏一氏

ある企業の株価のチャートを見る
インターネットで株価の動きを見てみる
これが実際の株券

企業のトップに聞く。仕事とは、社会とは。

 続いてエグゼクティブランチの様子を取材した。子どもたちは、4つのグループに別れ、それぞれ、三井不動産株式会社 常務取締役の影山美樹氏、三菱自動車株式会社 代表取締役社長の益子修氏、キッコーマン株式会社 取締役副会長の茂木賢三郎氏、株式会社ニチレイ 代表取締役社長の浦野光人氏を囲み、昼食をとりながら談笑した。
 子どもたちから投げかけられる、「社長になって苦労したことは」「会社はだれのためにあるのか」などの質問に企業のトップたちが直接答える。日ごろ手の届かないようなところにいる大企業のトップでも、ともにお弁当を食べるというだけで親近感がわく。子どもたちにわかりやすく会社が利益を生む仕組みを教えてくれる一方、「世界中とのかかわりの中でビジネスをしていかなければならないので、自分の考えだけに閉じこもらずにいろいろな価値観の人の意見を聞ける人になって欲しい」、「生活者にとって役立つものを作ることで社会に貢献するのが企業の務め」など、子どもたちの心に響くメッセージも贈られた。

 
 
影山美樹氏
益子修氏
茂木賢三郎氏
浦野光人氏
 

 

 この3日間で子どもたちは、ただお金を増やしても意味がないこと、将来の計画を立て、お金はそれを実現するために使うこと、リスクとはどういうものかよく知ったうえでリスクとつきあうこと、株主や生活者(顧客)を幸せにすることが企業の使命、など大切なことを学んだ。

 初日、「すぐにも株式投資をやってみたい」という子どももいたが、
 「ただ投資のスキルを学ぶのなら、大人になってから学ぶほうがいい。ここで伝えたかったのは、自分の頭で考え判断する価値観を醸成すること」
と大村氏。その思いはしっかり伝わったに違いない。

(取材・文/学びの場.com 高篠栄子)

関連記事:お金や投資について学ぶ2日間「キッズ・マーケット・キャンプ」2005年夏

 

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