「ネット社会の危険な落とし穴から、子どもたちを守ろう!」フォーラム2005開催
ネットが及ぼす子どもたちへの影響は、様々な形で現れている。ポルノ、暴力、死体、自殺、詐欺など有害な情報が溢れる中で、確実な規制法も確立されておらず、その結果、子どもたちが犯罪に巻き込まれ、また時には加害者になるといった事件も多発している。そんな中、11月25日、東京都庁において「ネット社会の危険な落とし穴から、子どもたちを守ろう!」フォーラム2005が開催され、関係者達からの呼びかけや真剣なディスカッションが交わされた。
ネット社会と子どもたち協議会運営委員長 渡部陽子氏 「見たくない権利」ネーミングの優秀作発表と表彰 |
フォーラムを主催した「ネット社会と子どもたち協議会」は、昨年6月の佐世保の事件を発端に“インターネットの危険から子どもたちを守ろう“と有志が呼びかけNPO、学校、企業、東京都などと連携して設立したもの。当日は、教育関係者や行政機関係者を始め、そういった年代の子を持つ一般の会社員や主婦など様々な層の参加者たち約80名が集まった。 ●見たくない権利 冒頭では、ネット社会と子どもたち協議会運営委員長の渡部陽子氏が挨拶を行い、続けて同協議会で募集した「見たくない権利」ネーミングの優秀作発表と表彰を行なった。「見たくない権利」は、ネットや公共空間において不愉快なもの(例えば残虐な場面やアダルトコンテンツ)を見ることを半ば強要されることなどを防ぐ権利についてのネーミングを募集したもので、本年8月に募集し、9月選考決定した。 受賞作品(作成者)
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●まずは親の意識改革から 小尾すみれさんは、4人の子を持つ主婦の立場から、自らの経験を踏まえ、現場でどう親が子どもたちに接していくべきかを問いかけた。小尾さんは「子どもたちが犯罪の犠牲者だけではなく、加害者にもなってしまうといった時代の中で、行政、政治家たちに対応を求める以前にまず親たちが指導のあり方を見つめ直すことが必要なのではないでしょうか」と話す。小尾さんは、東京都青少年・治安対策本部をバックボーンに持つ「心の東京革命推進協議会」のチーフアドバイザーを勤めている。「心の東京革命推進協議会」で唱える7つの呼びかけを取り上げた。
「これは子どもたちに教え伝えていくべき社会の基本的なルールです。しかし、大人が実践して見せなければ通じません。妻や夫へおはようと言っていますか? お年寄りに席を譲っていますか? 子どもに話を聞いてと言われた時に耳を傾けていますか? (小尾さん)」。無理矢理ではなく、自分なりの言葉で何が“大切”なのかを伝えていくこと、そして「親の意識改革」こそが、子どもを守る前提に必要なのではないかと小尾さんは投げかけた。 |
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フォーラム実行委員長 新井千晶氏 (有)ケイワン代表取締役 柳田公市氏 |
●子どもと大人の絆を高める 活動事例から フォーラム実行委員長 新井千晶氏を筆頭に“子どもと大人のコミュニケーション”を活性化する会員たちからの活動事例も報告された。順に紹介する。 事例1:「親子のコミュニケーションプロジェクト」 事例2:「地域が育む心の絆」 事例3:「学校の情報化と安全対策」 事例4:「21世紀の寺子屋プロジェクト」
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警視庁生活安全局長 竹花 豊氏 |
●警視庁のプロが語る「子どもたちを救うのは大人の責任」 警視庁生活安全局長の竹花 豊氏は、前任の東京都副知事時代に治安対策と青少年問題に取り組んできた。言わば“子どもと犯罪”の問題に取り組むプロ中のプロとも言える竹花氏の特別講演も行なわれた。竹花氏は、殺人請負サイト、自殺サイトなどネットに蔓延する数々の問題を取り上げ、「放置されて良いわけがない」と強く訴えた。 そして、「大事に至らない限り(実際の事件にならない限り)、プロバイダの判断に委ねられている面もある。微妙なラインのサイトでは、条例や法律で規制ができずプロバイダにとっても悩ましい事情がある。しかし、ネットの問題が、ようやく政府でも大きな問題として取り上げられてきたところで半年の間に様々な委員会が立ち上がってきている。問題を解決していくには、プロバイダや各機関との連携が不可欠となっているが、その流れもできてきた」と国レベルでの現況の動きを説明した。 竹花氏は、“父親が子どもと地域に向かい合おう”と提言する「おやじ日本」の会長でもある。 |
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白熱した パネルディスカッション |
●パネルディスカッション「今、大人たちは何を学び、何をなすべきか」 パネルディスカッションは、立場の異なる4人のパネリストたちが其々の思いを論じる中で、会場からの意見、コメントも出るなど白熱したものとなった。 北区地域情報化推進センターを運営する富田 好明氏は、先日、母親殺害計画をブログに綴っていた事件などを取り上げ、「大人が隠したくても子どもたちには簡単に見つかってしまう現状とマスメディアによってそれが拡大されていく危険性について大人が認識すべき」と語った。 上田 和俊氏は、自らが子どもに携帯電話を軽い気持ちで持たせてしまった反省点も踏まえ「子どもに携帯電話を持たせる前にもっと親がもっと考慮すべき。オートバイの免許が16歳にならないと取得できないように携帯電話やパソコンの使用にも年齢制限や免許制度といったものを考えていくのはどうか」と提起した。 編著に「安心インターネットライフ☆ガイド」を持つ永井正直氏は、企業がITの最先端を追い続けてきた裏側で「情報で人を傷つける時代になってしまった。これまでの認識とは異なるということを語り部の一人となって訴えかけていきたい」。 韓国の携帯電話事情を視察して帰国したばかりのNTTドコモモバイル社会研究所リサーチャー遊橋 裕泰氏は、韓国のケータイ利用状況の説明の中に「援助交際」という日本語がそのまま輸出されている事情を語った。「大変恥ずかしいことだ。こういう現状も含め、将来を担う子どものための対策を真剣に考えていかねばならない」。同氏によれば、日本国内の8800万台の携帯電話の四分の一が子ども所有だという。
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3時間に及ぶプログラムにおいて、そのどれもが、参加者たちが本気で子どもたちの問題に関わろうとしている意気込みが感じられる説得力のある真剣な論議であった。パネルディスカッションにおける富田氏の「海水浴場の遊泳禁止地区を確認しないで子どもを放りこんでいるようなもの。親がまずどこなら安全なのか足を踏み入れない限り判断できないのではないか」との言葉は大変印象深いものだ。 ネットを離れた一般の社会においても子どもを狙った凶悪な犯罪が後を絶たない。もはやネットとリアルと分け隔てた対応策などありえない時代であり、“ネット社会の落とし穴”とは、子どもたちを取り巻く環境すべてである。ネット社会の危険性を危惧する上で、地域との関わり、親との関わりといった根本的な問題定義が論じられる時が来たのではないだろうか。 (開催: (取材・文:ITジャーナリスト/遠竹智寿子)
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