2012.07.31
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17th New Education Expo 2012 in 東京 現地ルポ(vol.3)

「New Education Expo 2012 in 東京」が6月7~9日の3日間、東京・有明の東京ファッションタウンビルで開催された。連日、「教育の情報化」を始め多種多様なテーマを掲げたセミナーが行われ、いずれも好評を博していた。現地ルポ第3回目は、この中から特に参加者から人気の高かった「サイエンス」、「震災と防災」という旬なテーマによるセミナーをそれぞれリポートする。

教育現場の旬なテーマ「サイエンス」・「震災と防災」のセミナーに、参加者の熱い視線が注がれる

流れ星を追って ~理科の入り口としての天文現象~
自然科学研究機構 国立天文台 副台長 教授……渡部 潤一 氏

わからないから、おもしろい

自然科学研究機構 国立天文台 副台長 教授 渡部 潤一 氏
自然科学研究機構 国立天文台 副台長 教授 渡部 潤一 氏

「2012年は、天文現象の『金』の年です。5月には金環日食、6月には金星の太陽面通過があり、8月には金星食が起こります。特に、金環日食はとても盛り上がりました。私たち国立天文台のホームページにもアクセスが殺到し、1日間のアクセス数が200万ページビューにも達しました」
 と、語るのは、テレビでもよく拝見する国立天文台の渡部潤一氏だ。
「みなさんも金環日食をご覧になりましたか? 残念ながら私は見ていないのです。テレビ局のスタジオの中で、金環日食の生番組に出演していたので。スタジオを出て屋上から中継しませんかとスタッフにお願いしたのですが、ダメでした」
 と渡部氏が裏話を披露すると、会場が笑いに包まれた。

NEE特別講演 流れ星を追って ~理科の入り口としての天文現象~

「日食や月食は、予測が可能です。だから今回の金環日食のように、みんなで時間を合わせて一緒に観測を楽しむことができます。しかし予測が難しい天文現象もあります。その代表が、『流星』や『彗星』です」
  と、渡部氏は、1972年の「ジャコビニ流星雨」について語り始めた。40代以上の方なら、この名に聞き覚えがあるのではないだろうか。雨あられのように流れ星が降る大天文ショーになる! と予想されていたため、日本中が大ブームに。その過熱ぶりは今回の金環食を上回る大騒ぎで、あのユーミンこと松任谷由美さんがこの流星雨をモチーフに歌を作ったほど。少年だった渡部氏も、学校の校庭で今か今かとワクワクしながら夜空を見上げていたという。
「ところが結果は大ハズレ。流星雨は降ってきませんでした。新聞やテレビは、予想を外した国立天文台をバッシング。怒った市民からの苦情電話が国立天文台に殺到し、仕事にならなかったそうです」
 しかし、渡部少年は異なる感想を抱いた。「偉い天文学者でも間違えるなんて、おもしろい!」と、好奇心を持ったのだ。
「流星が降ると予測したのにハズレることがあるなら、降らないと思っていたのに突然流星がたくさん出現することもあるかも知れない。まだ私たちのわからない世界があるなんて、おもしろい! と感じました。これをきっかけに、私は天文学者になろうと思い立ったのです」。

子どもも大人も、宇宙を楽しもう!

NEE特別講演 流れ星を追って ~理科の入り口としての天文現象~

その夢を叶え、国立天文台に入った渡部氏は、オースチン彗星や百武彗星など数多くの予測や観測に携わってきた。その一つひとつを、美しい彗星の写真とともに丁寧に解説してくれた。富士山の上を巨大な彗星が尾を引いて飛ぶ写真は幻想的なまでに美しく、参加者はため息とともに見とれたほどだ。
「このときは予想が外れて……」
「このときも外れて……」
 と失敗談の連続には、客席から笑いがこぼれた。それでも、渡部氏のスタンスは子どもの頃から変わらない。予測が難しいからこそおもしろい。難しいからこそ失敗の原因を追究し、予測の精度をより高めようと、やりがいを持ったという。

NEE特別講演 流れ星を追って ~理科の入り口としての天文現象~

最後に、渡部氏は宇宙の魅力について語ってくれた。
「今年見られた金環食や月食は、一期一会の天文現象。天体が織りなす奇跡のダンスです。その様子を観測することで、ダイナミックに動く宇宙を感じることができたでしょう。友だちや家族と一緒に観察した体験は、理科への興味の入り口となるはずです」
 また、宇宙を観察することで、視点が広がるとも語る。
「地球温暖化や環境破壊などは、国境を越えた地球的な課題です。これらの課題を考えるには、グローバルな視点が不可欠。宇宙を見ることで、宇宙的な視点を獲得できます」
 そして、宇宙のドラマを楽しんでほしいと、渡部氏は締めくくった。
「宇宙は、人間が見ることができる最も雄大な時空間です。広大な宇宙のあちこちに散らばった星々から、何百年何千年もかけて光が届く。時間と空間が一体になったのが、宇宙です。子どもだけでなく、大人も、星空を見上げてみませんか。“星空浴”は、みなさんの心を癒してくれることでしょう」。

東日本大震災 被災地の学校 復興への歩み
【コーディネータ】東京学芸大学 教育実践研究支援センター・教職大学院 教授……小林 正幸 氏
宮城県南三陸町立歌津中学校 元校長……阿部 友昭 氏
岩手県宮古市立宮古小学校 校長……相模 貞一 氏
岩手県沿岸南部教育事務所(陸前高田市教育委員会派遣)巡回型スクールカウンセラー……渡部 友晴 氏

PTSDはこれから?

東京学芸大学 教育実践研究支援センター・教職大学院 教授 小林 正幸 氏
東京学芸大学 教育実践研究支援センター・教職大学院
教授 小林 正幸 氏

東日本大震災から1年4か月経ったが、被災地の学校はまだまだ困難を極めている。本セミナーでは、被災地で奮闘する教員らを招き、これまで、現状、そして今後について話し合った。

コーディネータ役の小林正幸・東京学芸大学教授は、被災地で子どもの心のケア活動に取り組んでいる。被災後3か月は子どもたちがストレスから過剰に活動的になったり不安が高まったりしたが、実は
「まだ本当の意味でPTSD(心的外傷後ストレス障害)は生じていない」
 という。生活が大変な状況が続いているうちは、感情も抑えられているからだ。小林教授は震災7日目に始めたウェブサイト『東日本大震災特設 先生のためのメール相談』に寄せられた内容を見て、「これは長くかかるな」と直感したという。被災者の3人に一人は3年間PTSDの症状が続くと言われており、

NEE特別企画 東日本大震災 被災地の学校 復興への歩み

「子どもたちには今後、学校不適応の問題として表れてくる。これから症状が深刻化してくると思っている」
 と注意を促すと共に、
「被災地の大変な体験を今後の教育に生かすことが必要。子どもたちが必死に立ち上がろうとしている中、学校は何をしなければならないのか考えていきたい」
 と呼び掛けた。

体を張って校庭を守る

宮城県南三陸町立歌津中学校 元校長 阿部 友昭 氏
宮城県南三陸町立歌津中学校 元校長 阿部 友昭 氏

宮城県南三陸町は地震による被害はほぼ皆無だったが、津波により902人が死亡または行方不明になる「津災」だった。町立歌津中は高台にあったものの、阿部友昭元校長は1960年のチリ地震を小学生の時に経験していたため、やがて来る津波の大きさを直感。同中より10メートルほど低地にあった伊里前小学校の校庭に向かって「上に上がれ―!!」と怒鳴ったという。小学生が中学校の校庭に避難して5分後、予測通り10数メートルの津波が襲ってきた。

体育館に避難後、ある男子生徒がやって来て「水が湧いている所を知っている、と担任の先生に言ったが、行くなと言われた」と訴えてきたので、阿部元校長は即座に「行ってこい! ただし3人で。そして水は最初に俺に飲ませろ」と指示。つまり毒味の上でみんなに配るという意図だ。その後、男子生徒に「なぜ担任は最初ダメだと言ったか分かるかい。せっかく助かった命を余震で失ってはいけないと言いたかったのだよ」と諭したという。男子の水くみ部隊は人数も増え、女子は半分に分けたおにぎりを住民に笑顔で配り、大変な3日間を乗り切った。

NEE特別企画 東日本大震災 被災地の学校 復興への歩み

しばらく後、校庭に仮設住宅を建てたいという申し出が業者からあった。しかし、阿部元校長はチリ地震の経験から「あと5~10年、校庭で運動したことのない子を作るのか」と譲らず、自分の乗用車を校庭の真ん中に置いて抵抗。最終的には住民の理解も得られたという。
 阿部元校長は最後に、自らが制定の副委員長を務めた「南三陸町民憲章」(2010年11月制定)を自作のメロディーで歌って発表を締めくくった。

学校同士も助け合い

岩手県宮古市立宮古小学 校長 相模 貞一 氏
岩手県宮古市立宮古小学校
校長
相模 貞一 氏

岩手県宮古市立宮古小学校の相模貞一校長は阿部元校長の発表を聞きながら、県内の実家や親戚なども被災したこともあって
「三陸海岸はつながっている」
 と感慨を述べると共に、
「町々や学校のすべてが破壊されたわけではない。同じ学校の中にも被災した子ども、被災していない子どもがいる。被災地といっても学区も個人もその困難は、それぞれ皆異なっている。そのような中で、我々は今も、さまざまな地域や人とのつながりの中で生活していることを知っておいてほしい」
 と強調。避難所運営に内陸部在住の教員が力になってくれたことや、被害のなかった学校からも多くボランティアに来てくれたことから

NEE特別企画 東日本大震災 被災地の学校 復興への歩み

「やはり助け合いなのだと、つくづく感じた」
 と振り返った。県の校長会でも、内陸の学校と被災地との姉妹校作りに取り組んでおり、宮古小は今夏、合唱団などが姉妹校のある盛岡市内でふれあいコンサートを開催する予定。
「今後も交流を細く長く続けながら、復興に立ち向かえる人づくりを目指していきたい」
 と抱負を述べた。

被災地の体験を教訓に

岩手県沿岸南部教育事務所 巡回型スクールカウンセラー 渡部 友晴 氏
岩手県沿岸南部教育事務所
巡回型スクールカウンセラー
渡部 友晴 氏

京都府に在住していた臨床心理士の渡部友晴氏は昨年5月から東北沿岸各地のカウンセリングに入り、その縁で9月から現地に常駐。最初は遊びを通して徐々に子どもの心を開いていったという。面接では泣き出す子に「泣いていいよ」と話し、ため込んでいる感情を表出させていった。カウンセリングだけでなく授業の補助、ストレスマネジメントや表現活動にも取り組んでいる。ストレスマネジメントと言っても難しいものではなく、例えば、肩の上げ下げや、廊下ですれ違う子どもとの顔じゃんけんなど、日常生活にリラクゼーション法を浸透させようとするものだ。
「回復には個人差があり、前を向けない子もいる。『あなたのそばには頼りになる大人がたくさんある』と伝えていくのが大事だ。今後も蓄積してくる生活ストレスを(ストレスマネジメントで)管理することも必要だ」
 と指摘。被災地の体験を教訓として広く伝えていくことで
「子どもたち自身も他の地域とのつながりが作れるし、他の地域の人々も防災意識を高めることができる」
 と報告した。

NEE特別企画 東日本大震災 被災地の学校 復興への歩み

この後、会場からの質問に答える形で阿部元校長は
「マニュアル通りにはいかない。自分で考えて実行できる教員がほしい」
 と訴えると、相模校長も同意すると共に
「一言で津波と言っても毎回違う。PTAの会議や活動を通して保護者も育てていかないと、子ども一人ひとりが自分の命を守れるようにはならない」
 と指摘。小林教授は、東京やニューヨークにおける《震災後、子どもたちに表れた不安からくる反応の例》を紹介しながら
「この震災の被害は東日本だけで起こっているわけではない。子どもはいろいろな形で(心理的な)傷付き方をしており、大人が気付くことが大切。本日の先生方の話を教訓に、今後の教育に生かしてほしい」
 と結んだ。

写真:言美 歩、赤石 仁/取材・文:長井 寛、渡辺敦司
※文・写真の無断使用を禁じます。

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