2012.09.04
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17th New Education Expo 2012 in 東京 現地ルポ(vol.4)

「New Education Expo 2012 in 東京」が6月7~9日の3日間、東京・有明の東京ファッションタウンビルで開催された。9日には筑波大学附属小学校によるタブレットPCやデジタル教科書を活用した公開授業が行われ、満員の座席エリアを立ち見客がぐるりと取り囲むという盛況ぶり。さらに新聞やテレビなどの取材陣も多数詰めかけ、立錐の余地もないほどだった。現地ルポ最終回は、この公開授業の模様を詳しくお届けする。

【公開授業】児童の考えを深め、理解へと導く、
タブレットPCやデジタル教科書を駆使した濃密な授業

デジタル教科書・教材を活用した小学校国語・算数授業
【国語】筑波大学附属小学校……青山 由紀 氏
【算数】筑波大学附属小学校……大野 桂 氏

算数授業

学年・教科:3年生 算数科
単元:円と球
本時の目標:(1) 1点から等距離にある点の集合を作り出す操作活動を通して、円の概形を見出すことができる。(2) 円を作り出す過程の中で、円の構成要素である中心と半径を見出すことができ、円の性質について理解することができる。
指導者:大野 桂 教諭
使用教材・教具:タブレットPC、電子黒板(以下、IWB)、教材ソフト(スクールプレゼンターEX)、プロジェクター

タブレットPCで考え、IWBで共有・比較し、発見する

筑波大学附属小学校 大野 桂 教諭
筑波大学附属小学校 大野 桂 教諭

 「円」について学ぶ3年生算数の授業。「輪投げ」を題材に、円の中心や半径に着目し、円の概念を理解するのがねらいだ。
「まずは二人で輪投げをします。二人の位置は動きませんが、的の位置は自由に動かせます。的をどこに置けば“公平”になるか、考えてみましょう」
 と、大野教諭は授業をスタートさせた。この考える活動で、さっそくタブレットPC(以下、TPC)の出番が来た。「スクールプレゼンターEX」というソフトで作ったデジタルワークシートを、児童たちはTPCで操作するのだ。画面中、輪を投げる人のアイコンは固定され、輪投げの的(黒い丸)のみ動かせるように作ってある。児童たちは3人グループで1台のTPCを使い、
「二人の“真ん中”に的を置けばいいんだよね」
 と、相談しながら進め始めた。

NEE公開授業 算数

大野教諭は机間指導しながら、
「いいね。電子黒板に映してみんなに見せて」
 と声を掛けていく。児童がTPCを操作すると、教室前方のIWBとプロジェクターのスクリーンにTPCの画面が表示されるので、各グループの考えを、すばやくわかりやすく、全員で共有することができる。しかも同時に複数の画面を表示することもできるので、グループ同士の比較がしやすい。
「四つのグループの答えを並べてみたけど、似た答えもあれば、違うのもあるね?」
 と大野教諭が発問すると、児童たちはIWBを凝視して見比べ、
「4班の答えが違う」
 と即答した。

NEE公開授業 算数

児童たちが次々登壇して
「4班の答えは、的が上の方にあるけど、二人の“真ん中”だから公平」
 と、IWBの画面を指さしながら発表。そしてついに
「二人からの“距離が同じ”なら、公平になる」
 という発見が飛び出した。“公平”というキーワードからスタートし、“真ん中”というイメージを経て、算数的な“距離が同じ”という定義にたどり着いたのだ。
「“距離が同じ”でいいなら、的を置く場所は他にもあるよね?」

NEE公開授業 算数

と大野教諭が誘導すると、
「たくさんあるよ!」
 と児童たちはまたTPCを操作し始めた。的をコピーして、どんどん置いていく。その操作を見守っていた大野教諭は、
「的をたくさん置くと、何か見えてきたね?」
 と水を向けた。
「線だ! 線みたいに見える!」
 と、児童たちは顔を輝かせ答えた。

 

 

深めた考えを全員で共有し、次のステップへ進む

NEE公開授業 算数

今度は、輪を投げる人が3人の場合を考える。先程と同様にTPCのデジタルワークシートで考え始めたのだが、ここでおもしろい光景を目にした。あるグループの児童たちが3人から“等しい距離”を探すために、筆箱から定規を取り出してTPCの画面上を滑らせ、
「この人が1センチぐらい遠いよ」
 と、試行錯誤し始めたのだ。TPCという最新のデジタルと、定規というアナログが融合したユニークな光景だった。
 この活動から児童たちは、3人から“等しい距離”になる位置は一つしかないことを発見した。

NEE公開授業 算数

次に、4人の場合を考える活動へ。大野教諭はわざと、解けないデジタルワークシートを提示した。すかさず、児童たちから
「これじゃ無理!」
 と声が揚がる。
「4人の位置がこのままでは、全員から等しい距離になる的を置けない!」
「4人目の青い人の位置を動かさないと!」
 と、得意げに指摘する。もちろん、これが大野教諭のねらいだ。
「4人目は移動できるから、的と4人目を動かして、等しい距離になるようにしてみて」
 と指示した。

さまざまなツールを駆使して、本時のねらいへと向かう

NEE公開授業 算数

そしていよいよ本時の最終段階へ。今度のデジタルワークシートはこれまでと一変。的は画面の中心に固定されていて、その周辺に輪を投げる人のアイコンが20以上。定規や三角定規などのツールも右サイドに用意されている。このツールには文房具だけでなく、日章旗や8等分にカットされたピザパイ、ネギなどの一風変わったものも。これはスクールプレゼンターEXに収録されているツールで、画面上で自由に動かせ、コピーや拡大縮小が行えるようになっている。

なぜ日章旗やピザを用意したのか……? その疑問は、児童たちの活動を見て氷解した。的から等しい距離を求めるために、児童たちは日章旗を拡大して赤い円上に人アイコンを配置したり、ピザをコピーして円状に並べたりし始めたのだ。
「ピザとか日の丸で円を作って、その周りに人を置けば簡単だよ!」
 ついに児童の口から、「円」という言葉が飛び出した。
「こんな風に、的から等しい距離にある点を並べると、円になりますね」
 と、大野教諭は授業をまとめた。

NEE公開授業 算数

TPC上で自由に動かして試行錯誤することで、児童たちの考えは深まっていく。デジタルワークシートは、「的だけ動かせる」「的と一人だけ動かせる」などと限定できるので、児童は混乱したり脇道に逸れたりすることなく、本来の課題に取り組める。そしてIWBで考えを共有・比較することで、全員の理解が深まる。TPCの大いなる可能性を感じられた、濃密な1時間であった。

国語授業

学年・教科:3年生 国語科
単元:「すがたをかえる大豆」(光村図書3下)全10時間
本時(第6時)の目標:(1) 6、7段落の事例の内容を読み取ることができる。(2) 事例の順序性を考え、自分の考えを根拠を明らかにしながら話すことができる。
指導者:青山 由紀 教諭
使用教材・教具:タブレットPC、IWB、光村「国語デジタル教科書」、プロジェクター

授業の導入だけで見えてきた、これまでの学びや普段の鍛錬

筑波大学附属小学校 青山 由紀 教諭
筑波大学附属小学校
青山 由紀 教諭

続いて行われたのが、3年生の国語の授業だ。使用する教材は、説明文の「すがたをかえる大豆」。10時間の授業計画のうち、本時は第6時に当たる。授業はまず、前時の振り返りからスタートした。
「前時に学んだ豆腐のことを振り返りましょう」
 と、青山教諭はIWBでデジタル教科書を操作し、豆腐作りの工程を写した3枚の写真を表示した。これは教科書に掲載されている写真だが、デジタル教科書なら写真だけを大きく表示できるので観察しやすい。
「前の時間に、この3枚の写真の順番を考えましたね。どういう順番になりましたか?」
 と発問すると共に、青山教諭は大事な一言を付け加えた。
「理由も一緒に説明してください」
 と。

NEE公開授業 国語

IWBに映し出された写真を見て、児童たちは前時の学びを鮮明に思い出したようだ。
「右上、左上、下の順です。なぜなら5段落目に、『ぬのを使って中身をしぼり出し』『しぼり出したしるに、にがりというものをくわえる』と書いてあるからです」
 と、明快な答えが返ってきた。児童たちが普段から、同教諭の授業を通して鍛えられていることがひしひしと伝わってくる。

 

NEE公開授業 国語

続いて、デジタル教科書をIWBとプロジェクターで表示。映し出された本文は、何色ものマーカーで色分けされていた。
「教科書には、何が書いてありましたか?」
 と青山教諭が促すと、児童たちは
「食品名!」
「作り方!」
「工夫!」
 と即答した。打てば響く小気味良さだ。映し出されたデジタル教科書を見てみると、食品名は緑色、作り方は水色、工夫はピンク色というふうに本文を塗り分けていることがわかった。文章を細かく読み解き、内容を分類し、その学びをデジタル教科書に記録しているのだ。だから復習問題にも即答できるのだろう。

論理的に文の構成を読み解く力、根拠と共に意見を述べる力

NEE公開授業 国語

「今日は6段落目から読みましょう」
 と今日の学びがスタートするや否や、一人の児童が、
「この段落は二つに分かれてる!」
 と“発見”をした。
「ではTPCを使って、作り方について書いた箇所を水色のマーカーで塗ってください。そして二つに分かれているならどことどこなのか、グループで考えてみてください」
 と、青山教諭は児童の“発見”を上手に拾って、指示を出した。

NEE公開授業 国語

「納豆の作り方と、みその作り方の二つが書いてあります」
 との発表に、多くの児童たちはうなずいたのだが、青山教諭は疑問を投げ掛けた。
「なぜ二つ? 6段落目に書かれている食品名は、納豆とみそと、しょうゆの三つだよね? 三つの作り方が書いてあるんじゃないの? グループ内で考え、説明して下さい」
 と、掘り下げてきたのだ。3年生にとっては、かなり高度な発問だ。だが、児童たちは見事に答えてみせた。
「6段落目の“つなぎ言葉”は、『目に見えない小さな生物の力をかりて』と書いてあります。だから、ナットウキンの力を借りた納豆と、コウジカビの力を借りたみそとしょうゆの二つに分けることができると思います!」

学びの振り返りに、デジタル教科書が活躍

NEE公開授業 国語

続いて、7段落目の学びへ。先程と同様、作り方について書いた箇所を水色のマーカーで塗ることになったのだが……。ここで、児童たちから議論が巻き起こった。
「この段落は、作り方について書いてない」
 との指摘があり、意見が割れたのだ。
 青山教諭は、まず「作り方について書いてある」と思うグループに発表させた上で、「書いてないと思う派」に反論させた。
「7段落目の最初に、『とり入れる時期や育て方をくふうした食べ方』と書いてあるので、これは作り方ではない」

NEE公開授業 国語

議論は紛糾。どう着地させるのかと見守っていると、一人の児童がすばらしい“発見”をした。
「『だいず』の字が違う!」
「7段落目は、漢字の『大豆』ではなく、カタカナの『ダイズ』になっています。カタカナの場合は植物のことで、漢字の場合はダイズの種のことだと、2段落目で学びました。だからここは、植物であるダイズの育て方について書いてあるのだと思います!」
 何時間も前の学びを忘れず、知識として活用するとは、感嘆の一言。全員にその学びを再確認させるために、2段落目の学習時に使ったダイズと大豆の写真を、青山教諭はIWBに表示した。画像には当時の書き込みも残っているので、全員が確実に学びを振り返ることができた。

しっかりとした授業計画があってこそ、ICTは効果を発揮する

NEE公開授業 国語

いよいよ授業も最終段階。最後の8段落目をみんなで音読すると、青山教諭は重要な発問を次々と投げ掛けた。
「この作者が、一番言いたかったのは何でしょう?」
 8段落目をしっかり読み解いていた児童たちは、この難問にも明快に答えた。
「二つあります。大豆はたくさんの食べ物に形を変えてすごいこと。大豆のいいところに気づいて、食事に取り入れてきた昔の人たちはすごいこと」
 作者の伝えたかったことを押えても、授業はまだまだ終わらない。青山教諭は
「作者はどうしてこの順番で書いたのだろう? この順番に書いた理由は何だろう?」
 と問い掛けたのだ。
 この構造解析でも、デジタル教科書が活躍した。マインドマップを表示して全体の内容を俯瞰させるとともに、教科書に載っている写真を掲載順にスライドショーさせ、考えの手助けとしたのだ。

NEE公開授業 国語

そして児童たちは、素晴らしい意見を次々と発表し始めた。
「3段落目に『いちばん分かりやすいのは』と書いてあるように、最初は簡単な例から書いて、後に行くに従って作り方が難しくなっています」
「後ろに行くに従って、手を加える量が増えています。だから、水色でマークした箇所が、後ろに行くに従ってどんどん増えています」
 マーカーで色分けすることで、文章の構成を視覚的に把握しているからこその発見だ。

ここで、今日の授業は終了。わずか45分の授業見学だったが、これもかなり濃密な時間だった。しっかりとした授業計画や発問が土台にあってこそ、TPCやデジタル教科書は効果を発揮する。そして日々の指導の積み重ねが、確実に児童を成長させる。改めてそう実感できた授業だった。

写真:言美 歩/取材・文:長井 寛 ※文・写真の無断使用を禁じます。

 
 

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