2019.05.23
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ペアでのスピーキング活動で子どもは本当に英語を話しているのか

小学校英語ではSmall Talkなどのペアでのスピーキング活動が行われるようになってきています。一見,子どもたちが活発に英語でのやり取りをしているように見えますが,本当に英語を使って話しているのでしょうか。

静岡大学教育学部附属浜松小学校 教諭   常名 剛司

「発表+発表=やり取り」ではない

平成29年告示の『小学校学習指導要領解説 外国語活動・外国語編』では,これまでの4つの技能のうちの「話すこと」が「やり取り」と「発表」の2つの領域に分かれています。コミュニケーション活動として2人で話し合っているように見える活動でも,互いに暗記したことを順番に発表するだけで,「やり取り」をしていないコミュニケーション活動が散見されていました。だから「発表+発表=やり取り」ではないですよね。誰かと会って話をするときに,そこには台本なんてありません。インフォメーションギャップというお互いに知らないことを聞き合うために,コミュニケーションが発生するものですよね。対話は筋書きのないドラマです。台本のある対話やドラマは,見ている人は面白いかもしれませんが,対話している人は分かりきった内容では面白くありませんよね。人と人との対話は,お互いの思いを即興で「やり取り」できたら楽しいですよね。

その「やり取り」をする力を高めるSmall Talkというスピーキング活動が5年生で子どもと教師,6年生では子ども同士で1分とか2分程度行われるようになってきています。Small Talkとは,辞書で引くと「ちょっとしたおしゃべり。雑談」という意味です。このSmall Talkのやり取りが小学校英語の授業の中に取り入れられています。子ども同士の「やり取り」も一見,活発に行われているように見えますが,子どもたちは本当はどれくらい英語を話しているのでしょうか。

実際はあまり英語で話せていないSmall Talk

子どもたちが本当はどれくらい英語を使って話しているのか。実際に単元の始めと終わりにタブレット端末を使って2分間のSmall Talkの様子をビデオ撮影し,文字起こししてみました。単元の始めでは,元気よく挨拶から始めるのですが,すぐに・・・あれ?という感じになってしまっていたペアが多いことに気づきました。英語を使って話しているようで,話していないのは以下のようなパターンがあります。

①お互いに言いたいことが言えずに黙り込む

始めに元気よく挨拶をしたきり,どうやって話していいのか分からずに黙り込んでしまうパターンです。トピックは分かっていても,そのトピックで使う表現や自分の思いを表す英語表現が頭から出てきません。「えーと。えーと」「あれだよ。あれ!」という代名詞や指示語が繰り返されたり,身振り手振りはよく発生しているのですが,一向にお目当ての言葉が出てこない対話になっていたりするのは,どこかの夫婦の会話みたいです。日本語なら阿吽の呼吸で分かるかもしれませんが,英語ではそうはいきません。

②言えない相手に日本語で教えている

A:What food do you like?
B:I like …. う~ん。
A:ほら,好きな食べ物だよ。なんだっていいんだよ!
B:う~ん。
A:だから,食べ物!昨日は何を食べたの?
B:え~。焼き肉だった。
A:じゃあ,I like BBQ.でいいじゃん。
B:でもなあ・・・。
こんな対話をしていたらあっという間に1分が過ぎてしまいます。大阪のおばちゃんと東京のお兄さんペアのような会話です(偏見かもしれません)。子どもたちは一応,英語を話そうとしているので,日本語の部分は気を遣って小声で話してくれます。お陰でぱっと見では英語の対話が盛り上がっているように見えるものです。

③黒板やノートに書かれた英文を読んでいる

口からは英語が出ていますが,目線は相手そっちのけで黒板や手元のノートにあります。そっぽを向いたままや台本を見ながらの対話では,思いは相手の心にはなかなか届きません。まるで,休み時間に机の回りを取り囲む子どもたちと口では話をしながら,目線はノートで,赤ペンの先から煙が出るスピードで宿題の丸付けを行っている学級担任のようです(自分のことですけどね・・・。トホホ)。ぱっと見では,英語の対話が盛り上がっているように見えますが,実は英語を読んでいるだけの場合が多いものです。これでは本当に英語を話しているといってよいのでしょうか。

ビデオに撮って振り返ってみる

子どもがどれくらい英語を使って話しているのか。活動の盛り上がりや子どもの笑顔に騙されないように,一度,1~2分間のペアでのスピーキング活動をビデオで撮って見てみることをお勧めします。単元の最初と最後や1年の最初と最後に撮って見たり,文字起こししたりして見るのもいいかもしれません。子どもの成長を教師も子ども自身も実感できるものです。最近なら,上手く使えば自動で文字起こしするアプリもできています。今の小学校英語の学習は音声中心です。音声中心の学習では,聞いたそばから消えてなくなっていってしまいます。子どもの資質・能力の高まりを見える形にして振り返って,授業改善や子どものさらなる成長につなげていきたいですよね。自分が教室で宿題の丸付けをしているところはビデオに撮りたくないですけどね・・・。

次回も身近な英語にまつわることを話題にしていきたいと思います。よろしくお願いします。



常名 剛司(じょうな つよし)

静岡大学教育学部附属浜松小学校 教諭
小学校英語教育の研究を担当しています。自律的に取り組む本物の文脈の中で,子どもの資質・能力を育む小学校英語教育のあり方について考えていきます。

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