2020.08.19
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わたしたちは、野菜の根・くき・葉・花・実のどの部分を食べているのかな? 【食と命】[小3・理科]

本校の農園は、地域の方の協力を得ながら、毎年たくさんの野菜の栽培や収穫、植物の観察等を季節ごとに楽しむことができます。このような環境のもと、児童は、アサガオやサツマイモ、キュウリ、ミニトマト、ピーマン、稲などを育てる豊かな経験をしてきました。しかし、理科の植物の体とつくりを学習した際、サツマイモの普段食べている部分は「根」であると考えている児童はほとんどいませんでした。そもそも野菜は植物なのか!?と悩む児童が多くいました。

草花だけでなく、野菜にも植物としての共通のつくりがあることを知り、興味をもてるきっかけとなり、身の回りの自然にもっと目を向けていこうとする姿が見られることを期待し取り組んだ理科の授業を紹介します。

授業情報

単元:これは、なんでしょう
テーマ:食と命
教科:理科
学年:小学校3年生
時間:1時間

1.野菜の切り口シルエットに答える

教室の様子

「今日学習するのは…」

ガラガラガラガラ!黒板に準備しておいた10種類の野菜を見せて授業は始まりました。

「野菜だ~!」見たことがある野菜が多くあり、クイズに積極的に答える子どもたち。
「10番はキウイです!」しかし正解はにんじん。
予想とちがうと「えぇ~!にんじん!?」と驚きの様子でした。
レンコンやキャベツなど少し遠めからでも切り口が分かりやすいものは答えやすく、普段それほど意識して近づいて見ていないにんじんやサツマイモの切り口は、イメージしにくく答えるのが難しかったようです。
クイズ終了後に、今日はこの野菜たちと一緒に学習を進めていくことを知り「どんな勉強かな」と興味をもっている様子でした。

2.野菜は「植物」であるか考える

実物の大根を見て、「大根は植物なのか」考えてみることにしました。

はじめは「ん?」とよく分かっていない様子でしたが、3年生で育てたホウセンカやマリーゴールドの絵を見ると、「そうだ!根がある」「くきがある」「葉もある」と植物の体のつくりを思い出しながら、答える子どもたち。さらには、理科室の掲示を見ながら植物の一生をふり返り、花がさいた後には実ができたことを思い出していました。

その後でもう一度「では大根は植物かな?」と問いかけると「葉もくきもあるから植物」「大根は成長したら花がさくから…」と農園で大根の花を見たことがあった児童の意見も出ました。「根」に関しては、“大根”と漢字で書かれたカードを見ると、「そっか!根もあるんだ」と気付く子どもたち。大根の普段よく食べられている部分は根であることを伝えると「なるほど」と納得している様子でした。

3.野菜の食べられている部分は根・茎・葉・花・実のどの部分か予想する

サツマイモ、にんじん、たけのこ、キャベツ、たまねぎ、トマト、キュウリ、レンコン、ねぎ、ピーマン。シルエットクイズで出題した10種類の野菜は、根・茎・葉・花・実のどの部分を食べているのか、班で予想する野菜を2種類選び、ホワイトボード上で野菜カードを動かしながら、意見交流を行いました。

「にんじんは食べられるから実かな」「じゃあキャベツも食べられるから実?」「いや~キャベツは葉でしょ?」と理由を交えながら話し合っている姿が見られました。また、他の班からはにんじんと大根は同じところを食べていることに気付き、「根かもしれない」という意見が出た班もありました。

全体的には、野菜がどのように育っていたか思い出すことが難しかったように思います。2年生で育てたキュウリでさえ、土にぬか漬けのようにささっていると考えた班もあったくらいです。そのため、児童の多くが食べられる部分=「実」の部分であると考えていることが分かりました。

話し合いの途中で、栄養教諭が持っていたヒントカード(野菜の育っている様子が分かる絵)を出してもらうと、「お~葉があって、くきがあって、その下だから…根か!」「でもこのオレンジの部分が根!?」と予想はしてみたものの、にんじんの食べられている部分が根であることが信じられない様子でした。

4.自分たちの班と他の班との予想を見比べる

黒板にすべての班が予想したホワイトボードを貼り、気付いたことを発表しました。

「えらんでいる野菜は同じだけど、予想はちがう」と差異点を見出そうとしている児童がいた反面、考えこんでしまう児童もいました。

にんじんは実かくきか悩んでいたが最終的に実だと結論を出した児童に、理由を聞くと「くきは細いから皮をむいて食べられないから実だと思った」と「くき」=細いと草花を想像して考えていることが分かりました。

5.野菜の食べられている部分は、根・茎・葉・花・実のどの部分か結果を知る

根・茎・葉・実の部分ごとに分類された野菜を見た児童は、「え?たまねぎって葉なの!?」「ピーマンは当たった!」と知らなかった事実に驚き、また自分の予想と比べてどうだったのか確認しながら、野菜の育ち方に興味をもって見ていました。

その後、「花」の部分だけがないことに気付いた児童に「花を食べる野菜ってあるのかな?」と尋ねると、「 ブロッコリー!」「菜の花!」「ホトケノザ!」と思っていた以上にたくさんの意見が出てきました。

それから本物のカリフラワーを見せて「これはカリフラワーだね。フラワーって日本語でなんていうか知ってる?」と聞くと、「花!そっか!フラワーだから花なんだ!」と納得したように頷く児童が多く見られました。

6.栄養教諭の話を聞く

最後に「今日学習したことはみんなにとって何かの役に立つ?」と聞かれた子どもたち。

あまりに突然の問いかけに「う~ん…」「やくに立つとは思うんだけど…」と悩んでいるときに、栄養教諭が「食べられている部分によって調理方法が変わるんです。知っているとごはんがもっとおいしく食べられますよ」と話してくれました。

「何のために学習したのか」考えながら栄養教諭の話を聞くことで、より一層自分事として真剣に話を聞く児童の様子がうかがえました。

授業後のふり返りシートからも「これからおいしく料理を作るために知れてよかった」「もっと身の回りの野菜をよく見ていきたい」など、自分の生活と結び付けて考えた児童が多かったことを実感しました。

7.授業の振り返り

導入の大切さを感じた授業でした。

児童が野菜に対する興味をもってくれたことで、本時の課題を明確化することができました。身近な植物に目を向ける教材として「野菜」は適切であったように思います。本物の野菜を見せたときの児童の反応がよかったことがとても印象に残っています。

結果のところでは、視覚的に入ってくる情報量が多すぎたために、どこに視点を置いたらよいのか迷ってしまう児童が多く見られました。
予想する野菜の数を減らし視覚的に分かりやすい結果の出し方を工夫することで、グループごとの予想を比較しやすく言語活動にもっと広がりが見られたのではないかと思います。

結果を見て分かったことを話す時間が十分に取れなかったので、課題に対してどのようなことが分かったのか考えがもてるように今後も指導し、理科としてのねらいを達成した上で、食育の視点をプラスしていける実践を目指していきたいと考えています。児童は「この野菜はどんなつくりになっているのか」しっかり考えたことで、「ほかの野さいも調べてみたい」「一番えいようのある野さいは何だろう」と新たな疑問を生み出していました。

今回の授業を通じて、家に帰ってお母さんが切っている野菜に興味をもってみたり、スーパーで売っているねぎ一本にしても、「本当はもっと根が長いんだよ」と家族に教えたり、身近にあるものに対してもっと深く見ていこうとする意欲が少しでも高まり、児童が「学ぶって楽しい!」「知るってうれしい!」と思えるよう、日々の授業を大切にし取り組んでいきたいです。

真野 麻美(まの あさみ)/河野比佐世(こうのひさよ)※栄養教諭

兵庫県たつの市立揖保小学校

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 准教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

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