2018.09.19
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北六米っこ物語 ~自分たちのくらしをつくる~(その2) 【食とくらし】[小5・総合的な学習の時間]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第142回目の単元は「北六米っこ物語 ~自分たちのくらしをつくる~(その2)」です。

前回は、米粉パンと出会い「米を栽培し、米粉パンを製品化する」という見通しを持った。実際に種籾から苗づくり、田植え、水の管理、収穫までの栽培活動を通して、さまざまな課題を見つけ、主体的に活動する子どもの姿を紹介した。

第二回は、自分たちが収穫した米を用いて米粉パンを製品化してもらうために企画書を作成する。そして、パン屋さんを招いてプレゼン大会をして自分たちの考えた商品をPRする。さらに、米粉パンを製品化する際の米粉と小麦粉の比率を考える。アンケートをもとにさまざまな視点から子どもたちは課題解決に向けて取り組む様子を紹介する。

4 米粉パン製品化に向けて-米粉プレゼン大会に向けて

(1)なぜ、米粉なの?米粉について学ぼう -JAの方の話「米粉のじつは」

JA林さん「米粉はじつは・・・」

子どもたちは、社会科の学習において米の消費量減少や古米の増加、さらに日本の食料自給率の低下など日本の農業が抱える課題について学んだ。そして、地域のJAの方をゲストティーチャー(GT)として招き、米粉が推進されている理由を聞いた。この話をきっかけに、子どもたちは社会科の学習に対する関心が高まり、意欲的に取り組む姿が見られるようになった。自分が主体的に体験し活動に没頭する事象をきっかけに子どもの社会科
への学びに向かう姿勢が、高まっていたことが考えられる。

(2)米粉パン企画書づくり~P(良い)M(不安)I(おもしろい)シート~

米のすばらしさを伝えるために、米粉パンの製品化に向けて企画書を考えた。企画書では、PMIシートを使⽤することで⽶粉製品のすばらしいところやおもしろいところ、また不安なところを考えさせ、商品を多⾯的に分析し判断させた。話し合いの中では、互いの意見を交流し良さを認め合い、パン屋さんに依頼して販売してもらうという視点を持って企画書を精選していった。その過程で、米粉製品化することで何を伝えたいのか、子どもに問いかけた。米粉製品を広めていくことは、自分たちの作った米のすばらしさを伝えるだけでなく、JAの方や農家の方の思い、さらには日本の農業で働く人の未来を支えることにも繋がることだと感じていた。

このように、自分たちの活動が地域の農業の方の問題を解決するために重要なことであり、さまざまな人の思いを受けて活動していることを自覚する学びとなった。さらに米粉製品は、アレルギーの人でも食べることができる製品だということを再認識し、自分たちの活動の価値を感じ、学びを深めていくことにもなった。

(3)米粉パン製品化に向けてプレゼン大会実施~地域のパン屋さんをゲストに招く~

米粉プレゼン大会

地域のパン屋さんを招き、米粉パン製品化に向けてプレゼン大会を実施した。子どもたちは、自分たちの考えた企画書を認めてもらうために⽶粉パンの良いところやおもしろいところ、不安なところを⾝振り⼿振りで懸命に伝えていた。そんな子どもの情熱のこもったプレゼンを聞いたあと、GTから製品化に向けた質問をいくつか受けた。その中に「米粉はどのくらいの割合で入れるのか」という質問があった。

子どもは、米粉の比率を話し合った。その話し合いでは、以下のような意見があった。

  • 米粉100%だとアレルギーの人が食べられる。
  • でも、100%にすると、2,3時間するとおもちのように固くなってしまうという問題点がある。米粉を100%にして売れ残るより、米粉を10%くらいにしてたくさんの人に食べてもらったほうが米の消費量を上げることに繋がるんじゃないか。
  • しかし、それでは小麦アレルギーの人が食べられない。
子どもたちは、何を大切にして製品化するのか、自分たちの出すさまざまな意見の中でそれぞれの価値を考え葛藤していた。

5 米粉パン製品化に向けて-米粉と小麦粉の割合を考えよう

(1)米粉パンを作ってみよう~炊飯器で作ってみよう~

炊飯器で米粉パン作り

米粉の量をどのくらい入れて製品化するのか、自分たちで作ってみて考えることにした。

地域のパン屋さん「キタロクベーカリー」から米粉パンの調理本を貸していただき、炊飯器で米粉パンを試作する計画を立てた。子どもたちは、米粉と小麦の割合を話し合い、以下の6つのパターンで試作することとした。

①90%と10% ②75%と25% ③50%:50% 
④40%と60% ⑤30%と70% ⑥25%と75%

米粉パン保護者試食会

調理計画を⽴てる際には、算数「割合」の学習で学んだことをもとにして250gのうち何グラム必要になるか自分たちで計算した。

試作したパンは、消費者の意見を聞くために授業参観で保護者の方に試食コーナーを設けて米粉パンの食感、味などアンケートに記入してもらった。実際の消費者の意見を聞くことができたと同時に、地域に米粉の存在やすばらしさを伝える良い機会ともなった。

その後、米粉の割合について話し合った。⼦どもたちは、保護者の投票数の多いものや肯定的な意⾒が多く寄せられているものなどアンケートの結果や⾃分の試⾷した体験をもとに⽶粉と⼩⻨の割合を決定した。

話し合いを進める中で、興味深かったのが、選択肢が④40%と60%と⑤30%と70%の割合に絞られたときである。どちらか一つに絞らなければいけないが、味や見た目、アンケートの結果からもさほど差がなく迷っていた。そんな中一人の子どもが

「米粉の比率が10%ちがうからお店で売ったときに米粉パンの値段が10円から20円高くなってしまう。値段が高くなると、(米粉パンを)買ってもらえない。だから米粉は、少ない方がいいと思います。」と発言した。

子どもたちは、JAの⽅の話から⼩⻨粉より⽶粉のほうが仕⼊れコストが⾼いということを学んでいた。その学んだ知識を活用して、生産コストが上がると店頭販売価格が上がるということを結び付けた。味や見た目に差がなければ、販売コストを抑えた方が売れるという意見から米粉と小麦粉は、⑤30%と70%の割合に決定した。

授業の展開例

〇米粉で作られている商品を調べてみよう。

〇炊飯器でできる簡単調理シリーズを調べてみよう。学校の教育現場で取り上げることができるものが見つかるでしょう。

箱根 正斉(はこね まさなり)

兵庫県西宮市立北六甲台小学校 教諭
教員8年目。総合的な学習の時間を中心として子どもの主体性を引き出せるように単元、授業づくりに日々取り組んでいる。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 准教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

監修:藤本勇二/文・箱根正斉/イラスト:学びの場.com編集部

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

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