New Education Expo2006 in埼玉・現地ルポ
New Education Expo2006 in埼玉が11月10日~12日の3日間、さいたまスーパーアリーナで開催され、教育改革、教育の情報化、理科教育などをテーマにした講演やセミナー、事例発表を通じ、全国から参加した教育関係者らが情報交換を行った。ここでは現地ルポとして、教育改革の今後を示唆した基調講演と、CMSによる学校Webサイト活性化の事例報告、同時開催されたJST科学技術理解増進事業シンポジウムにスポットを当て紹介する。
基調講演「日本の学校教育の将来」
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~文部科学省初等中等教育局長 銭谷 眞美 氏
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3つのキーワードで読む「教育改革」の未来 |
学校・家庭・地域の連携でいじめへの対応を
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文科省・銭谷局長の講演会は、聴講者の教育改革への関心の高さから満員御礼。 このうちいじめ問題については、全国の教育委員会の生徒指導担当者を集めて校内の取り組み体制の総点検を求めるとともに、有識者会議を発足させ今後の対応を幅広く検討していくことが決まっている。銭谷氏は、こうした取り組みを進める一方で、「いじめを絶対に許さないこと、そして大人が子どもの命を守ることを、子どもや家庭へ強くメッセージしていく必要がある」と話した。 学校でのいじめが社会問題化した昭和60年以降、文科省では全国的な統計を取りながらこの問題の把握に努めてきた。統計によると、いじめ発生件数は昭和60年および平成6~7年頃をピークに減少し、現在も横ばいが続いている。昨今のいじめ問題の表面化を受け、文科省では、従来の統計手法では把握できなかったいじめによる自殺が疑われる事例がないか、全国の教委にデータの再確認を求めていることも明らかにした。 「いじめはどの子ども、どの学校にも起こりうる問題。いじめをなくす努力はもちろん、早期に発見し、問題を隠すことなく適切に対応することが大切」と銭谷氏。学校現場では、命を守り、心を育てる指導の充実を図る一方、家庭や地域とも連携してこの問題に対応していく体制をつくることが重要と指摘した。 |
PDCAサイクルの確立から義務教育の構造改革へ |
講師の文部科学省初等中等教育局長 銭谷 眞美 氏 また、教育改革の今後については、「(1)教員の資質向上、(2)学習指導要領の改訂、(3)教育行政の見直しの3点が大きな課題になる」と述べた。(1)に関しては、教職員定数と給与の改正、教員免許更新制の導入も含めた議論が予想されている。銭谷氏は、「優れた人材の確保こそ教育の基本」とし、教員の養成、採用、研修のサイクルを改善・充実させることにより、指導力の向上を図っていきたいと話した。 (2)は現在、中教審教育課程部会を中心に議論が進められており、国語力の育成、理数教育の充実、総合的な学習の時間の在り方や、授業時間数の確保などについて検討がされている。銭谷氏は、議論の大まかな方向性は「学習と生活の基盤づくり、学習指導における言葉と体験の重視を通じて生きる力の育成を目指す」というもので、現行の学習指導要領の理念を大切にしながら、確かな学力の育成に配慮した改訂が行われるとの見通しを示した。 (3)は、国、地方自治体、学校の役割と責任の明確化や、関係の見直しを含めた義務教育全体の構造改革を指す。この点について銭谷氏は、来春予定されている全国学力・生活実態調査や学校の外部評価制度の導入などにより、学校現場にもPCDA(Plan,Do,Check,Act)サイクルを確立していくことが重要だと指摘した。 |
「アジアと北欧の教育の現状」
(JST科学技術理解増進事業シンポジウムin埼玉) |
~東京工業大学教授 赤堀 侃司 氏
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これからの学校現場に必要な「授業スタイル」とは |
異なる各国の学習法を比較分析 |
視察したフィンランドの個人学習のスタイルを紹介する赤堀氏。 赤堀氏は2005年から06年にかけてアジアや北欧諸国の学校現場を視察し、教育理念や授業形態、ICT活用の実態、教材など、学習を構成するさまざまな要素を比較分析した。その結果、「教育理念や教育システム、ICTの活用状況はアジアと北欧で異なること。日本は、教材の質と教員の指導力の高さが目立つこと」などが明らかになったと述べた。 たとえば中国の学校現場では、教科書中心の「教え込み型授業」が一般的だ。赤堀氏が視察した小学校では、朝7時30分から夕方5時まで授業が行われ、英語科では中国語を一切使わず英語のみで指導するなど、徹底した効率重視の姿勢が見られたという。一方、2003年のPISA(OECD生徒の学習到達度調査)で総合トップだったフィンランドの学校教育は、個人のスキルや理解度に応じた個別学習が中心になっている。同じ教室で授業を受けていても学習進度は一人ひとり異なり、教師は各自の学習状況を確認し個別に対応する。 子どもたちが使う教材にも違いがある。北欧では演習問題中心の分厚いワークブックが与えられ、子どもは教材に書き込みながら学習を進めていく。最近の日本が、テキストを薄くし、教員の指導力と教材開発の創意工夫により「わかる授業」の実現を目指す方向に動いているのとは対照的と言える。2003年に行われたTIMSS(国際数学・理科教育動向調査)では、日本の教員の授業研究や生徒のコントロール能力の高さが評価されたが、赤堀氏は「これには、日本が教師の力に依存する授業スタイルを採用しているという背景がある」と指摘した。
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「自主性」と「規律」をバランスよく育てるために |
講師の東京工業大学教授 赤堀 侃司 氏 北欧を含めた欧米諸国では、子どもの規律心の育成は家庭の役割と考えられている。授業に参加する態度や学校内での約束事の遵守などは、就学前の段階から家庭が徹底的にしつけるという文化が、個別授業中心の学校教育を支えている。赤堀氏は、日本ではこの点の役割分担があいまいになっており、「本来は家庭が行うべきしつけまで学校の責任にされているのが現状。いまの子どもたちの規律心の低下は、家庭教育にも大きな要因がある」と指摘したうえで、今後日本が取り入れていくべきスタイルとしては、「一斉授業をベースに、課題追究型のグループ学習により個別学習の機会を確保するようなスタイルが考えられるのではないか」と提案した。 |
学校Webサイトが変わる!!
学校用CMSで更新頻度の向上と負担感の軽減は実現できる!! |
徳島県小松島市立南小松島小学校教諭 村井 徹志 氏
宮城県登米市立北方小学校教諭 皆川 寛 氏 富山市立寒江小学校教諭 笹原 克彦 氏 |
教職員「全員参加」のWebサイトで、家庭・地域へ情報発信 |
Open School CMS 運用実験の結果は? |
徳島県小松島市立南小松島小学校 村井 徹志 教諭 このセミナーでは、学校用CMS「Open School CMS」を導入し、学校Webサイトの充実や更新頻度の向上につなげた3校の事例を分析し、学校Webサイトを活性化させる手立てを探った。 まず、株式会社内田洋行の清水悦幸氏が「Open School CMS」の概要を紹介した。CMS(Content Management System)はWebサイトの構築から運用までを支援するツールのことで、学校現場での導入も広がっている。HTMLやFTPに関する専門知識がなくても、ページ作成から更新作業までをブラウザ上で手軽に行えるのが特徴。トップページなどが自動更新されるほか、複数の担当者が同時に作業できることから、負担を分散、軽減することができる。「Open School CMS」は、各種権限設定や年次更新機能など、学校現場での使いやすさに配慮した機能を搭載しており、上記3校を含めた運用実験の結果、更新頻度の向上(平均で2.5倍)、担当者の負担軽減のほか、Web更新作業を通じた教員のICTスキルアップといった効果も見られたという。
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手間を減らしながら毎日更新を実現する工夫 |
宮城県登米市立北方小学校 皆川 寛 教諭(写真左)、富山市立寒江小学校 笹原 克彦 教諭(写真右) 南小松島小学校では、平成17年度のCMS導入を機に、すべての教職員が学校Webサイトの更新に携わる体制をつくった。掲載する情報を、頻繁な更新のいらないストック情報と、定期更新するフロー情報に大別し、後者には校務分掌に連動した担当者を置いた。 村井教諭は、給食の献立や料理レシピを写真入りで紹介するコンテンツを担当した学校栄養職員の例を紹介し、「サイト更新の要となるキーパーソンをつくることがポイント」と指摘。さらに、CMSを活用し、学校行事や授業の様子をいち早く伝えるコンテンツをつくることや、校長を中心とする管理職のリーダーシップと教職員への呼びかけも、学校全体でWebサイトづくりに取り組むうえでは重要だと述べた。 CMS導入後は更新頻度が向上し、保護者や地域の人々の学校Webサイト認知度も上がった。多くのコンテンツのなかでも、行事予定や、写真入りで学校行事や授業の様子を伝えるページが特に人気だという。 同校のWeb活性化の手立てとして皆川教諭は、実際にCMSに触れて更新作業を体験する「CMS活用研修会」と、管理職を含む教職員一人ひとりに担当コーナーを設けたことを挙げた。校務負担の大きい学級担任には、子どもたちの様子を写真を交えて紹介するページを任せ、学級通信の記事も生かして休み時間や帰宅前の少しの時間で更新するようアドバイスするなど、負担感を持たせないよう配慮しているという。
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Web更新への参加がICTスキルアップのきっかけにも |
寒江小学校のWebサイトは、コンテンツごとの担当者の設置やWeb作成研修の実施などにより、CMS導入以前から週2、3回程度の更新が行われていた。しかし更新頻度が上がるにつれ、トップページの更新や各ページのデザインの検討に時間がかかること、管理職に更新内容の承認を受ける作業の手間などが問題になっていたという。 「CMSの導入は、こうした課題の解消に効果的だった」と笹原教諭。リンクの設定や更新情報の追加はシステムが自動的に行ってくれるためトップページの更新作業が大幅に簡略化されたほか、ひな形を活用することでページデザインも不要になり、作業の中心は文章作成と写真の選定に変わった。また、従来は紙ベースで行っていた承認手続きもシステム上でできるようになり、ページの作成から承認、公開までの流れがスムーズになった。 また同校では、学校Webサイトの更新作業に関わることを通じて、教職員のICT活用能力の向上も図っている。そのための工夫として、毎週金曜の職員終礼前の時間を「Web作成タイム」とし全員が作業を行う時間を確保しているほか、校務関連のデータを共有するフォルダの構造とWebサイトのフォルダ構造を一致させ、ファイル管理の一体化をはかるといった工夫も行っている。一方で、Web更新だけでなく授業でのICT活用も対象にした校内研修もニーズに応じて実施するなど、「ICTを使わざるを得ない環境をつくることと、使えるように丁寧にサポートするという両面から、教員のスキルアップを目指している」という。 清水氏は、3校の取り組みに共通するポイントとして、「担当者を分ける」「短時間での作業(1枚の写真、簡単な文章から)」「キーマンの存在(栄養士や管理職の参加)」「訪問者からの反応を励みにする」という4点を挙げた。また、「子どもが学校でどう過ごしているのか、先生方がどのような教育活動を行っているのかを保護者は知りたがっている」とし、「CMSを上手く活用して、学校Webサイトを学校現場と家庭、地域をつなぐ窓口として育てていってほしい」とメッセージを送った。 |
(写真:言美歩/取材・文:栗林俊晴 ※写真の無断使用を禁じます。) |
New Education Expo 2006 in 埼玉 会場ルポ |
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New Education Expo 2006 in 埼玉の会場となった「さいたまスーパーアリーナ」には、ほかにもさまざまなセミナーや教育関連の最新製品の展示などがあった。同時開催の「さんフェア埼玉2006」の模様と併せて紹介しよう。 |
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