2004.10.05
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ひろげよう図工のゆたかさ 東京都図画工作研究会・城西大会

今回は、この夏休みに開催された東京都図画工作研究会のワークショップ・イベントを寺田 薫さんがレポート!















オリジナル・アニメ上映














移動美術館で身近に
芸術を感じることができる



 この夏休み、目立ったのが学校教員によるワークショップ・イベントだ。

 研究発表の一貫というも性質もあるが、大ホールを舞台に現役の理科の先生が実験教室を開いたり、美術教師が手作り教室を開催したりと、<開かれた学校>はより一層大きく門を開け、そこから先生たちは外へ外へと精力的に活動を広げている様子がうかがえる。一方、現役教師が指導してくれるワークショップ、おまけに無料となれば、子どもを預ける親のほうも安心気楽なもので、いずれのイベントも集客、評判は上々だったらしい。そこで、この夏を締めくくるイベントとして、我が家が参加した『東京都図画工作研究会・城西大会~ひろげよう図工のゆたかさ』の模様をリポートしよう。

 8月27・28日の2日間、中野区の「なかのZEROホール」にて行われたこの大会は、中野区・杉並区・新宿区の公立校で図画・工作を指導する教員が中心となって授業研究や企画・発表をするもので、一日目は教員向けの提案授業、分科会が、二日目が子どもたちを招いてのワークショップ企画という構成。とはいえ、「学校の先生の企画じゃ、さほどのことは……」と侮っていた私。会場でパンフレットを開いてビックリ。その内容、ラインナップがすごいのだ。低学年でも楽しめる万華鏡作りや紙工作コーナーから、身のまわりのものでカメラを作るオリジナル・カメラ制作、絵を描いたり屋外でビデオ撮影した素材を使って本格的に挑戦するアニメーション講座、クレイアニメーター石田卓也さんによるオーブン粘土の携帯ストラップ作りなど、その総数17コーナー。会場内は子どもたちで溢れ、なかには素材切れで早くに終了するコーナーもあった。

 盛り上がる体験コーナーのほか、図工についてのテーマ・セッションや、杉並区で制作されたオリジナル・アニメ上映など、幅広い企画が行われいたが、特筆すべきは、川崎市岡本太郎美術館学芸員・仲野泰生さんによる移動美術館『岡本太郎に出会う』。こちらの企画では、門外不出の秘蔵絵画3点や彫刻作品が会場で公開され、岡本太郎の人物像をまとめたビデオとともに小学生にもわかりやすく岡本芸術を解説してくれる。美術館とは異なり警備員もロープもない至近で、生の岡本作品に触れた子どもたちは、その色彩の迫力にしばし唖然。一方、せっかくのチャンスにも関わらず、慣れない近さに戸惑いを隠せない子どもの姿もある。そういえば、以前、上野の某国立美術館を訪ねたときのこと、そこにはロープこそないが足元に線が引かれていた。当時、未就学児だった娘は絵が大好きで、その日も大きな絵が見たいとせがまれて美術館を訪問した。ところが、彼女がわずか数センチ、ライン・オーバーした瞬間、係員が勢いつけて飛んできた。すっかり萎縮した娘は、以来、大好きな絵を前にしてもまず足元を気にするようになってしまったのだ。

 ところが、今回の移動美術館では、作品に触れることこそ禁じられたが、観賞場所は自由。子どもたちは好きな場所から嬉々として眺めている。本来、芸術の鑑賞に制約など必要ない。ましてや、そこから何を掴みとり、何を生み出していくのか、未知の可能性を秘めた子どもたちならなおさらだ。この移動美術館を企画・運営した図工教員の方々は、そんなことをよくわかっている。

 でも校外学習で美術館を訪ねたらどうだろう? 同じ教員が引率しても、ルールを守って鑑賞することを子どもに求めざるを得ないはずだ。今回のような自由観賞はまず望めない。夏休みだからできること。先生が本当に伝えたいこと。巨匠・岡本太郎との出会いもさることながら、学校では教えられない「自由に作品を観賞する楽しさ」を先生から学んだ子どもたち。教員たちの想いがキラリと光る夏の特別<授業>だった。

  (取材・編集:寺田 薫)


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