2004.05.30
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【エキスポ速報:第1日目】 基調講演に前文部大臣の遠山敦子氏が!

5月27、28、29日の3日間にわたって開催された、教育界最大のイベント「New Education Expo 2004 in TOKYO」。教育改革を大テーマに、教育の情報化、英語教育、理科教育、e-ラーニング、教育特区など、教育の旬な話題をとりそろえたセミナーから、いくつかをご紹介! 第1回目は田中雄一郎がリポートしました!


満席となった遠山敦子氏の基調講演会場

5月27日から29日までの3日間、東京・お台場のファッションタウンビルで開催された「NEW Education Expo2004 in 東京」。会場には多くの教育関連企業が出展し、最新の教材が一堂に展示されたほか、連日多くの講師を招いて、様々なテーマのセミナーが開催されました。そこで、初日に行われたセミナーの中から、以下の3氏によるものを紹介していきます。

英語を指導する側の能力を高めることが大事 
~文部科学省初等中等教育局国際教育課 課長 山脇良雄氏

 「英語が使える日本人の育成」をテーマに講演を行った山脇氏。文部科学省は、平成15年3月、「『英語が使える』日本人の育成のための行動計画」を策定したが、そこに示されているポイントに沿って、英語教育のあるべき方向について話を進めていった。

 「英語の授業の改善」に関しては、「聞く」、「話す」、「読む」、「書く」の4つバランスが取れた総合的なコミュニケーションを育成することが大切だと語る山脇氏。そのためには、先生から生徒への一方通行では終わらない、生徒から先生、あるいは生徒同士による、コミュニケーションを生み出すことが大事だという。

 また、英語教育に重点を置いたスーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール(SELHi)は、来年までに100校ぐらいの指定を目指すとし、その取り組みの成果を、他の高校に普及・反映させていくことが最終的な目標だとしている。

 「英語教員の指導力向上」については、全ての英語指導教員が英検準一級程度、TOEFL550点、TOEIC700点以上の英語力を持つようになることが望ましいと語る。そのためには、全ての英語教員に対して集中的研修の実施が必要だとして、その実現に向けて英語教員研修ガイドブックを作成した。

 ネイティブスピーカーが参加する授業は、最低でも週1回は行われることが望ましいが、先ごろ実施された調査によると、中学では22.3%、高校では13.1%しか実施されていないという。これを学年別に見ると、受験の準備などから、学年が上がるに連れ、ネイティブスピーカーが参加した授業は低下しているそうだ。

 「小学校の英会話活動の支援」に向けては、小学校英語活動ガイドブックを作成中。総合的な学習の時間で、英語の授業を行っている学校を調査したところ、実施している学校は全体の半数、実施している学校でも月1回程度というのが大半ということで、浸透しているというには、ほど遠い結果であったと語る。

小学校から大学まで一環した教育改革を 
~前文部科学大臣 遠山敦子氏

 「変わる学校 変わる大学」をテーマに講演した遠山氏は、昨年9月までの2年5ヶ月にわたる大臣就任期間で、本筋の教育改革と呼ぶべき、21世紀型の改革を貫いていった。「教育改革というものは、成果がすぐに表れるものではなく、何年か後になって芽が出てくるもの。そのためには、未来に向けてビジョンを立てて進めていくことが、本筋の教育改革に当たる」と遠山氏は語る。

 この3月には『こう変わる学校 こう変わる大学』という本を上梓し、改革にいたるまでのいきさつを明らかにしているが、その著書の中で、小学校から大学にいたるまで、一人一人の力を伸ばす教育を進めることが大切としている。

 新しい学習指導要領がスタートし、学力低下が叫ばれるようになったが、それは「ゆとり」という言葉だけが強調された故の誤解で、新学習指導要領の本来のねらいは、基礎・基本を身に付けさせて、確かな学力への誘導と定着を図ること。これは不透明な時代を生き抜くために、子どもに欠かせない能力だと遠山氏は語っている。

 さらに開かれた学校の実現に向けては、これまで学校での問題は、全て内部で処理されていたが、今後は社会を巻き込んで問題解決を進めることが望まれるとして、そのために、全ての小・中・高等学校において、学校評価と情報提供を図り、さらには、学校評議員を設置していくことが必要だとしている。

 そんな遠山氏があげる心の豊かさを養うのに一番大事なことは、「真の知力」と「豊かなこころ」。この両方が無くては教育は成り立たないという。「人間は社会の中の存在、他社への思いやりを持たなければ、本当の自立はありえない」と語る。

 そして、「日本の社会をどうにか良くしたいという思いで改革を進めてきたが、実際に変えていくのは、学校の先生方。たとえ制度を変えても、意識が変わらなければ、新しい制度は動き出しません」と、多くの人が改革に向けて動いてくれるように、会場の先生方に呼びかけた。

子どもはどうして変わってしまったのか 
~プロ教師の会 河上亮一氏

 中学教師として長年にわたり教育現場を見てきた経験から「学校教育再生への道」について語る河上氏。その河上氏によると1985年頃から、子どもが変わり始めたという。クラスの中での集団生活に対応できず、学校でいやなことを体験することに耐えられない。さらには、些細な問題でも生きるか死ぬかまで追い込まれるような内面が傷付きやすい生徒が増えてきたという。

 そうした子どもには、それまで行われてきた伝統的な教育があてはまらず、また、普段はおとなしいにも関わらず、時として攻撃的になることがあるという。しかも、相手を攻撃しておきながら、すでに自分が完成した大人だと思いこみ、自分が絶対に正しいと信じているため、相手に対してやり過ぎてしまったことを反省する生徒が少なくなっていると語る。

 そうした子どもが登場した原因について、河上氏は、日本の文化が変わり、親や学校が変わったことをあげている。1980年代初頭から、アメリカの個人主義や自由平等という理念だけが社会に行き渡り、その結果、それまで学校で当たり前に行われていたことが、平等でないという理由から叩かれるようになってしまった。そのため、本来は物を教えるという行為から、立場が上であったはずの先生が、生徒と平等な関係となったことで、子どもは先生の話を聞かなくても良いと考えるようになり、それが教育を難しくしていったという。

 教育には教科の教育と生活の教育があると、河上氏は説明する。アメリカの学校は、日本と違い教科の教育だけが行われているが、それはアメリカの場合、教会やボーイスカウトといった場が、生活の教育を行う役割を果たしているからで、それが無い日本では、学校での生活の教育が必要だったという。しかし、学校5日制で学校の行事が減り、生活の教育が削られていくのは問題だとしている。

 「古い学校体制を壊していくことは決して間違ったものではないが、それに変わる新しい学校を立ち上げていかなければならない」と河上氏は語っている。

(田中雄一郎)


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