「はじめよう!情報モラル教育 ~子どもたちにネット・ケータイどうやって教えますか?~」
ICTを「学び合い」のツールにするための授業アイデア
【講演】 滋賀大学教育学部 宮田 仁 教授
「伝えあう心の教育・情報安全教育」の必要性
宮田教授は講演の冒頭、「ケータイやネットは、ナイフやフォークと同じ道具。適切に使えばコミュニケーションや学習を深める便利なツールだが、使い方を誤ると人の心を傷つけてしまう」と指摘。子どもでも簡単に情報発信できるネットワーク社会においては、「子どもが被害者にならないだけでなく、知らないうちに加害者にならないためにも、情報安全教育が必要」と問題提起した。
現在、中学校の技術・家庭科では「ソフトウェアの違法コピーの禁止(著作権の尊重と保護)」と「個人情報の保護」を扱っているが、こうした範疇では情報安全教育には対応できない。「ネット社会の落とし穴には、被害者にも加害者にもなるリスクが潜んでいることを、子どもにもきちんと伝える必要がある」と宮本教授。
子どもが関わりやすいネット社会の危険としては、掲示板での誹謗中傷やなりすまし、学校裏サイトなどでのいじめ、個人情報の流出につながる「プロフ」などがある。また、ケータイのゲームサイトなどに熱中するあまり、「現実世界の自分=仮の私、サイト上の自分=本当の私と考えるなど、リアルとバーチャルの区分があいまいになっている子どももいる」という。
宮田氏は、こうしたネット社会のリスクを子どもに理解させ、実践的な態度を養うことが情報安全教育の課題とし、ケータイやネットを疑似体験できるコンテンツなどを活用して、「自分がどのように判断したか」「どのように対処したらよいか」を具体的に考えさせる活動が有効だと提案した。
【実践報告】 松戸市立馬橋小学校 佐和 伸明 教諭
シミュレーターを活用して「ICTメディアリテラシー」を高める
佐和教諭は報告の冒頭で、「現在の情報モラル教育は、ICTの影の部分を強調しがち。光と影の両面を教え、『ICTメディアリテラシー』を高めていく指導が求められている」と述べた。
ICTメディアリテラシーとは、ネットやICT機器の特性を理解したうえで、場面や目的に応じて適切に使いこなす力を指す。こうしたリテラシーを高めるうえでは、メディア活用を実際に体験しながら基礎的な操作能力を身につけさせ、その特性を考えさせる活動が効果的だ。
指導の一例として、総務省のICTメディアリテラシー教材「伸ばそう ICTメディアリテラシー」を活用した授業の概要を紹介した。同教材の「ブログシミュレーター」を使ってブログ作成を疑似体験する過程で、デジカメでの写真の撮り方や、わかりやすい文章の書き方、ネットを通じたコミュニケーションのあり方、個人情報の保護、著作権や肖像権の重要性などを学ぶというもので、作成したブログは保護者にも公開。こうした教育の必要性を家庭にもアピールすることができたという。
一方で教諭は、「たんに教材を子どもに与えるだけでなく、教師の授業設計に沿って活用することが重要」と強調。教材活用の観点として、実際のメディア利用やコミュニケーション体験を子どもの切実感や必然性につなげ、「一人ひとりが自分の問題として捉えられるよう導くこと」や、「子どもが考える場面を設定すること」を挙げた。
【教材紹介】 内田洋行教育総合研究所
ネットやケータイの活用を安全な環境で疑似体験
セミナーの締めくくりとして、佐和教諭も授業で活用した教材「伸ばそう ICTメディアリテラシー ~つながる!わかる!伝える!これがネットだ」の内容が紹介された。
この教材は、総務省受託事業として内田洋行教育総合研究所が制作したもので、冊子タイプの「テキスト教材」と、ネット上で使用する「インターネット補助教材」で構成されている。
テキスト教材の学習テーマは、「インターネットでの情報収集」「ブログでの情報発信」「ケータイ利用のルールとマナー」「インターネットを使う際の注意点」「メールでのコミュニケーション」の5つ。それぞれに対応するインターネット補助教材が用意されており、ブログシミュレーターのほか、迷惑メールのシミュレーターや、メールのやりとりによるけんかと仲直りを疑似体験できるコンテンツなどもある。
テキスト教材は全国の学校や教育センターなどに無償配布しているほか、ホームページからダウンロードして利用することもできる。インターネット補助教材も、必要な環境が整っていればどの学校でも自由に使用可能。モデル指導案や授業で使えるワークシートなども提供しているので、指導を計画中の学校はぜひチェックしてみてほしい。
□教材ホームページ http://www.soumu.go.jp/ict-media/
【特別講演】「教育行政と教育改革 ~地域の教育力の再生を考える~」
当セミナーは、慶應義塾大学政策・メディア研究科教授の金子郁容氏と、杉並区教育委員会教育長の井出隆安氏によるセッション。「地域の教育力の再生」をテーマに、杉並区の取り組み例などを紹介しつつ、自治体主導の教育改革のひとつの姿を提言した。「いい地域にはいい学校があり、いい学校を作ろうとする気持ちや活動が、いい地域を作る」という金子氏の言葉には、今後の教育行政の在り方が象徴される。
また、これまでさまざまなプロジェクトに深くかかわってきた“事情通”のお二人だけに、ここでしか聞けない裏話も時折飛び出し、現在、独自の施策を模索している地方教委や教員にとっては大いに参考となったに違いない。
「特別支援教育の新たな取り組み」
当セミナーは、文部科学省初等中等教育局特別支援教育課 特別支援教育調査官の丹羽登氏による「特別支援教育でのICT活用」と、公立学校スクールカウンセラーの鈴村眞理氏による「学校でできるソーシャルスキルトレーニング」、そして都立港特別支援学校教諭の川上康則氏による「特別支援教育コーディネーターの活動について」という3講演から構成された。
中でも、丹羽氏の「障害のある子どもの教育にこそ、ICT機器の有効活用を」との提言は、関連企業・担当者へのメッセージとなった。また、学びの場.com「教育つれづれ日誌」の執筆者でもある川上氏による、子どもたちのつまずきのサインの事例紹介には多くの来場者の注目が集まった。同氏の「特別支援教育はあらゆる教育課題に通じる土台である」との言葉は、まさにこれからの教育理念の提言といえよう。
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