2008.07.22
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New Education Expo2008 in東京 現地ルポ ~3つのテーマで、明日の教育の姿をイメージする~

New Education Expo 2008 in東京が6月5日~7日の3日間、東京・有明で開催され、新学習指導要領、ICT活用、高等教育の3つを核に、セミナーや事例発表、製品展示などがあり、来場した多くの教育関係者が意見交換を行った。現地ルポでは、筑波大附属小の公開授業と情報モラル教育を扱ったセミナーの模様をメインに、最新の教育向けICT機器を集めた展示ゾーンの概要などを紹介する。

New Education Expo2008 in東京 現地ルポ ~3つのテーマで、明日の教育の姿をイメージする~
 

「New Education Expo 2008 in東京」が6月5日~7日の3日間、東京・有明で開催された。今回の主要テーマは、いま学校現場でもっとも関心を集めている「新学習指導要領」、校務と授業での「ICT活用」、“全入時代”の到来で改革の動きが広がっている「高等教育」の3つ。それぞれ第一線の有識者による基調講演を核に、セミナーや事例発表、製品展示などがあり、来場した多くの教育関係者が意見交換を行った。
期間中の目玉のひとつが、筑波大学附属小学校の教師と児童による公開授業。「普通教室でのICT活用」を題材にした国語と算数の授業を見学しようと、特設会場には大勢の関係者が訪れた。またサイエンス教育関連では、「宇宙教育シンポジウム」(文部科学省)と「JST理数大好きシンポジウム」(科学技術振興機構)も同時開催され、来場者の注目を集めていた。
今回の現地ルポでは、筑波大附属小の公開授業と情報モラル教育を扱ったセミナーの模様をメインに、最新の教育向けICT機器を集めた展示ゾーンの概要などを紹介する。

 

公開授業

「普通教室でのICTを活用した小学校国語・算数」

ICTを「学び合い」のツールにするための授業アイデア

筑波大学附属小学校 桂 聖 教諭
【6年生国語科】 筑波大学附属小学校 桂 聖 教諭
フリートークで文学を読む ~デジタル教科書を活用して~

 公開授業の1コマめは、桂教諭による国語の指導。「海の命」(作:立松和平、絵:伊藤英子)の最終盤の場面を取り上げ、挿絵と文章の関係について意見を出し合いながら読みを深めていくという、PISA型読解力も視野に入れた内容だった。

 まず、デジタル教科書を使って4枚の挿絵をスクリーンに拡大提示。続いて、挿絵の部分を隠した教科書本文を示し、文中のどの部分にどの挿絵が入るのか考えさせた。

公開授業

 子どもたちは文章と挿絵それぞれの「視点」に着目。「この絵が主人公・太一なら、他者から見た太一の姿ということになるが、文章は他者の視点で書かれていない」など、根拠となる本文の記述と合わせて、各自の考えを自由に発表していった。教諭は、フリートーク形式で進む発表の内容を所々で整理し、ポイントとなる記述にはデジタル教科書上でマーキングするなどして意見の共有化を図っていた。

 桂教諭は物語文の指導のポイントとして、文学を楽しむための「読みの技術」(作品の設定、視点、表現技法、中心人物の変化、主題を読み取る力)を身につけさせることを挙げる。今回の公開授業で活用したデジタル教科書は、全員で同じ画面を見ながら考えたり話し合ったりできるため「課題の焦点化」や「知識の共有化」がしやすく、「読みの技術」を身につけさせるうえでも有効なツールではないかと提案している。

筑波大学附属小学校 夏坂 哲志 教諭
【2年生算数科】 筑波大学附属小学校 夏坂 哲志 教諭
図形への感覚を豊かにする ~「スクールプレゼンターEX」を活用して~

 「図形への感覚」とは、図形を認め、豊かな図形の概念を持ち、図形の美しさを感じ、図形をうまく利用できる力のこと。単元「三角形と四角形」の中盤にあたる今回の公開授業では、図形をつくったり、切ったり、色を塗ったりする作業が手軽にできるプレゼンテーションソフトを活用し、楽しみながら三角形と四角形の関係を学んだ。

 まず教諭は、スクールプレゼンターで「ながしかく」(長方形)を提示し、「この四角をハサミで1回切るとどうなるかな?」と投げかけた。子どもたちからは、「ふたつに分かれる」「パズルになる」「三角と四角ができる」といった意見が出た。ここでは子どもに実際にソフトを操作させ、三角形と四角形ができることを全員で確認した。

公開授業

 この様子を見た子どもたちからは、「四角がふたつできる」「三角と三角にもなるよ」などさまざまな声が上がった。教諭は、スクリーンに提示した四角形と同じものを印刷したワークシートを配り、ほかにどんな切り方ができるか考え、定規で線を引くよう指示。その後、「三角形と三角形」や「三角形と五角形」に分けた子どもなど数名を指名し、スクールプレゼンターを使って発表させた。

 同単元ではこのあと、公開授業での課題を発展させて、長方形を2本の直線で分ける活動を行い、切り分けたものを元に戻すパズル遊びを通じて「図形への感覚」を育てるという。
 

セミナー

「はじめよう!情報モラル教育 ~子どもたちにネット・ケータイどうやって教えますか?~」

ICTを「学び合い」のツールにするための授業アイデア

【講演】 滋賀大学教育学部 宮田 仁 教授
「伝えあう心の教育・情報安全教育」の必要性

 宮田教授は講演の冒頭、「ケータイやネットは、ナイフやフォークと同じ道具。適切に使えばコミュニケーションや学習を深める便利なツールだが、使い方を誤ると人の心を傷つけてしまう」と指摘。子どもでも簡単に情報発信できるネットワーク社会においては、「子どもが被害者にならないだけでなく、知らないうちに加害者にならないためにも、情報安全教育が必要」と問題提起した。

滋賀大学教育学部 宮田 仁 教授

 現在、中学校の技術・家庭科では「ソフトウェアの違法コピーの禁止(著作権の尊重と保護)」と「個人情報の保護」を扱っているが、こうした範疇では情報安全教育には対応できない。「ネット社会の落とし穴には、被害者にも加害者にもなるリスクが潜んでいることを、子どもにもきちんと伝える必要がある」と宮本教授。

 子どもが関わりやすいネット社会の危険としては、掲示板での誹謗中傷やなりすまし、学校裏サイトなどでのいじめ、個人情報の流出につながる「プロフ」などがある。また、ケータイのゲームサイトなどに熱中するあまり、「現実世界の自分=仮の私、サイト上の自分=本当の私と考えるなど、リアルとバーチャルの区分があいまいになっている子どももいる」という。

 宮田氏は、こうしたネット社会のリスクを子どもに理解させ、実践的な態度を養うことが情報安全教育の課題とし、ケータイやネットを疑似体験できるコンテンツなどを活用して、「自分がどのように判断したか」「どのように対処したらよいか」を具体的に考えさせる活動が有効だと提案した。

【実践報告】 松戸市立馬橋小学校 佐和 伸明 教諭
シミュレーターを活用して「ICTメディアリテラシー」を高める

 佐和教諭は報告の冒頭で、「現在の情報モラル教育は、ICTの影の部分を強調しがち。光と影の両面を教え、『ICTメディアリテラシー』を高めていく指導が求められている」と述べた。

松戸市立馬橋小学校 佐和 伸明 教諭

 ICTメディアリテラシーとは、ネットやICT機器の特性を理解したうえで、場面や目的に応じて適切に使いこなす力を指す。こうしたリテラシーを高めるうえでは、メディア活用を実際に体験しながら基礎的な操作能力を身につけさせ、その特性を考えさせる活動が効果的だ。

 指導の一例として、総務省のICTメディアリテラシー教材「伸ばそう ICTメディアリテラシー」を活用した授業の概要を紹介した。同教材の「ブログシミュレーター」を使ってブログ作成を疑似体験する過程で、デジカメでの写真の撮り方や、わかりやすい文章の書き方、ネットを通じたコミュニケーションのあり方、個人情報の保護、著作権や肖像権の重要性などを学ぶというもので、作成したブログは保護者にも公開。こうした教育の必要性を家庭にもアピールすることができたという。

 一方で教諭は、「たんに教材を子どもに与えるだけでなく、教師の授業設計に沿って活用することが重要」と強調。教材活用の観点として、実際のメディア利用やコミュニケーション体験を子どもの切実感や必然性につなげ、「一人ひとりが自分の問題として捉えられるよう導くこと」や、「子どもが考える場面を設定すること」を挙げた。

【教材紹介】 内田洋行教育総合研究所
ネットやケータイの活用を安全な環境で疑似体験

 セミナーの締めくくりとして、佐和教諭も授業で活用した教材「伸ばそう ICTメディアリテラシー ~つながる!わかる!伝える!これがネットだ」の内容が紹介された。

 この教材は、総務省受託事業として内田洋行教育総合研究所が制作したもので、冊子タイプの「テキスト教材」と、ネット上で使用する「インターネット補助教材」で構成されている。

内田洋行教育総合研究所

 テキスト教材の学習テーマは、「インターネットでの情報収集」「ブログでの情報発信」「ケータイ利用のルールとマナー」「インターネットを使う際の注意点」「メールでのコミュニケーション」の5つ。それぞれに対応するインターネット補助教材が用意されており、ブログシミュレーターのほか、迷惑メールのシミュレーターや、メールのやりとりによるけんかと仲直りを疑似体験できるコンテンツなどもある。

 テキスト教材は全国の学校や教育センターなどに無償配布しているほか、ホームページからダウンロードして利用することもできる。インターネット補助教材も、必要な環境が整っていればどの学校でも自由に使用可能。モデル指導案や授業で使えるワークシートなども提供しているので、指導を計画中の学校はぜひチェックしてみてほしい。

□教材ホームページ http://www.soumu.go.jp/ict-media/

【特別講演】「教育行政と教育改革 ~地域の教育力の再生を考える~」
金子郁容氏と井出隆安氏

 当セミナーは、慶應義塾大学政策・メディア研究科教授の金子郁容氏と、杉並区教育委員会教育長の井出隆安氏によるセッション。「地域の教育力の再生」をテーマに、杉並区の取り組み例などを紹介しつつ、自治体主導の教育改革のひとつの姿を提言した。「いい地域にはいい学校があり、いい学校を作ろうとする気持ちや活動が、いい地域を作る」という金子氏の言葉には、今後の教育行政の在り方が象徴される。

 また、これまでさまざまなプロジェクトに深くかかわってきた“事情通”のお二人だけに、ここでしか聞けない裏話も時折飛び出し、現在、独自の施策を模索している地方教委や教員にとっては大いに参考となったに違いない。

「特別支援教育の新たな取り組み」
右から丹羽登氏 鈴村眞理氏 川上康則氏

 当セミナーは、文部科学省初等中等教育局特別支援教育課 特別支援教育調査官の丹羽登氏による「特別支援教育でのICT活用」と、公立学校スクールカウンセラーの鈴村眞理氏による「学校でできるソーシャルスキルトレーニング」、そして都立港特別支援学校教諭の川上康則氏による「特別支援教育コーディネーターの活動について」という3講演から構成された。

川上康則氏

 中でも、丹羽氏の「障害のある子どもの教育にこそ、ICT機器の有効活用を」との提言は、関連企業・担当者へのメッセージとなった。また、学びの場.com「教育つれづれ日誌」の執筆者でもある川上氏による、子どもたちのつまずきのサインの事例紹介には多くの来場者の注目が集まった。同氏の「特別支援教育はあらゆる教育課題に通じる土台である」との言葉は、まさにこれからの教育理念の提言といえよう。



展示ゾーン

ICTを活用した新しい学校と授業づくりを提案

 多くの協賛企業が参加した展示ゾーンのなかでも、特に注目度の高かったICT関連のブース。新しい学習環境と授業づくりの可能性を感じさせる、最新の機器やシステムを紹介する。

【普通教室】
 
~学びのかたちに対応する学習空間~
普通教室

 電源やLANなどのケーブル類を収めたフレームやe-黒板、天吊り型プロジェクター、教師用収納スペース、移動式ホワイトボードなどを組み合わせた学習空間システム「スマートインフィル」を展示。一斉授業やグループ学習など授業スタイルの変化に柔軟に対応する教室づくりが関心を集めていた。

【職員室】
 
~1人1台PCを活用した校務の情報化~
職員室

 情報セキュリティ関連機器、情報共有の基盤となるグループウェア、地域への情報発信に便利な学校向けCMSなど、教員用PCを活用した仕事空間と校務の流れを提案したブース。教員研修や授業改善に役立つフィードバックシステムなど、ICT活用の新たな方向性も示した。



【ICカードゾーン】
 ~大学のICT化を実現する最新システム~
ICカードゾーン

 学生証をICカード化し、さまざまな端末と組み合わせることにより、出欠管理や証明書発行といった事務作業の効率化や、セキュリティの強化を図ることができる。今回展示していた非接触型ICカードは、従来の磁気カードに比べて読み取りスピードが速く、端末機器のメンテナンス性が高いことが利点だという。

【EduMall】
 
~コンテンツ活用を手軽にする配信サービス~
EduMall

 地域イントラや校内LANなどのネットワーク環境を活用し、教育用Webコンテンツを学校に配信するサービス。登録コンテンツから使いたいものを選んで年間契約するしくみで、従来の買い取り方式に比べ安価で利用できる。現在、運営する内田洋行をはじめ25社・700タイトル以上を配信中で、今後も拡充していく予定だ。


【内田洋行教育総合研究所[UERIC]】
 
~現場のニーズに応える情報・教材を提供~
内田洋行教育総合研究所[UERIC]

 内田洋行のこれからの教育関連事業をリードするため、New Education Expoをはじめとするイベントの企画運営や、教育に関する調査研究、学びの場.comでのコミュニティづくりなど幅広い活動を展開している。情報モラルセミナーで紹介した教材「伸ばそうICTメディアリテラシー」のデモもあり、ブースには多くの来場者が集まった。

 

写真:言美歩/取材・文:栗林俊晴 ※写真の無断使用を禁じます。

【関連資料】

New Education Expo2008 in 東京基調講演録

「世界における日本の高等教育~日本における高等教育の今後の方向~」
東京国立博物館館長
元文部事務次官
佐藤 禎一氏

「日本の教育の進路~学習指導要領の改訂をめぐって~」
兵庫教育大学学長
文部科学省 中央教育審議会副会長
梶田 叡一氏

「学力とICT~新学習指導要領におけるICT活用~」
独立行政法人メディア教育開発センター理事長
清水 康敬氏

PDFファイルのダウンロード NEE2008基調講演録


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