2019.05.27
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意外と知らない"特別支援教育"(1) ~その歴史や対象者数、就学先決定の仕組み~

近年、特別支援学校や特別支援学級に在籍している幼児児童生徒が増加する傾向にあり、公立特別支援学校における教室不足(2016年10月1日現在、全国で3430教室が不足している)も話題になりました。第1回では、特別支援教育の変遷や対象者数、就学先決定の仕組みを紹介します。

特別支援教育とは、「障害のある幼児児童生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するという視点に立ち、幼児児童生徒一人一人の教育的ニーズを把握し、その持てる力を高め、生活や学習上の困難を改善又は克服するため、適切な指導及び必要な支援を行うもの」です。 2007年4月から、「特別支援教育」が学校教育法に位置づけられ、特別支援学校に限らず、すべての学校において、障害のある幼児児童生徒の支援をさらに充実していくこととなりました。

■日本における特別支援教育の始まり

江戸時代の寺子屋には、盲児、聾唖児、肢体不自由児、知的障害児等の障害児がかなり在籍していたことが報告されていますが、重度・重複の障害者も義務教育の対象となり、入学を許可されるようになったのは1979年のことです。
1878 年に、寺子屋・小学校教師の古河太四郎が京都市上京区に設立した盲唖院が、日本における特別支援学校の始まりと考えられています。日本語の点字も、手話も、指文字もなかった時代に、自身で教材・教育法を開発して指導にあたり、生徒数は150名近くまで増えますが、寄付金不足で経営難に陥り、京都市に移管されます。1880年に、イギリス人医師・宣教師のヘンリー・フォールズの呼びかけで東京築地にも訓盲院(のちに訓盲唖院)が設立されますが、こちらも経営難に陥り、文部省に移管されました。その後、次第に全国で盲唖院が作られていき、1923年になって、全国に盲・聾学校の設置が義務化されます。このとき、盲学校と聾学校は分けられることになりました。
また、1891 年に敬虔なクリスチャンであった石井亮一が東京下谷西黒門町に濃尾地震のために孤児となった少女20人余りを引き取り「孤女学院」を設立しました。この中に知的障害児がいたことから、知的障害児の教育に目覚めていきます。1896年には障害児教育の研究のために、先進国であったアメリカに渡ります。7か月の研修旅行後に帰国し、名称を「滝乃川学園」に改め、知的障害児のための「特殊教育部」を設け、日本初の知的障害者施設をスタートさせました。
1909 年に渋沢栄一が千葉県船形町に設立した養育院安房分院は、身体虚弱・病弱児のための最初の教育施設でした。また、1921 年に体操教師であった柏倉松蔵が東京市小石川区大塚仲町に「柏学園」を設立し、日本の肢体不自由教育の始まりとなりました。
1941年に、身体虚弱、知的障害その他心身に障害のある児童で特別の養護の必要が認められる者のために学級又は学校を編成することができるようになり、それらの施設は養護学校または養護学級と呼ばれるようになりましたが、戦局の悪化により実質的な運用には至りませんでした。

■戦後の特別支援教育

1947 年になると、盲学校・聾学校への就学が義務化され、養護学校が制度化されました。1946年に渋谷区立大和田小学校内に、また1947年に文部省教育研修所の一隅に品川区立大崎中学校分教場として、知的障害の特殊学級が設置されます。その後、品川区立大崎中学校分教場は1950年(1957年という資料もありました)に最初の公立知的障害養護学校「東京都立青鳥養護学校」となります。また、1956年に医療施設に併設しない最初の公立肢体不自由養護学校として大阪府立堺養護学校が設立されます。30 年の間に様々な障害に対応する学校が開校しましたが、重度の障害者に対しては就学免除・就学猶予の措置が執られ、ほとんどの場合就学が許可されませんでした。
1979 年に、養護学校が義務化され、同時に訪問教育が制度化されました。このとき自閉症が情緒障害として位置づけられ、特殊教育の対象となりました。
また、1993 年に、通級による指導が制度化され、1960年代後半頃から小学校に設置されていた言語障害特殊学級「ことばの教室」や、難聴特殊学級「きこえの教室」なども正式なものになり、特別支援教育の状況改善に大切な役割を果たしました。

■特別支援教育への転換

2001 年文部科学省によって、これまでの「特殊教育」という言い方に代えて、「特別支援教育」という呼称が採用され、2007 年より正式に特別支援教育が実施されることとなりました。障害による学習上又は生活上の困難を克服し自立を図るために必要な知識技能を授ける領域も「養護・訓練」から「自立活動」に名称を改めています。知的な遅れのない発達障害も含めた対象の拡大が行われ、通常の学級に在籍する学習障害又は注意欠陥多動性障害の児童生徒を、その障害の状態に応じて「通級による指導」の対象とすることができることになりました。また、盲・聾・養護学校は「特別支援学校」に一本化され、少子化に伴って統合される動きもあります。
2002年には医学や科学技術の進歩等を踏まえて、特別支援学校に就学すべき障害の程度(就学基準)も弾力性のあるものに変更され、同時に「小中学校の施設設備も整っている等の特別の事情がある場合」、つまり通常の小中学校で受け入れ態勢が整っている場合には、例外的に「認定就学者」として、特別支援学校ではなく通常の小中学校へ就学することが可能になりました。

学校教育法施行令第22条の3 改正の内容(抜粋)

改正前改正後
視覚障害 矯正視力0.1未満 両眼の視力がおおむね0.3未満又は視力以外の視機能障害が高度で、拡大鏡等を使用しても文字等を認識することが不可能又は著しく困難
聴覚障害 両耳の聴力レベルが100デシベル以上(大きな音もほとんど聞こえない・100デシベルは電車が通るときのガードの下の音くらい) 両耳の聴力レベルがおおむね60デシベル以上(大きな声は聞こえる人を含む)で、補聴器等を使用しても通常の話声を理解することが不可能又は著しく困難
知的障害 知的発達の遅滞の程度が中度以上 知的発達の遅滞があり、意志疎通が困難で日常生活を営むのに頻繁に援助を必要とする、その程度に至らないが、社会生活への適応が著しく困難
肢体不自由 体幹の機能の障害が体幹を支持することが不可能又は困難
上肢の機能の障害が筆記をすることが不可能又は困難
下肢の機能の障害が歩行をすることが不可能又は困難
補装具を使用によっても歩行、筆記等日常生活における基本的な動作が不可能又は困難
病弱 6月以上医療又は生活規制を必要とする程度 継続して医療又は生活規制を必要とする
文部科学省においては、今後の我が国の特別支援教育について、中央教育審議会初等中等教育分科会において審議が進められ、2012年7月に「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システムの構築のための特別支援教育の推進」の中で「就学基準に該当する障害のある子どもは特別支援学校に原則就学するという従来の就学先決定の仕組みを改め、障害の状況、本人の教育的ニーズ、本人・保護者の意見、教育学、医学、心理学等専門的見地からの意見、学校や地域の状況等を踏まえた総合的な観点から就学先を決定する仕組みとすることが適当である」と提言されました。これを踏まえて、2013年9月に就学の仕組みが改められ、障害のある児童生徒の就学先の決定については、市町村の教育委員会は、共生社会に向けたインクルーシブ教育システムの構築の理念のもと、早期から保護者等へ十分な情報提供を行い、個別の教育支援計画の作成・活用を通じて、「教育支援委員会」において十分な検討を行い、その結果をもとに、障害の程度が就学基準に該当するかどうかに加えて、必要な教育的ニーズ、保護者や専門家の意見、就学先の学校における教育や支援の内容等を総合的に判断して慎重に決定していくことになりました。
従来の就学先決定の仕組み
現在の就学先決定の仕組み

■特別支援教育の対象者数

2017年5月1日時点のデータによると、特別支援学校に通っている小中学生が全体の0.7%(約7万2千人)、特別支援学級に在籍している小中学生が2.4%(約23万6千人)、通級による指導を受けている小中学生が1.1%(約10万9千人)で、合わせて4.2%(約41万7千人)が特別支援教育の対象者となっています。2008年のデータでは2.13%(約23万人)ですので、増加傾向にあることが分かります。
特別支援学校は、障害の程度が比較的重い子どもを対象として教育を行う学校で、公立特別支援学校(小・中学部)の1学級の上限は6人(重複障害の場合3人)です。視覚障害、聴覚障害、知的障害、肢体不自由、病弱(身体虚弱を含む)を対象としています。
特別支援学級は、小・中学校に障害の種別ごとに置かれる少人数の学級(上限は8人)で、知的障害、肢体不自由、病弱・身体虚弱、弱視、難聴、言語障害、自閉症・情緒障害の学級があります。
また、通級による指導は、小・中学校の通常の学級に在籍し、言語障害、自閉症、情緒障害、弱視、難聴、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)などのある児童生徒を対象として、ほとんどの授業(主として各教科などの指導)を通常の学級で行いながら、週に1単位時間~8単位時間程度(LD、ADHDは月1単位時間〜)、障害に基づく種々の困難の改善・克服に必要な特別の指導を特別の場で行う教育形態です。


特別支援学校(幼稚部・小学部・中学部・高等部)に在学する幼児児童生徒数―国・公・私立計―(2015年)

区分学校数(校)在籍幼児児童生徒数(人)
幼稚部小学部中学部高等部
視覚障害 83 5,716 215 1,767 1,229 2,505
聴覚障害 118 8,625 1,174 3,139 1,943 2,369
知的障害 745 124,146 218 34,737 27,987 61,204
肢体不自由 345 32,089 132 13,541 8,316 10,100
病弱 145 20,050 32 7,490 5,604 6,924
総計 1,114 137,894 1,499 38,845 31,088 66,462
※複数の障害種を対象としている学校、また、複数の障害を併せ有する幼児児童生徒については、それぞれの障害種ごとに重複してカウントしている。よって、それぞれの障害種別の合計は「総計」と一致しない。
小・中学校における特別支援学級に在籍する児童生徒数―国・公・私立計―(2015年)

区分在籍幼児児童生徒数(人)
小学部中学部
知的障害 66,720
(47.8%)
33,495
(54.1%)
100,215
(49.7%)
肢体不自由 3,286
(2.4%)
1,086
(1.8%)
4,372
(2.2%)
病弱・身体虚弱 2,112
(1.5%)
918
(1.5%)
3,030
(1.5%)
弱視 407
(0.3%)
103
(0.2%)
510
(0.3%)
難聴 1,075
(0.8%)
443
(0.7%)
1,518
(0.8%)
言語障害 1,541
(1.1%)
150
(0.2%)
1,691
(0.8%)
自閉症・情緒障害 64,385
(46.1%)
25,772
(41.6%)
90,157
(44.7%)
総計 139,526 61,967 201,493
小・中学校における通級による指導を受けている児童生徒数―公立―(2015年)

区分在籍幼児児童生徒数(人)
小学部中学部
言語障害 35,337
(39.1%)
34,908 429
自閉症 14,189
(15.7%)
12,067 2,122
情緒障害 10,620
(11.8%)
8,863 1,757
弱視 161
(0.2%)
139 22
難聴 2,080
(2.3%)
1,691 389
学習障害(LD) 13,188
(14.6%)
10,474 2,714
注意欠陥多動性障害(ADHD) 14,609
(16.2%)
12,554 2,055
肢体不自由 68
0.08%)
61 7
病弱・身体虚弱 18
(0.02%)
11 7
90,270
(100.0%)
80,768
(89.5%)
9,502
(10.5%)
※自校通級・他校通級・巡回指導のうち複数の方法で指導を受けている児童生徒は、該当するもの全てカウントしている。

■まとめ

特別支援教育の対象となっている障害のある児童生徒は25人に1人くらいいます。障害者・その家族への理解と支援は、以前に比べれば進んでいますが、まだまだ十分ではありません。第2回では、特別支援学校が対象とする視覚障害、聴覚障害、知的障害、肢体不自由、病弱について紹介します。

構成・文:内田洋行教育総合研究所 研究員 江本真理子

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