2012.07.24
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子どもたちの意欲を自然と引き出す「辞書引き学習」(vol.1) 語彙を増やし、調べ学習のベースにも ― さいたま市立東宮下小学校・菊池健一 教諭 ― 前編

さいたま市立東宮下小学校の研究主任、菊池健一教諭は昨年から、深谷圭助・中部大学准教授に直接学んだ「辞書引き学習」を実践している。今年度からはNIE(教育に新聞を)と食育を学校の研究テーマとする中で、全教員で取り組むことにもなったという。辞書引き学習の何が子どもたちを引きつけるのか。まずは授業をリポートする。

授業を拝見!

新出漢字の熟語を考え、辞書を引いて確認する

学年・教科:4年生 国語(児童29人)
単元:(全時間)前半=チャレンジ国語、後半=新出漢字の学習
本時の学習: 辞書引きゲーム、新出漢字の学習と熟語の辞書引き
ねらい: (1)辞書を引いて語彙を増やす。(2)新出漢字の読みと書き順を覚えるとともに、熟語を考えて出し合い、辞書を引いて意味を確認する。
指導者: 菊池健一 教諭(学級担任)
使用教材・教具: 国語辞典、辞書引き用付箋、漢字ドリル、デジタル教科書、大型ディスプレイ

“目に見える”学習成果

「見て見て、200枚貼ったんだよ」
「私は624枚貼ったよ。(付箋が)増えるとうれしい」
授業前の休み時間、子どもたちが次々と寄ってきて、こう教えてくれた。普段は毎週木曜日の朝に実施している「チャレンジ国語」の辞書引き学習を、今日は学校課題研修ということで特別に6校時の国語の前半で行うことになっている。子どもたちにも楽しみな活動だ。既に辞書に貼るための付箋に番号を振って(引いた言葉の通算数を付箋に書き入れるルール)、机や下敷きに貼っておき、準備万端という子も少なくない。

「まずは、知っている言葉を引いていきましょう。どんどん(引いた言葉に貼る)付箋を増やしていこうね」
と授業の冒頭、菊池教諭が笑顔で呼び掛ける。辞書引き学習を始めて約1か月だが、貼った付箋の枚数が1000枚を超えた子が4人もいた。中には「もうすぐ2000(枚)行く」という子も。大半は500枚を超えている。たくさん辞書を引いた結果が、貼った付箋の枚数と辞書の厚さで“目に見える”のが辞書引き学習の利点だ。
「いいペースだと思います」
という菊池教諭が片手で持つ辞書も、2000枚以上の付箋で膨らんでいる。

引いた言葉から関心を広げる

国語辞典の好きなページを開き、その中から知っている言葉を探す。みつけたら、そこに通し番号と調べた言葉を書いた付箋を貼る――。辞書引き学習の基本はこれだけだ。
「もし面白い言葉、新しい発見があったら先生に教えてください」
と菊池教諭が呼び掛けて、辞書引きが始まる。すぐに
「先生! 先生!」
と、クラスのあちこちから手が挙がる。調べた言葉を教えたくてたまらないようだ。菊池教諭が辞書に掲載された「伝平清盛像」の項目にある仏像写真を指さしながら
「先生、これ見たことあるよ」
などと応じると、児童も目を丸くする。サイホンの仕組みを解説した図を見て
「これなら家でもできる」
とつぶやく子も。
「いま○○さんが『おやじ』って引いたら、(対語に)『おふくろ』って載っていたよ。『おふくろ』って引いてごらん」
と教諭。子どもたちの関心がどんどん広がっていく。

続いて、しりとりによる早引きゲーム。
「一つ目は先生が言います。じゃあ、教育実習生の○○先生がいますから、『実習』!」

すると、みな競争して辞書を引き、見つけると
「はい! はい!」
と挙手。指名された子が辞書に書かれている説明を発表する。実は、子どもたちが持ってくる辞書に指定はなく、みな別々のものを持ってきている。当然、説明の文章も違う。菊池教諭は複数の子どもたちを指名し、それぞれの辞書の説明を発表させる。それらを比較することで理解が深まり、また言葉の説明にはさまざまな仕方があることも自然に分かる。
「では、次は『じっしゅう』の『う』。『う』のつく言葉は?」
と教諭が尋ねるや否や、
「うなぎ!」
の声が。お題が出されるたびに、教室にバサバサと辞書をめくる音が響く。時間があっと言う間に過ぎ、菊池教諭の
「じゃあラスト」
の声に
「えー、もっとやりたーい!」
子どもたちのこうした声の中、新しい発見があったことを発表し合って、授業の前半は終わった。

同音異義語、対語へと発展

後半は新出漢字の学習だ。まずドリルに出てきたのは「成」。漢字の音読みと訓読みを考えて意味を確認し、電子黒板を見ながら書き順の学習。画数と部首も確認し、菊池教諭が板書していく。各自ドリルで実際に書く練習をした後、
「では、(『成』を使った)どんな熟語がありますか?」
との菊池教諭の問い掛けに、
「成人」
「作成」
「成果」
など、子どもたちから次々に答えが出てくる。
次の漢字は「功」。二つ合わせて「成功」となる仕掛けだ。「成」と同様に一通りの学習をした後、
「では、熟語の意味を辞書で引いてみましょう。最初は『成功』から」
と教諭が呼び掛けた途端、子どもたちは一斉に机の中から辞書を取り出し、バサバサと調べ始める。

「先生、(同音異義語が)たくさんあるよ」
との声に菊池教諭は
「今、大事なことを言ってくれたね。それも一緒に勉強したらいいよ」。
他の言葉にも子どもたちの興味がどんどん広がっていくのが、辞書引き学習のいいところだ。
幾つかの言葉について発表し合った後、菊池教諭は
「できれば(調べた項目の)近くにある言葉も一緒に見ていきましょう。じゃあ、また木曜日に」
と呼び掛けて、授業を締めくくった。

記者の目

菊池教諭は授業中、笑顔を絶やさない。子どもに接する時には、常に意識しているのだという。注意する時だけ一瞬、厳しい表情になるが、すぐまた笑顔に戻る。子どもたちに菊池教諭をどう思うか尋ねても、「やさしくて好き。でも、怒るところはちゃんと怒ってくれる」。文部科学省やさいたま市の優秀教員として表彰されるほどの指導力の一端を垣間見た思いがした。

取材・文:渡辺敦司/写真:言美歩

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