2002.06.18
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次の時代を担う子どもたちのために、情報教育はどうあるべきか 慶應義塾幼稚舎 鈴木二正先生

早くから校内の情報化に着手し、平成10年から「情報」を授業として採り入れている慶應義塾幼稚舎。まったくゼロからのスタートで、短期間のうちに、1人1台以上のパソコン、高速な校内ネットワークの構築に成功したのは、情報課担当の若き先生たちの功績によるところが大きい。  今回は、慶應義塾幼稚舎の情報化の中心となった先生のひとり、鈴木二正先生にお話をうかがった。


■コンピュータなんて大したことない

「子どもたちには、今世の中にある最先端の技術に触れて欲しい」
と語るのは、慶應義塾幼稚舎で1年生から6年生の「情報」の授業を担当する鈴木二正先生。慶應義塾大学SFC修士課程を終え、平成10年に同校に採用されて以来、学校の情報化や、授業への情報学習の導入を、推進してきた。

「なんだ、最先端でもこんなものか、コンピュータって不便だな、くらいに思う子どもたちであって欲しい。じゃ、もっといいものを自分で作ってみよう、そう思ってくれればしめたものです」

■情報化成功の秘訣は「誰でも簡単に操作できる」環境づくり

 もとは教員用の図書館だったスペースを改造したというコンピュータ教室の正面には、大型のスクリーンが鎮座しており、生徒用の、黄色と紫のモダンなデザインの稼動式テーブルの上には、最新のノートパソコンが据えられている。もちろん生徒ひとり1台パソコンだ。

 コンピュータ教室だけでなく、すべての一般教室には、黒板と並んで大型のプラズマディスプレイがあり、日々の授業で使われるほか、時間割りや行事予定の表示、校内放送に使われたり、休み時間にはWebサイトが写し出さたり「常に何かの画像が流れている状態」だという。さらに、各教室には、パソコン、ビデオデッキ、書画カメラがコンパクトに収められたキャビネットが設置され、いつでも使える状態になっている。しかも、どれもボタン一つ押せば作動できるように、初期設定をすませているという。

「学校の情報化の成功の秘けつは、どの先生でも簡単にデジタル機器が操作できるような環境を、情報担当者があらかじめ作っておくことだと思うんです。パソコンも、最大3クリック以内でやりたい作業ができるように設定するよう心掛けています」

 サーバー管理やパソコンのメンテナンスまですべて自前でこなすことをポリシーにしている鈴木先生。先生がたが、デジタル機器の使用に伴うトラブルに煩わされず、教材研究や授業作りにのみ集中できるのが理想の環境という。

■お金がないからできない、は言い訳

 このように、慶應義塾幼稚舎は、ハード面、サポート面ともに、かなり恵まれた情報環境にあると言えるだろう。しかし、この環境を維持していくのは、予算的にどうなのだろうか。鈴木先生の言う「常に先端の機器を導入」し続けることは理想ではあるが現実的に可能なのだろうか。

「お金がないからできない、というのは言い訳だと思うんですよ。今IT関連では、国や企業から助成金の出る、研究助成金や実験プロジェクトの公募は探せばかなりあるんです。常にそういう情報に対してアンテナを張って、チャンスがあれば、すぐ企画書をだせるようにいつも用意しておくべきです」

 現に、慶應義塾幼稚舎の情報化が実現したのも、平成10年に応募した企画書が、「私立高等学校等マルチメディア教育環境モデル事業」として採用され、3年間連続して助成金を獲得できたのが大きいという。伝統の中にも、起業家精神を感じさせられる行動力がこの学校にはある。

 そもそも、鈴木先生が慶應義塾幼稚舎の情報化に携わるようになったきっかけは、学生時代に教育実習で同校を訪れた際の、当時の舎長(校長)中川真弥氏との出会いに端を発する。中川氏が繰り返し言った「これからは情報教育が大切」という言葉がいつまでも耳に残った。

 以来、在学中からボランティアで幼稚舎にインターネットのサーバ構築や校内LANの構築を手伝うほか、修士論文では「情報教育」をテーマとし、幼稚舎で研究授業を行う許可を得たのが平成9年。研究に必要となる数十台のパソコンは、「教育目的に使用するから」とリース会社に掛け合い、格安で提供してもらった。

 平成10年に卒業後、慶應義塾幼稚舎に勤務。同時に幼稚舎の「情報」の授業が実験的にスタート。校内のネットワークも「拡張につぐ拡張」を繰り返し、現在では、すべての一般教室と、図書館、体育館などの特別教室がつながっている。また全ての専任教員はメールアカウントを持ち、パソコンもひとり1台を実現している。

 

■本当の答はコンピュータの先にある

 授業は1年生から6年生まで各学年週1回。1、2年生では、遊びを通じてコンピュータに慣れ親しむことを、3、4年生では基礎・リテラシーの習得、情報を取得・共有・交換して発表することを、5、6年生では情報の取捨選択、情報の整理、情報を自分に都合のよい形で加工し効果的に活用することなどを学ぶ。

 コンピュータ教室は、「ダイナミックに動く情報教室」を目指して、小振りの稼動式のテーブルを採用。実習の時間には、子どもたちは一人で作業に没頭したり、友だちのパソコンを取り囲んだり、自由に動きまわってかまわない。

「とにかく、楽しくやって欲しいことを大切にしているから、これは駄目とか、あれは駄目とかと口うるさく言わないことにしています。使うソフトも、自分が使ってみて本当に面白い、と思うものばかりを選んでいますから子どもたちも夢中になって、毎日あちこちでウォーとか、キャーとか、もう動物園のようですよ」と笑う。

「指導案もない、教科書もない、という状況で手探りの授業をやってきて、だんだん形が見えてきました。すごいな、と思うのは、3年前に6年生でやっていたことを今の4年生で、5年生でやっていたことを3年生でやってみたら、できちゃうんです。これから先、彼らがどうなっていくのか、怖いような楽しみのような。先を知りたいですね」

 あまり小さい時からバーチャルな世界に慣れ過ぎることによって、リアルな社会での人づきあいがうまくいかなかいなど、不適合を引き起こす心配はないのだろうか。

「むしろ心配なのは、不正や汚職まみれの大人たちのほう。子どもたちがこれから巣立っていく社会を形成している大人がしっかりするべきでは? 子どもたちにいつも言っているんです。コンピュータはうまく使ってやればスゴイ武器だ。でも、コンピュータでできることなんて大したことではないし、コンピュータの中にすべての答があるわけでもない。本当の答はその先にある、と。インターネットで調べる方がいいこともあるし、本で調べた方がいいこともある。パソコンで描くより手で描く方がいい場合もある。いろいろなものに触れて、本物の知識を見つけだして欲しいと思っています」


(取材・構成:学びの場.com)

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