2019.09.04
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選択する力、どうやって育てる?

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験をもとに、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。今回のテーマは「選択する力、どうやって育てる?」です。食事の好みから、進路の選択まで、人生は選択の連続でできていますから、子どもには、あらゆる環境や状況を考えて自分にあった道を選べる人になってほしいですね。

選択する力は性格ではなく、学ぶもの。

今日何をするのか、何を食べるのか、何を勉強したいのか、どの学校へ進学して、将来は何になりたいのか……人生というのは色々な選択をした結果でできています。今選択したことは、次の瞬間に影響してくることですから、賢い選択ができる子に育ってほしいですね。またそれは、生まれながらに持っている力ではなく、学ぶものです。教えなければ、養うことはできませんし、チャンスが与えられなければ、磨くことはできません。

選択する力がないと、その選択が間違っていた場合に自分ではなく、他人のせいにしがちです。反対に自分自身がよくできたと思っても、他人から褒められたり評価されなければ、不安な気持ちに陥ってしまう傾向もあるでしょう。大人がなんでも決めるのではなく、自分で決めて失敗し、少しずつ賢い選択ができるようになっていくことが、その後の人生においてとても大事ですね。

大人は子どもに、選択の“プロセス”を教えましょう。

賢い選択をするためには過去の経験や記憶、未来に対する想像力などを含めて選択の“基盤”が必要です。ただ「今日、何が食べたい?」と聞いても、それは何も入っていないクローゼットを開けて「今日、何が着たい?」と聞いているのと同じです。冷蔵庫に材料は何が入っていて、昨日は何を食べて、明日はどこかへ食事に行く予定がある……そういった自分と関連性のある情報を取り出す練習を繰り返すことで、賢い選択ができるようになります。こういった選択するまでの“プロセス”を大人は子どもに教えることで、選択の基盤が出来上がるのです。

私は子どもたちがアイスを買うときには、自分の食べたいものを選ばせるようにしました。そして、もし子どもがその味が好きでなかったとき、親が自分のものと交換してあげる光景をよく目にしますが、私は絶対にしません。「最後まで自分で食べなさい」と言います。そうすると次アイスを選ぶときには一生懸命考えるようになります。交換はしなくても、誰かのを一口だけもらってみたり、好きな味、好きではない味を覚えていくうちに、失敗しないようになります。

小さいことでも自分で痛みを味わい、責任から逃げないよう習慣づけることで、大人になって賢い選択ができようになるでしょう。「今日は残念だったけど、次こそは!」と責任感を持ってどうすればいいのかを考え、立ち直る姿勢も学びます。

教室の中では、一人ひとりに選択の機会を与える工夫を。

学校の教室の中で何かを決める場面では、多数決も一つの方法です。ですが、先生方もおわかりのように、あまり自分の意見を持たないままに手を挙げている子もいるでしょう。その場合には先生から、考えさせる質問を投げ、意見を言わない子に直接意見を述べさせることも有効だと思います。選択するということは、自分の中の決断があって、意見があって、初めてできること。意見を持たず手を挙げていては「選択した」とは言えません。

どうしてもクラスの中に影響力の大きな子がいると、その子の意見に流されがちになりますが、少数の意見を引き出すのは先生の腕の見せどころです。あらかじめ何か紙に意見を書かせて聞き出すのも手段の一つ。人前で自分の意見を述べることも訓練ですが、声を挙げられない子が「どうせ私の意見なんて必要ない」と思わないような環境づくりを心がけましょう。

自分の意見を持つ訓練の例としては、YesでもNoでも、どちらを選択しても“アリ”なことを議題にすると良いでしょう。「髪の毛は長いほうがいいのか、短いほうがいいのか」「コンタクトレンズがいいのか、メガネがいいのか」「コーヒーがいいのか、紅茶がいいのか」、言葉を交わして議論にしても、作文にしてもいいので自分の意見を考えさせることが大切です。小さい子であっても、その子の世界の中から色々な情報を取り出して、どちらかを選択する訓練をさせましょう。

自分の選択をするにしても、他のために何かを選択する場合であっても、そのプロセスは大きく変わりません。特に関わる人が増えれば増えるほど検討材料も上乗せされ、慎重になりすぎて、なかなか決断できないということもあるでしょう。そこで安全牌な選択しかできないことは、賢い選択と言えるでしょうか?賢い選択には意見を持つことに合わせて、挑戦する力や恐れない気持ちを持つことも大切な要素だということも忘れないでください。大人は子どもが意見を持ち挑戦できるチャンスをたくさん与えて、賢い選択による素晴らしい人生を応援しましょう。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

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