19th New Education Expo 2014 in 東京 現地ルポ(vol.3)
「New Education Expo 2014 in 東京」が6月5~7日の3日間、東京・有明の東京ファッションタウンビルで開催された。3回目の現地ルポでは、理科教育に関するセミナーと展示について紹介する。セミナーでは、安価な材料で手軽にできる実験の数々が実演され、子どもたちを科学の世界へ誘う方法と大切さが説かれた。展示では、ICTで進化し続ける最新の理科実験器具が来場者の目を集めていた。
科学探究心に火をつける、手作り実験と最先端のデジタル実験器具
科学的探究心を育む『理科読』
考え判断する子どもを育てる
東海大学教育研究所 特任教授
NPO法人ガリレオ工房 理事長……滝川 洋二 氏
福岡大学 理学部 教授……平松 信康 氏
100円ショップで揃えた材料で「光」の面白さを体感する実験
「理科読」という言葉をご存知だろうか。科学に関する本の読書を通して、子どもも大人も科学への理解を深めようという活動だ。「理科読」に賛同する教育関係者や研究者によって、今や全国各地で講演や実験教室が開かれ、草の根の理科教育として注目を集めている。
「理科読」では、読書だけでなく、身近な実験も体験させるのが特徴だ。今回のセミナーでは、まず東海大学教育研究所特任教授の滝川洋二氏が、100円ショップ等で購入した安価な材料を使った数々の実験例を披露してくれた。
最初に行われたのは、光を分解してスペクトルを作る実験だ。光の分解には通常、高価なプリズムが用いられるが、滝川氏はプリズムの代わりに、100円ショップで購入した透明なプラスチック容器に水を張って代用してみせた。この容器をプロジェクターのライトの前に置くと、赤緑青の鮮やかなスペクトルがホワイトスクリーンに映し出され、参加者から歓声が上がった。
では、この光が分解されてできたスペクトルを、また一つに束ねるとどうなるか。今度もまた100円ショップで購入した板状の薄い鏡を曲げて容器の後ろに置くと、あら不思議。スペクトルが集まって、元の白い光に戻った。
続いて、3台のプロジェクターを使い、それぞれ赤緑青の光を投影させ一つに重ねると、先程同様3色が重なった部分が白く光った。
「テレビもこれと同じ原理。赤緑青の3色で、様々な色を表現しています。人間の網膜には、色を感じる細胞が赤緑青の3種類しかない。だからこの3色の組み合わせで、様々な色が見えるのです」
と滝川氏。
白色に見えるのは、人間の脳が白色と判断しているから。その一例として、滝川氏は「眼の錯覚」を引き起こす写真を見せた。それは、広大な地表に描かれた絵。土砂が鳥の形に盛られ浮き彫りになっている。
ところが、この写真を上下逆さまにしてみると……。なんと、同じ鳥の形が今度は凹んで見える。これは、「光はいつも上から当たる」と脳が考え、その影から凹凸を判断しているためだそう。
「この錯覚は、人間の脳ならでは。コンピュータでは真似できません。僕は子どもたちに、『自分の脳をいくらだったら売ってもいい?』とよく聞くのですが、人間の脳は数千億円するスーパーコンピュータよりもずっと高性能。何兆円積まれても売っちゃだめだと言っています」
と、滝川氏は参加者の笑いを誘った。
他にも、光に関する様々な実験が実演された。LED、蛍光灯、白熱球の光を偏向フィルター(100円ショップで購入したスマートフォンの画面保護シールを活用)を通して見ると、見え方が異なること。それは、それぞれ光を出す方式の違いに由来することを、わかりやすく説明してくれた。
また、セミナー参加者にもビー玉やLED電球、ボタン電池等の材料が配られ、ミニプロジェクターを作る実験も行った。ビー玉の後ろから光を当て、文字が書かれた透明なフィルムを光とビー玉の間にかざすと、文字が大きく映し出されるというものだ。
「白い光は個性がないように見えますが、実は強烈な三原色で作られています。人間も同じで、一見没個性に思えても、よくよく観察してみると強烈な個性を秘めている。先生方には子どもたちをよく見てあげてほしいと思います」
と、滝川氏は会場の参加者たちに訴えた。
全国に広がる「理科読」の取り組み
続いて、福岡大学理学部教授の平松信康氏が、福岡を中心に行っている理科読の普及活動の歩みについて、講演を行った。
平松氏が所属する応用物理学会は、1997年から「リフレッシュ理科教室」を毎年開催している。子ども向け実験工作講座だけでなく、理科の楽しさを伝える授業例等を紹介する小中学校教諭向け講座も開いている点が特徴。理科教育をもっと盛り上げようと努めてきた。そのテーマも、光や宇宙、コンピュータ等様々で、九州や関東等で延べ200回以上も開催している。
さらにここ数年は、地域の図書館と連携したシンポジウム&ワークショップ「理科読のすすめ」もスタートさせた。これは、「読み聞かせ」と「理科の実験・工作」を組み合わせた啓蒙活動。今までは接点があまりなかった図書館司書と手を取り合うことで、科学者側も刺激を受けているそうだ。
「我々科学者は、実験工作のネタはたくさん持っていますが、絵本等子ども向け科学本の知識はほとんどありません。司書の方々が様々な本を薦めてくれ、私たちもとても勉強になっています」
また、図書館司書だけでなく学校司書の方も参加してくれるため、長年の懸案事項だった学校との接点づくりにも効果大だという。
「理科読は、理科教育に新しい風を運んでくれる、画期的な取り組みだと思います。今後も期待しています」。
展示ゾーン
[UCHIDA SCIENCE]1台で光学とデジタル両方の機能を搭載した新型顕微鏡
内田洋行が最新の理科実験器具を展示した「UCHIDA SCIENCE」コーナーも、多くの人々でにぎわっていた。
今年の目玉は、光学顕微鏡にデジタルモニターを搭載した、ハイブリッドな生物顕微鏡だ。
「一人で観察するときは光学顕微鏡として使い、グループ学習で使うときは搭載された5インチモニターで皆で観察するといった使い方を想定しています。またHDMI端子が付いており、付属のケーブルをつなぐだけで大型テレビにも映し出せます」
さらにSDカードも挿せるようになっており、静止画や動画の撮影・保存が簡単にできる。保存した画像を印刷したりPCに転送したり等、観察結果のまとめや振り返り学習に活かせそうだ。
特筆すべきは、その画像の鮮明さだ。会場のモニターにミジンコの様子を映し出してもらったが、触角等の細部はもちろん、心臓が脈打つ様子まではっきりと見えた。
「ご覧になった先生方も、『こんなにくっきり見えるんだ』と驚き、『これならスケッチしやすい』と感心していました」。
また会場では、カバーガラスを使わないスライドグラス「水たまグラス」も注目を集めていた。特殊な撥水加工を施した新しいスライドグラスで、微生物を顕微鏡の視野内に閉じ込めることができるので、スライドグラスを動かして微生物を追いかける必要がなくなり、また微生物が自由に泳ぐ姿を観察することができるというものだ。
写真:言美 歩/取材・文:長井 寛
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