2013.04.30
  • twitter
  • facebook
  • google+
  • はてなブックマーク
  • 印刷

勉強しない大学生、どうする?

勉強しない大学生、どうする?

第48回目のテーマは「日本の大学生は勉強しないことで有名。どうすれば勉強するようになるでしょう?」です。

大学の先生が勉強しないことを許している!?

日本の大学生は国際比較でも勉強時間が短いと指摘されています。なぜでしょう? 今月は、大学生が勉強しない理由と、その対策について考えます。

まず、日本の大学生が勉強をしないのは、大学の先生がそれを許しているからだと私は思います。私の経験上、アメリカやカナダの大学の先生は非常に厳しいです。講義に出席するのは当然のこと。たくさんの課題が出されるので、学生は予習・復習に多くの時間を費やさないと講義についていけず単位を取ることはできません。その上、最低取得単位数のラインが厳しいため、勉強のモチベーションは否応無しに高まります。たとえばスタンフォード大学は、1学期に履修すべき単位数をクリアできなければ1年間停学、つまり大学に来てはいけないというルールがありました。

私が日本の大学で教える時は、授業態度や出席数については厳格に指導しています。なぜなら私が大学からいただいている報酬は、親御さんたちが働いて払った学費が元。私もきちんと教える責任があるからです。そこで、参加型の授業にし、学生が「面白い!」と食いつくものにしました。おかげで出席数は上がり、学生はよく勉強するようになりました。

大学の先生が勉強しないことを許さない、という厳格な態度で臨み、かつ面白い授業を行えば、学生もそれに応え勉強するようになるのではないでしょうか。

大学入学までに親ができること

では、保護者には何ができるでしょうか。学びのモチベーションを上げるためには、将来の目標が明確であることも重要でしょう。勉強してみたい分野、就きたい仕事などについて、中学校や高校時代から親子で話す機会を持っては? 子どもの興味の方向性を探り、それはどんな分野・研究であり、そのためにはどんな知識やスキルが必要か、それを身につけるにはどの大学の学部が適しているのか……等々を一緒に考えるとよいと思います。

ところで、アメリカの大半の大学は、2年までは一般教養を身につけ、3年になって初めて専攻を決めるシステムです。8割の学生が、入学時の希望と実際専攻した学部が変わっているという調査結果もあります。つきたかった先生が期待通りではなかったり、一般教養を学ぶ中で、より興味のある分野が出てきたり、ということが理由のようです。

一方、日本では主に「大学に入ること」イコール「特定の学部に入ること」ですから、入学後、他の学部に編入するのは大変苦労を要します。大学の名前やレベルだけで選んでしまうと、実際に入った時に自分には合わないということもあり得ます。学びたい分野、師事したい先生、そして校風も含め事前のリサーチが非常に大切だということです。先輩を訪問したり、キャンパスを見学したり肌でチェックし、毎日通いたい場所かどうか確認しておきましょう。

我が家では子どもが高校2年の夏休みに、親子でアメリカの大学見学ツアーをします。本人が見てみたい大学にアポイントをとり、実際に行って自分たちの目で見てくるのです。30校くらい回るのでとても疲れますが、長男も次男もその中から自分の納得する学校を選んで入り、満足いく結果になりました。

大学に入ることの意義は?

学びの目的があると、入学後の勉強へのモチベーションが上がると書きましたが、では学びたいものがない人は大学に行く必要がないのでしょうか。私は、大学は行かないよりは行った方がよいと考えます。

大学では、勉強はもちろんですが、高校までとは違ってクラスのない環境で友だちづくりをしたり、親元を離れて一人暮らしをしたりなど、この時期にしかできないかけがえのない経験ができます。また、自分の意思で授業を選び、実際に受講して試験を受け、単位を取得するという経験を通し、自己責任について学ぶよい機会でもあります。

さらに、大学は「知識を得る所」というよりも、「知る術を学ぶ所」だと思います。高校までは学校が教えてくれたことを勉強すれば100点満点を取れますが、大学ではそうはいきません。「自分には知らないことが多い」ことを知る場所でもあるでしょう。

マイクロソフトのビル・ゲイツや、アップルの故スティーブ・ジョブズが大学中退者であることは有名です。この例からも、優秀な人というのは大学を出ようと出まいと優秀であることは明白です。ただ、色々な経験ができるという点で、大学に行くことは悪い投資ではないと思っています。行った先で後悔しないように、人生で一度の大学生活が、勉強もその他の活動も有意義なものになるように、保護者や教師の皆さんが子どもたちを支援してあげるとよいと思います。

構成:菅原然子/イラスト:あべゆきえ

※写真・文の無断使用を禁じます。

アグネス・チャン

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

pagetop