2013.09.03
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子どもの貧困、どう支援する?

子どもの貧困、どう支援する?

第52回目のテーマは「あまり知られていませんが、日本の子どもの約6人に一人は貧困状態です。貧困率は年々上昇傾向にあり、子どもの育ちに影響を与えています。どう支援すればよいでしょうか?」です。

支援を受けることは、恥ずかしくない

今年の6月19日に、「子どもの貧困対策法」が成立しました。「えっ、日本の子どもの貧困?」と実感のない方も多いと思いますが、実は2009年の日本の子どもの貧困率は15.7%(厚生労働省『平成22年国民生活基礎調査の概況―貧困率の状況』より)、約6人に一人の子どもが貧困状態です。しかも、一人親世帯では54.3%(同資料より)と半数以上が貧困状態とされ深刻です。この状況は、2012年5月にユニセフより出された報告書でも確認できます(『ユニセフ報告書「Report Card 10」―先進国の子どもたちの貧困』より<PDF>)。先進35か国中、日本はなんと9番目の高さの貧困率なのです。

貧困の及ぼす影響は、学校現場では3度の食事のうち給食しか食べられない児童がいたり、不登校の生徒の家庭が貧困状態だったり、学力の低下や無気力といったことに見られます。現場の先生方は、これらが子どもだけの問題ではないため、対応に苦慮されていると聞きます。

なぜ豊かな国と言われる日本で、子どもの貧困率が高いのでしょう。私たち大人は何をすべきなのでしょう。今月はこれらについて考えます。

子どもの貧困の原因の一つに、日本人の「人に迷惑をかけてはいけない」という文化があるのではないでしょうか。たとえば、親が経済的に困窮していても、恥ずかしくて福祉の支援を受けに行かない、行ったとしても生活保護費需給の条件の厳しさに限界を感じてあきらめてしまい、解決への道を自ら閉ざしてしまう。その結果、子どもまでもが貧困に陥ってしまう、ということが考えられます。

まずはここを克服しなければならないでしょう。生活保護費を申請する、子どもの就学援助を受ける、NPOなどのフードバンクに食糧の供給を申請するなど、使える支援や保障制度はしっかり活用しようとする、心の強い親であってほしいものです。心が強いというのは、周りに非難されたり、差別的な態度を受けたりしても屈せず、子どもの生活を満たすことを第一に考え行動する強さを持っているということ。そのためには、貧困家庭の近くにいる人が、あるいは社会全体が、「助けを求めることは決して恥ずかしいことではない」と伝え続けることが大事だと思います。

色々な人生の成功モデルを紹介する

貧困家庭に育つ子どもたちが、将来また貧困家庭を築いてしまうという負の連鎖があることは、貧困研究において知られています。この連鎖を断ち切るために、学校で子どもたちに「あなたたちは人生の敗者ではない。あきらめずに頑張れば、もっと楽しいことがあり、素晴らしい世界に生きられる」と伝えてはいかがでしょう。

たとえば、貧しい家庭の出身者でも努力して勉強し、大実業家や有名プロスポーツ選手になった人の伝記とか、挫折を味わい一度は人生をあきらめかけていた人が、奮起して資格を取り弁護士などの肩書を持つようになった実話とか、様々な人生の成功例を紹介するのです。できるだけ色々なケースがあるとよいでしょう。子どもがどれか一つでも自分の姿と重なれば、腑に落ちやすくなります。

ただ、現場の先生方は多忙なので、図書室にこれらの書籍を置いておくとよいと思います。特に、漫画で描かれた伝記であれば、勉強嫌いな子どもでも読む意欲がわくのではないでしょうか。朝の10分読書の時間にでも紹介してみてください。

十分な食事を与えることが対策の第一歩

子どもの貧困対策として、私が最も大事だと思うのは、良質な食事を十分に食べさせることです。貧困家庭に育つ子どもの中には、将来への希望や目標がなく、勉強にも運動にも意欲のない子がいるようです。このような無気力の大きな原因の一つが、成長期に必要な栄養をきちんと食事からとれていないことです。

学校給食が“命綱”、つまり1日のうちの唯一の食事という子どもがいますが、その原因は虐待だけではなく、貧困にもあることを忘れてはなりません。極端に食べるのが早い、長い休みの後には激しくやせているなど、食事が十分にとれていない兆候が見られる場合には、学校で補助的な食事を与える必要も出てきます。そのような対応策が整備されていなければ、学校現場で実態について声を上げていただければと思います。声が多ければ社会全体が問題に気づき、解決策を模索するようになるのではないでしょうか。

また、貧困が原因で不登校になった子への対応は、学校の先生方だけでなく、地域ボランティアを利用するのはどうでしょうか。近所の方々が話を聞きに来てくれるだけで、子どもも少しは前向きになれるかもしれません。その際、おにぎりなどの食品を持参して一緒に食べるようにすれば、食事の改善も同時に図れるのではないかと思います。

子どもは生まれてくる家庭を選べません。親に生活を立て直そうという気力がなかったとしても、その子どもには罪はありません。子どもはきちんと食べて寝れば、通常は心身共に健康に育ち、学習意欲もわくものです。貧困家庭に育つ子どもには、家庭以外の大人が支援すること、特に食に関しての支援を充実させることが、対策の第一歩ではないかと私は考えます。

構成:菅原然子/イラスト:あべゆきえ

※写真・文の無断使用を禁じます。

アグネス・チャン

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

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