教員をしていると、教材を選ぶ目的や日々の教材研究で、さまざまな教科書や教材に目を通す機会があります。
毎日使う教科書だからこそ正しい英語が使われてしかるべきはずなのに、読み込めば読み込むほどに英語として不適切な表現、説明に出くわすことがあります。
ただ英語を日本語に表面的に置き換えているだけでは気づかないものも多くあります。
そこで教員の英語力が問われるわけです。
今回は最近教材研究をしていて気になった英語表現を取り上げ、何が問題かを考えてみたいと思います。
事例1
古い語法ライティングの授業で使っている教科書に次のような例文が載っていました。
Her marriage with [to] my brother (cf. She married my brother.)
Cf.の例文が示すように通例、動詞(この場合、marry)の後には目的語が来ますが、それを名詞化すると(この場合marriage)適切な前置詞が必要になります。
Marriageに関していえば、withもしくはtoを使うようにという指示が出ています。
これでは、どちらでも同じ意味で使っていいかのような錯覚を抱きます。
しかし実際には、圧倒的にtoの方が多く、withを使った例文を乗せているものは、主要な辞書を調べた限り、『ジーニアス英和辞典』ぐらいです。
母語話者にも確認しましたが、withが使われるのは古い時代の英語でなら見られるのではないだろうかと言っていました。
最近は辞書編集に多量の英語を集めたコーパスが欠かせなくなっていますが、コーパスにあるからと言って何でも用例に乗せるのは教育的な観点から見れば効率的ではないと思います。
また、教科書もどちらの表現も同じように使えると指導書にしているのは、調査が不十分ではないでしょうか。
多くの教員が、間違った情報を伝えることになりかねません。
事例2
文法的には問題がないが、文としての流れが不適切な場合コミュニケーション英語Ⅰで使っている教科書で次のような文章がありました。
The piano is Nobu’s great love.
He especially likes Debussy, Chopin, and Beethoven.
He plays jazz, and once had a chance to meet the popular musician Stevie Wonder.
この段落は辻井信行さんがピアノがとても好きであることを述べたものです。
文法的には何ら問題はないのですが、文が進むにつれ、この段落の主題と関係のない話へと展開していきます。
最初のうちは、ピアノが好きで、それと関係のあるクラッシクの作曲家が出てきているので話の内容に矛盾する点はありません。
ピアノでジャズを弾くこともあるので問題はありません。
しかし、ジャズとスティービーワンダーはいったいどのような結びつきがあるのでしょう。
これを読んだだけでは、スティービーワンダーがジャズを歌っているかのように思えますし、ピアノが好きであるというこの段落の主題とは全く関係ないのではないでしょうか(目が不自由な音楽家という主題の部分で、取り上げてしかるべき話です。)。
指導書は基本的に文と文の結びつき(結束性)について説明することはあまりないので、この件に関してどのような意図で書かれたのかはわかりません。
語法の問題にせよ、結束性の問題にせよ、教科書に書かれていることを疑って、綿密な教材研究がなければ、誤った情報を伝えかねません。
今回例に挙げたものと同じ教科書を使った全国の英語の先生はいったいどのような説明をしたのでしょうか。
どうせ使うなら正しい英語が使われた教材で勉強したいものです。
何のために教科書検定や母語話者によるチェックがあるのでしょうか。
形骸化しているようにしか見えません。
神戸 崇寛(こうべ たかひろ)
駿台学園高等学校 英語科教員
英語の文法に興味があり、大学院で研究してきました。2011年より現勤務校。日々英語を教えながら学び感じ取ったことをお伝えし、 皆さんと共有していきたいと思っています。
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