新カリキュラムになって、テスト問題にも変化の兆しが見られます。今、勤務校の教科会で議論しているのは、定期試験にリスニングテストを導入する試みです。大学入試でも、上智大学や英検協会が中心になって4技能を意識したTEAPという共通テストを導入しようとしており、入試に向けてこれまでと違った対策方法が求められています。
まず、定期考査にリスニングテストを導入することについてですが、これまでの定期考査は、授業で扱った本文を中心とした読解力を試すものがほとんどだったので、読解力以外の技能も意識した内容に変えようとする試み自体は評価されてしかるべきものだと思います。そもそも、生徒の中には本文の日本語訳を覚えてきて試験対策をする者もいるので、既出の本文を使って考査問題を作ったところで、読解力を測れているとはいえない部分もあります。ですから、私が試験問題を作るときは必ず所見の問題を取り入れるようにしています。それは模試や入試問題と定期考査を比べるとわかることですが、授業で触れた英文だけでは圧倒的に量が少なく、長い文章を読むこと自体に慣れていない場合があるからです。(これは、英語に限った話ではないのですが。)このように、現状でも考査試験に問題がないわけではないが、そこにリスニング試験を課す動きがあります。そこでいくつかの問題が生じてきます。例えば、以下のようなことが考えられます。
(1)問題の素材はどこから持ってくるのか
(2)実施方法はどのようにしたらよいのか
(3)試験のために授業中にはどのような取り組みをするのか
(4)リスニング試験をすることで生徒の能力の何を見たいのか
(1)の問題は教科書付属のリスニングテストを使うことで回避できるでしょう。毎回、リスニング試験の原稿を作り、ネイティブスピーカーに録音をお願いするのはなかなか負担が大きいです。ただし、素材の英語が自然なものかは検討する必要があります。
(2)の問題は、現在の学校状況では学年ごとに教室の階が分かれているわけではないので、一斉放送をすることがきません。また、コースによって使用する教科書が異なるために一斉放送ができません。そこで、現在検討されているのは、各教室にCDデッキを持ち込んで行う方法ですが、これもまた問題があります。試験監督の先生に放送をお願いするのか、教科担当の先生が各教室をまわって音源を流すのか。前者の場合、監督の先生に事前に機械の操作方法を指示しておく必要があり、後者の場合、ある教員が複数のクラスを担当している場合同時に試験を行うことができない問題があります。試験時間や問題の量も考える必要があり、現行の試験制度と大きく変更を求めるものであっては試験の実施に大きな足かせとなります。
(3)仮に上記の問題が解決されて、試験にリスニング試験を導入したところで、普段の授業で何もしていないのに試験に際してだけリスニング試験を課すのは矛盾していないだろうか。音声を意識した授業をどのように行っていくのか、そのカリキュラムを組み立てていく必要があります。英語の教員といえども、音声学に関する深い知識がない場合、音の結びつきや、脱落に関して十分な指導ができませんし、現在のクラスの人数からして個人個人に丁寧な指導をしていくことも難しいです。
(4)リスニング試験を行ったはいいが、ただ採点して終わりでは何も得るものがない。特にリスニング試験は多肢選択の問題が多いわけだから、勘で当たってしまう可能性が多くあります。結果の分析が必要になるのではないでしょうか。成績のつけ方も読解とリスニングの比率はどのようにするのか検討する必要があります。
私が大学受験の時に初めてセンター試験にリスニングが導入されました。その時から今でも機械のトラブルをはじめとして実施に関する問題が絶えません。また、リスニング試験のために何か大きく英語の授業方法が変わったようにも見受けられません。何か一つ新しいことを始めようとすると、いかに難しいかが身に染みてわかります。だからと言って現状維持では何の進歩も見込めないので、他校での取り組を参考にしながら、最も良い方法を探していきたいと思います。
神戸 崇寛(こうべ たかひろ)
駿台学園高等学校 英語科教員
英語の文法に興味があり、大学院で研究してきました。2011年より現勤務校。日々英語を教えながら学び感じ取ったことをお伝えし、 皆さんと共有していきたいと思っています。
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